第14話 交差点

文字数 1,308文字

 オーちゃんの家から戻って、結局、眠れないままに学校へ行く支度をした。家を出たのはいつもより少し早目。
 すれ違う同級生たちの目が、どこか冷めている。あいさつも、いかにも義理で言っているような印象を受けた。

 原因はわかってる。

 まぁ、カズちゃんの話しだろうな、と。
 もう関わり合うこともないから、今さらたいして気にはならないんだけど、今日は違う。
 オーちゃんとカナちゃんと、複雑な思いを抱え合ってしまっただけに、私自身の一つのつまづきが、全部に影響しちゃうんじゃないか。
 そんな気持ちにさせられる。

 今、私にとって大切なのは、ここですれ違うだけの子たちじゃなくて、オーちゃんとカナちゃんのことだ。
 今日は二人に話したいことがある。

 私はいつもよりスピードを出して自転車をこいだ。
 さっさとみんなの間を、通り過ぎてしまいたいから。
 十字路が見えてきた。信号が変わりそう。
 今日はオノくんの姿もみえない。私が早めに出ているんだから、当たり前だろうけど……。
 信号が点滅を始めた。私はペダルを強く踏んでスピードを増し、交差点の真ん中に差し掛かった。

 走りながら何となく視線を横へ移した瞬間、オノくんがこっちに向かっていることに気づいた。
 急いで渡りきってしまえば、顔を合わせなくて済みそうだ。立ち上がって、ペダルを思い切り踏んだ。点滅をしていた信号が赤に変わった。
 いつもは、そうすぐに車は動きださない。

 それなのに――。

 今日にかぎって、左折したトラックが、勢い良く曲がり込んできて、私は逃げ場もなく――。

 人はどんな格好になっても、目を開いていると、ちゃんと景色が見えるみたい。
 オノくんの驚いた顔がさかさまにみえた。
 次の瞬間、凄い痛みが襲ってきて、私は――。
 私は、どうなったんだっけ――?

 よくわからないけれど、私は昔の友だちに、それはもう、素晴らしい話題を提供したことだろう。
 きっと、友だちなのに、カズちゃんに協力しなかった罰が当たったと、友だちをないがしろにするから天罰だと、みんなそういうに決まってる……よね。
 自分たちが私に対してしてきたことのほうが、よっぽど罰があたってもいい行為だった、ってあたりは考えもしないで。

 あ~あ……。
 今日は学校で、昨夜の態度をちゃんと謝った上で、これからは用事がないかぎり、困ったときには手を貸すからと、オーちゃんに伝えたかったのに。
 仲良しで、大切な友だちだと思うから、本当に困っているときや悩んでいるときには、力になりたい、って。
 なにかを頼むときや謝るときのためじゃなく、大切だと思うからこそ、その必要があるときはそう呼びたいと。

 カナちゃんにも、同じように……。

 真剣に伝えれば、きっと通じると思う。そういうとき以外にはこれまで同様、ただの仲良し。それで十分なんだから。

 なのになぁ。
 私ってタイミングが悪いよね。結局言えないままで、三人とはもう会えなくなっちゃうのかも。
 ……三人?
 オーちゃんとカナちゃんと……あと一人……。

(あぁ、そうか……オノくんだ)

 どこをどう打ったのかもわからないほど、あちこちが痛んで、私はひしゃげた自転車を眺めてから、目を閉じた。
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