第7話

文字数 2,487文字

家に帰るとまずシャーロットが飼い主を待ち構えていた犬のように飛び出してきた。
「あ!クリスティーンおかえり!待ってたよ!」
クリスティーンは思わずにやけながらコクリと頷く。
急いでクリスティーンは玄関に踏み入れると、シャーロットの後ろにでっかい影がいるのに気づいた。
クリスティーンの母は不適な笑みを浮かべながら、手招きしている。
クリスティーンは思わず、またため息がこぼれた。
「それで、何かわかったの?小さな探偵さん?」
クリスティーンはテーブルの席について
「あくまで仮説だけどね・・・」
と冷たく言い放った。
クリスティーンの母はあえて娘から目を逸らし、紅茶を入れる茶器を取り出した。
「ショッピングモールの開発計画を起こした人物はわかったわよ」
クリスティーンの母は、鼻歌を歌いながらそう言った。
クリスティーンは瞬時に立ち上がって、
「え、誰なの!」
と尋ねた。
そこへシャーロットも遅れてやってきて席についた。
「ねえ、シャーロット、同じ学校に『ニクソン』って名前の子いない?」
シャーロットの顔が曇った。
クリスティーンの母は『やっぱり・・・』という表情を見せたのをクリスティーンは見逃さなかった。
「お父さんの調べによると、どうもアメリカ西海岸で財産を気づいたベンチャー投資家みたい。彼は最近になってこのイギリスにやってきたようなの。ヘッドクウォーターは、ロンドンにあるけど、彼はこのエジンバラにいるそうよ。名前はハーパー・ニクソン。特に中国系の会社に投資して成功しているみたい。娘さんはシャーロットと同じ学校に通っているそうよ」
クリスティーンは茶菓子に手を伸ばした。
「ねえ、シャーロット、ミセス・ユリコ・ドウグラス教頭先生ってあなたの学校にいる?」
シャーロットはまだ下を向いたままだが、小さくうなづいた。
「ドウグラス教頭の記事を見たわ。変ね、普通あなたの学校は少なくともイギリス国内の大学で教頭になるには修士号が必要なはずなのに、彼女はイギリス国内で学士号をとっていないで、インドで学士号をとってる。しかも修士ではなく、持っているのは学士。どうも変だわ」
クリスティーンが虫眼鏡を再び取り出すと、シャーロットは顔を上げてその虫眼鏡を不思議そうに見つめた。
クリスティーンの母は茶器を持って、テーブルにやってきた。
そして、紅茶を器に注ぎ始めた。
シャーロットは小さくお辞儀をした。
「ミセス・ドウグラスの旦那さんはインド出身のエンジニアでシリコンバレーでも重要なポストを勤めていた様よ。彼も3年前からこのイギリスに来たみたいなの」
クリスティーンの母がそう語った。
クリスティーンはそれを聞いて、すぐにスマートフォンを取り出した。
クリスティーンの夢中で何かを調べている様子をシャーロットはただただじっと見つめた。
「でも、妙な点はいくつか見つかったのだけど、つながったわけではないのよね・・・」
クリスティーンの母は腕を組みつつ、クリスティーンを横目でチラッと見たのをシャーロットは逃さなかった。
「あ、マンマ!お料理の動画、今日の分はアップロードしなくて良いの?」
「あ!いっけない!」
血相を変えてクリスティーンの母は、自分の書斎に駆け込んで言った。
部屋のドアが閉まるのを見届けて、クリスティーンはシャーロットに尋ねた。
「シャーロット、答えられる範囲で良いから教えて。あと、この話はあなたにとって都合が悪いものなら、わたしは誰にも言わないわ」
シャーロットは無言でうなづいた。
「あなたを学校でいじめている子の中に主犯格の子がいるでしょ?それはニクソンさんではないわね?」
シャーロットはそのクリスティーンの言葉を聞いて、顔をあげた。
「うん」
クリスティーンは視線を全く逸らさずシャーロットを見つめながら、質問を続けた。
「それは、アンダーウッドって姓の女の子じゃない?」
シャーロットは目を丸くした。
「どうして、それがわかるの?」
「彼女がどんな子だかわからないけど、少なくとも彼女のお父さんは野党労働党の下院議員なのよ。ロースクールはアメリカのスタンフォード大学で修士号を取っている。そして少なくとも、彼女のお父さんはいくつかのスキャンダルを抱えている」
「それがどうしたの?」
「つまり、彼女があなたを恨む理由は可能性として2つあるの。1つには、アンダーウッドさんがスキャンダルの報道をされた時、いつも紳士なあなたのお父さんと比較して痛烈に非難される記事がガーディアンに載ったのよ。もう一つはあなたが幸せな家庭で育ったからよ」
「私が幸せ?」
シャーロットは目を細めた。
「そうよ。あなたはそう思うかわからないけど、少なくともアンダーウッドさんからすればあなたは幸せそうに見えた。つまり、羨ましく見えたのよ」
「どうして?」
「彼女は今のアンダーウッド議員の奥さんとは異なるお母さんとの間にできた子だそうよ。これはあくまで推測だけど、彼女もまた不遇な子供であったということよ。兄弟との間に溝があれば、両親ともどこか距離を感じる、あるいはお母さんからいじめられていたとすれば、あなたは羨ましい存在。またはあなたを追い落とすことで父の愛を得ようと考えたのかもしれない。理由はわからないけど、何にせよ、彼女からすればあなたは許せない存在。あなたのお人形さんが壊されちゃったのも、アンダーウッドさんが可愛がられなかった証拠よ」
シャーロットは紅茶の入ったカップを見つめてため息をついた。
「アンダーウッドさんにそんな過去が・・・」
クリスティーンもそんなシャーロットを優しく見つめながら紅茶を啜(すす)った。
「悲しいけど、誰かをいじめる理由なんて多分そんなものよ。この世界中どこのどのレベルのいじめを探しても・・・」
クリスティーンは何かを思い出すような顔をして
「憎しみの起源なんて大抵子供じみた大したない感情から来ることがほとんどだわ。私の周りをみても、そう・・・」
と語り、理論証明が終わると満足した顔をしてまた紅茶を啜った。
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