第1話 私の地元

文字数 1,170文字

 友だちなんて、面倒くさい。
 私は友だちなんていらない。

 いつもそう思っていた。
 一人でいることは苦痛じゃなかったし、好きなことができると思えば、むしろありがたいとも思えた。
 もちろん、仲良くしてる、って言える子も何人かいるけど、友だちだよ、なんて言えるほど親しくもない。
 グループで何かをしなきゃいけない、そんな時に一緒にいるだけの間柄。
 だから、それ以外のときには、だいたい一人。

 いつだったっけ。
 誰かに言われたことがある。

「ねぇ。コイちゃんってさぁ、いつも一人だよね。一人が好きなの? でも時々、さみしそうに見えるよね」

 コイズミだから、コイちゃん。昔からずっと、そのあだ名だった。
 まぁ、それは置いといて……。

 そんな風に見える?
 私が?
 私は友だちなんていらない。さみしくなんか……。

 教室の真ん中、一番うしろの席で私は本を読みながら、前のドアの近くに陣取る女子グループの、楽しげな笑い声を聞いていた。
 そりゃあ私も時々は、あんな風に言いたいことを言って笑ったりしてみたい……って思ったりもするけど……。

(――バッカみたい)

 たった今、そんなことを考えたのがバカらしくて、口もとが引きつった。
 ホームルームが終わり、放課後、私は早々に席を立ち、学校を飛びだした。学校から駅まではそんなに遠くない。
 少しだけ急ぎ足で歩き、同じ学校の生徒たちをどんどん追い抜く。
 学校帰りはいつも、塾かバイト。地元の駅にはバイト先もほとんどないし、塾も小さな個人塾だけ。
 どうせ学校には大きな駅に行くんだからと、親に頼んで学校の最寄り駅で塾とバイトを選んだ。
 そのせいで帰りはいつも遅い時間になってしまう。
 今のところは無遅刻無欠席。だから少しくらい遅くても両親も文句をいうことはない。

 今日も塾が終わっていつものように単線の電車に乗り、真っ暗な景色をぼんやりと眺めた。
 ぽつぽつと見える明かりが、駅に近付くたびに増えては減り、減っては増える。それが四度目の時、カバンを肩に掛け直した。

「○○駅~、○○駅です」

 なぁんにもない駅。
 星だけはやたら見える夜空と、夜なお響くカエルの鳴き声。
 線路沿いに続く短い白樺並木と、ちょっとの商店街と、その明かり。
 小さく囲われた砂利の中に無造作に止められた中から、自分の自転車を取り出してくると、私は商店街を見た。

 丸太作りの山小屋のようなお店。そしてやたらと大きなランプ型の照明。
 その明りはいつもやわらかくて優しくて、私はいつも遠回りになるのに、商店街を通って家に帰った。

 今日はほんのりと、コーヒーの香りがする。お店の前を通るとだいたいコーヒーの香り。
 時々ココアだったり、紅茶だったりするけれど、普通、喫茶店ってこんな風に表まで香りがするものなんだろうか?
 そんなことを考えながら、私はペダルをこいだ。
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