第1話

文字数 1,256文字

スコットランドにしんしんと降る雪の量は、イタリア出身の少女の想像をはるかに超える。
天井を見上げると、目を開けていられないほどの大粒の雪の結晶が少女の顔に降り注ぐ。
「この寒さには未だに慣れないわ・・・」
イタリアのフィレンツェからやってきたクリスティーンには、未だこのスコットランドのエジンバラの地は「ハリー・ポッター」の通うホーグワーツ魔法学校のようなものである。
まだどこか故郷と呼べない節を持っている。
それまで橙色の屋根一色で統一されたルネサンス様式の建築が並ぶ陽気な人たちが暮らすフィレンツェで過ごしたクリスティーンには、このロードオブザリングで見たようなブリトン人的な重々しく背の高い建築が並ぶ真面目でシャイな人たちが暮らすエジンバラは、「不思議の国のアリス」が迷い込む少しおかしな世界に感じられた。
窓の外の薄明るい街灯を見つめた後、アリスは自分の家の車が学校の前で待っていることを確認し、友人に手を振って、学校の門の方へ歩き始めた。

学校の前にメイドが乗ってきた車に乗り込む。
「今日はどうでしたか?お嬢様(マイ・フェア・レディ)」
この「お嬢様」という表現がどうもクリスティーンには歯がゆくて仕方がない。
というのも、このメイドはイギリスに来てからの付き合いで、掃除や家事以外は特に話す機会もあまりないので、クリスティーンは彼女にも未だによそよそしい。
「いつも通りよ、ステラさん」
彼女は車に乗り込んで、早速手を暖房のエアコン口で温め始める。
彼女は手を温めながら、
「こんな手を温めるよりも、かじかんでも良いから、友達とお茶しに行きたいのに・・・」
というのが彼女の本音である。
いじめられているわけでも、話をする友達がいないわけでもない。
ただ、彼女は学校の外でも声を掛けられる友達がいないことを憂いている。
クリスティーンは車の窓をぼんやり眺めていると、
不思議な光景を見つけた。
「ステラさん!停まれたら車をその辺で停めて!」
急な発言にメイドのステラさんはびっくりしたが、冷静に車のブレーキを徐々に踏んだ。
「お嬢様、どうされました?バスルームでも行きたくなりましたか?」
「いえ、ステラさん、あそこ見て!」
クリスティーンの指差した方向には高い塀に女の子が一人ぶら下がっていた。
クリスティーンとステラさんは、車を降りてすぐにその塀の下に向かった。
「どうしましたー?」
クリスティーンが声をかけるが、反応がない。
その女の子は必死の表情を浮かべている。
クリスティーンは手を伸ばしたが手が届かない。
代わりにステラさんが背伸びをして、手を伸ばすとようやく、その女の子を捕らえることができた。
ステラさんが女の子を抱えて、地面に下ろすと、女の子は
「ありがと・・・」
と小声で言った後、意識を失った。
女の子が倒れそうになった瞬間、クリスティーンは慌てて彼女を押さえた。
「ステラさん、救急車!」
「はい、お嬢様!」
すぐにステラさんは救急車を呼び、女の子は病院に運ばれた。
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