第3話 一人きりの私

文字数 1,416文字

 バーン!
 ガララララン!

 と大きな音とともにドアが開き、ベルが『これでもか!』というほど鳴り響いて、私は今の子たちが入ってきたのかと驚いて入り口を振り返った。

「たっだいまー!」
「お帰りなさい。あのね、もう少し静かに入ってこられないのかい?」
「だって~。外は暑いんだもん!」
「……暑いのは関係ないでしょう?」

 入ってきたのは同年代の女の子だけれど、さっきの子たちとは違う。
 地元や学校の子たちとも違って、どこか垢抜けた感じがする。
 それに、ただいま、っていうことはこのお店の子?
 それとも、バイトの子なのかな?
 どっちかわからないけど知らない子だ。ホッとしていると、女の子が私を見た。

「あっれ~? 珍しいね。私と同じ歳くらいのお客さん? いつもはオジサンやオバサンばっかりなのに」

 目が合ってしまったうえにこんなふうに言われたら無視するわけにもいかなくて私はちょっとだけ頭を下げてから、カバンから取り出した教科書に視線を落とした。
 女の子はマスターに呼ばれ、カウンターの向こうに消えた。
 ガラスにそれが映ったのが見えて、私はもう一度、ホッとため息をついた。

 また店内が静かになる。

 どうやらバイトの子らしい。
 私が知らないだけで、いつもはもっと他にお客さんがくるんだな。
 そうじゃなければバイトなんて雇えないだろうし、必要ないと思う。
 開いた教科書の中身がまるで頭に入らず、今度は外のランプに目を移した。

(真ん中の電球ってば満月みたい)

 淡い黄色の明かりに月を思い浮かべた。夜空に薄い輪を描く神秘的なそれとは違って、このランプは優しく身近に感じる。
 また、通りを女の子たちが通り過ぎていく。私は本を読むふりをして下を向き、上目づかいにそっとその姿を見送った。

 線路に近いからなのか、どうやら防音がしっかりしているらしく、電車の通り過ぎる音も、通りを行きかう車の音も聞こえない。
 女の子たちが楽しそうに笑い合っている様子がわかるだけ。
 話しをするのは嫌いじゃない。でも得意なわけでもない。笑うのは好きだし、楽しいのも好き。

(だけど……)

 さっきの女の子みたいに明るくてオープンな感じは苦手でもある。
 ニッコリ笑って近づいてきて、実は何を考えているのかなんてわからないじゃない?
 優しそうに『どうしたの?』なんていっておきながら、人の悩みを腹の底では笑ってるかもしれないじゃない。

 そんなふうに、人を最初から疑ってみてしまう自分に嫌気がさすけれど、それもしょうがない、って考えるようにしている。
 今、私の周りにいる、多分仲のいい関係の子たちは、同じ思いを持っていると最近知った。
 誰からともなく話したときには、みんなで笑った。同じだったね、そう言いながら苦笑いをした。

 良く考えてみると、休み時間には何となく一人でいるタイプばかり。
 誰とでも話しをするけど、特に誰かと仲がいいわけじゃなく、トイレに行くときも一人。お昼も何となく、屋上や中庭で一人。
 たった数十人しかいないクラスの中で、私たち三人は、何かをするとき以外はいつも一人だった。

 一緒にいれば楽しいし、ときどきは一緒にお昼を食べることもある。周りから見たら、私たちはきっと友だち同士と言われるんだろう。
 それでも私たちはお互いを

『ただの仲良し』

 と言い合った。何となく……ただ何となく。

 ……ううん、違う。

 ホントはみんな、意識している。
 私たちは、友だちなんかじゃない、と。
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