母の衝動④

文字数 1,407文字

やっと自宅の前にたどり着くと数時間前の出来事を思い出しただただ未だに取り乱していた。 
「ただいま」玄関のドアを開け、俺は、うつ向きながら言うと
「あら!お帰りなさい!進!早速だけど、これを見て!」 
と言いながら何かの雑誌の記事を指す、母さん
「まさか、俺が知らないあいだにまた、応募したの?」 
その記事はタレントオーディション募集記事で、母さんは、とにかく男性アイドルオタクで、俺にその道に行って欲しいのは明白だ。 
「うん♪応募したよ!進なら身長168あるし、何より美男子だから、今度こそ書類選考通る自信あるのよ!」 
「俺、無理だから、母さん!いい加減、諦めてくれ!これ、見て!病院での精密検査の結果だよ」 
と言って母さんに紙を渡す。 
「真性半陰陽?って何これ?」 
「▪▪▪」  
暫く言葉を詰まらせてからようやく切り出して
「男性性器と女性性器両方持ってる性疾患だよ!因みに男性機能は動いてないんだって、それと、母さん!信じられないかも知れないけど俺、生理中なんだよ!流石に鎮痛剤の効果薄れてきてるようで、また、あちこち痛いし、」 
母さんは、青ざめた顔になり
「は?何言ってるの?だから喜代美ちゃんと別れたってことなの?あんなに好きだって言ってたじゃないの?」 
「実は、好きだけど意味が違う好きで、正直に言うと俺、他に好きな奴いるし、喜代美のそばにいても、全然、感じないし、当たり前だよな!ほんとは女なんだから、だからそのオーディション無理だよ!どうせ、また男性に○つけて出したんだろうから」 
「進?好きな人って誰なの?」  
「別に、誰だっていいだろ!母さんには、言いたくないし、いずれわかるよ」 
「男性アイドルオーディション、大丈夫よ!胸ないから誤魔化せるわ!」 
「そういう問題じゃない!母さん?わからない?今は、そうでも、先生には徐々に女性ホルモンの影響で、そのうち胸も膨らんでくるって言われたよ!俺、母さんには、今まで言ってなかった事があるんだ!自分の性別にずっと違和感を感じてたんだよ!ようやく謎が解けて俺は、凄く嬉しい筈なのに、凄く戸惑ってる!」 
「悩みってそれの事なの?」 
「うん!かなり勇気が必要だと思うけど、こんな中途半端でいるよりか女として人生やり直すのもありかなって思って、先生には、次回、病院行くときは親同伴でって言われてるしね」 
「喜代美ちゃんは、この事、知ってるの?」 
「知らないよ!ただの腹痛だと思ってるよ!アイツには知られたくない」 
「好きな人には、打ち明けるの?」 
「打ち明けたいけど言える自信正直、ないよ!逆に気持ち悪がられて嫌われたらと思うと凄くこわいよ!」 
「わかったわ!もし書類選考通ったとしても断るわね!なんか凄く勿体ない気がするけど」 
「ありがとう!助かるよ、ところで母さん?鎮痛剤ない?またあちこち痛いよ!この状態ってあと何日続くの?」 
「多いときは一週間、少ないときは3日か5日くらいかしらね」 
「そんなに?じゃああと6日ってこと?暫くダンス休むよ」
「そんなに多いの?」
「睾丸の中まで回ってるらしいよ!先生は一刻も早く男性性器切除した方が良いって言うけど、めちゃ痛そうだよね」
「鎮痛剤なら早香(はやか)が持ってると思うけど」 
早香は、ひとつ下の妹の名前だ。
「わかった。早香にも知って欲しいから行って来るよ」
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