第5話 魔法の言葉
文字数 1,175文字
なんか変だ、そう思い始めたのは席替えのときだった。
「あのね、私、目が悪いから席をかわってほしいんだけど……」
クラスの中でも大人しくて、いつも一人でいるササキさんに、そう言われた。
私が前から二番目で、彼女は三番目。
一個席を移動したからって、なにがそんなに変わるのかわからないけど困っているなら、と思って、かわってあげた。
そうしたら隣の席は、私が好きだと日記に書いた幼馴染のオノくんだった。
教室の後ろのほうから、含み笑いが聞こえた気がする。
あまり話しをしなくなったといっても、もともとが幼馴染で一緒に遊んだ、いわば友だちだから、席が隣になれば話す機会も増えた。
給食の時間も、私が嫌いなものを残すと横から箸をのばしてくる。
そのたびに、色めき立つようにクラスの女子がヒソヒソと話しを始めるのがわかった。
あるときには掃除当番のごみ捨てを二人でさせられ、別なときには突然誰かに後ろから突き飛ばされて、オノくんに抱きついてしまった。
キャーという女の子たちの悲鳴と冷やかしの言葉。それが何度も続き、だんだんと嫌な気持ちになりかけてきたころ、オノくんのほうが先にキレた。
「おまえら! ふざけんな! 俺はこんなヤツのコトなんて好きでもなんでもねーんだからな!」
「なによ! 私だってアンタなんか大っきらいなんだからね!」
こんなヤツ。イライラしていたせいで、私も負けずに言い返す。
結局、大声でののしり合って腹を立て、それ以後は口をきくこともなくなった。
休み時間になって友だちみんなで連れ立ってトイレにいくと、誰もかれもが私になぐさめの言葉をかけてくれる。
嬉しいような迷惑なような、複雑な気持ちになった。
放課後になって、カズちゃんがノートを持って私に言った。
「コイちゃん、ごめんね! 私がうっかりコイちゃんがオノくんのこと、好きなんだって話しちゃったんだ」
「えっ?」
「ごめんね、ホントにごめん! でもさ、
「……うん、いいよ」
「ありがとうー! コイちゃんならそう言ってくれると思ってたんだ。コイちゃんと友だちで良かった~」
両手を合わせて拝むみたいにして謝るカズちゃんを責める気持ちにはなれず、友だちだもんね、そう言われると怒る気持ちにもなれず、私はカズちゃんを許した。
思えば、それが最初だったかもしれない。
その後も、何度か似たようなことがあった。そのたびに、友だちたちは、みんな同じことを言う。
「
「私たち、
「ねぇ、だって
――ダカラ、イイジャナイ?
――ネェ、ユルシテクレルヨネ?
ある日の放課後、私がササキさんと掃除のごみを捨てにいった帰り、教室でみんなが私とカズちゃんの交換日記を回し読みしていると知ってしまうまでの長い間、それは魔法の言葉だった。
「あのね、私、目が悪いから席をかわってほしいんだけど……」
クラスの中でも大人しくて、いつも一人でいるササキさんに、そう言われた。
私が前から二番目で、彼女は三番目。
一個席を移動したからって、なにがそんなに変わるのかわからないけど困っているなら、と思って、かわってあげた。
そうしたら隣の席は、私が好きだと日記に書いた幼馴染のオノくんだった。
教室の後ろのほうから、含み笑いが聞こえた気がする。
あまり話しをしなくなったといっても、もともとが幼馴染で一緒に遊んだ、いわば友だちだから、席が隣になれば話す機会も増えた。
給食の時間も、私が嫌いなものを残すと横から箸をのばしてくる。
そのたびに、色めき立つようにクラスの女子がヒソヒソと話しを始めるのがわかった。
あるときには掃除当番のごみ捨てを二人でさせられ、別なときには突然誰かに後ろから突き飛ばされて、オノくんに抱きついてしまった。
キャーという女の子たちの悲鳴と冷やかしの言葉。それが何度も続き、だんだんと嫌な気持ちになりかけてきたころ、オノくんのほうが先にキレた。
「おまえら! ふざけんな! 俺はこんなヤツのコトなんて好きでもなんでもねーんだからな!」
「なによ! 私だってアンタなんか大っきらいなんだからね!」
こんなヤツ。イライラしていたせいで、私も負けずに言い返す。
結局、大声でののしり合って腹を立て、それ以後は口をきくこともなくなった。
休み時間になって友だちみんなで連れ立ってトイレにいくと、誰もかれもが私になぐさめの言葉をかけてくれる。
嬉しいような迷惑なような、複雑な気持ちになった。
放課後になって、カズちゃんがノートを持って私に言った。
「コイちゃん、ごめんね! 私がうっかりコイちゃんがオノくんのこと、好きなんだって話しちゃったんだ」
「えっ?」
「ごめんね、ホントにごめん! でもさ、
友だち
だもんね? 許してくれるよね?」「……うん、いいよ」
「ありがとうー! コイちゃんならそう言ってくれると思ってたんだ。コイちゃんと友だちで良かった~」
両手を合わせて拝むみたいにして謝るカズちゃんを責める気持ちにはなれず、友だちだもんね、そう言われると怒る気持ちにもなれず、私はカズちゃんを許した。
思えば、それが最初だったかもしれない。
その後も、何度か似たようなことがあった。そのたびに、友だちたちは、みんな同じことを言う。
「
友だち
だもんね?」「私たち、
友だち
だよね?」「ねぇ、だって
友だち
でしょ?」――ダカラ、イイジャナイ?
――ネェ、ユルシテクレルヨネ?
ある日の放課後、私がササキさんと掃除のごみを捨てにいった帰り、教室でみんなが私とカズちゃんの交換日記を回し読みしていると知ってしまうまでの長い間、それは魔法の言葉だった。