パニュキス その5

文字数 452文字

「ああ、パニュキスをかくした木々を、キュモンはどんなににくんだでしょう。
 パニュキスの笑い声にさそわれて、キュモンは、湖までいきました。
 けれども、湖についてみると、パニュキスはいません。

 キュモンは、じっと水を見つめました――
 が、さざなみひとつ、たっていません。
 でも、キュモンは、水をにくみました。
 この水は、何をかくしているのでしょう。

 日光が、ひとすじ、ウバメガシの枝をとおして、キュモンのゆく道の上を照らしています。
 キュモンの目は、おそれながら、にくみながら、
 その光をつたって、上を見あげました。

 きゅうに、キュモンは、
 じぶんが世界じゅうを――
 これまで、パニュキスのためにふかく愛してきた、
 すべてのものをにくんでいることに気がつきました。

 木も、花も、光も、水も、
 キュモンのおそれる神の宿っていそうなすべてのものをにくんでいることを。

 どうしてキュモンは――
 たとえ、パニュキスのためだとはいえ――
 パニュキスが愛した、これらすべてのものをにくみ、しかも、生きていかれるでしょう」
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