第8話
文字数 2,283文字
「あら、ショッピングモール開発を計画していた人は関係なかったの?」
クリスティーンの母が音もなく、リビングに現れた。
思わずクリスティーンは飲んでいた紅茶を吹いてしまった。
おまけに、むせている。
シャーロットは一方で唖然とした顔をしている。
どうやらクリスティーンの母は地獄耳でおまけに忍(しのび)の者のようだ。
クリスティーンは落ち着くと、大きく息を吐いて答えた。
「関係あるわ。でもニクソンさんじゃない。この一件の影の黒幕はおそらくグレイさんよ」
「えっ」
シャーロットはびっくりした顔を見せた。
「どうして?グレイさんとはあんまり話したこともないし、仲が良いわけではないけど、彼女に嫌なことをされた記憶もないわ」
クリスティーンは人差し指を立てて横に振って見せた。
「そこがポイントなの」
「どういうこと?」
シャーロットは眉をひそめた。
「憎しみや怒りの感情がある人は、その感情によって自分にとって最も有利な選択をすることはできない。つまり、感情的になった人は最も狡猾な人間に操られる。その感情というのは怒りだけとは限らない。出世や淡い期待というものもまた付け込まれる要因となる。あくまで私の推測に過ぎないけど、だから裏で指示を出していたのはグレイさんだと思うの」
シャーロットは険しい顔をして考え込んだ。
「でも・・・あのグレイさんが、指示しているとは思えない・・・だって、あんまり人と接しない人だし、誰とも群れないような女の子なのよ」
クリスティーンは慌てて、
「あ、グレイさんといってもシャーロットの同級生のグレイさんではないわ!」
シャーロットは顔を上げて、不思議そうにクリスティーンを見つめた。
「グレイさんのご両親が、親御面談か何か親たちが集まる機会でおそらくあるチャンスをニクソンさんのご両親に吹き込んだんだわ。とは言え、吹き込んだ内容としては、シャーロット、あなたのお父さんが中国にいくという噂くらいだと思うわ。だから何かを探しても証拠も出てこないだろうと思うの。でも、常に市場と向き合っているキャピタリストは、その程度の情報でチャンスと思って動き始めるの。しかも彼らが動かなくてもグレイさんに損はない。そしてニクソンさんは学校の教頭であるドウグラス夫妻に何らかの形で伝え共謀した。ただ、どちらに転んでも得するのは、いや既にどちらに転ぶかわかっていたというところかしら」
「どうしてそんなことわかるの?」
クリスティーンはタブレット端末を取り出した。
「ほら、みて」
そこにはグレイ労働党上院議員のツイッターアカウントが画面に映し出されている。
「グレイ議員は昨日からNPOや地域活動を支援する表明のツイートを突然始めたの。元々、ここエジンバラの地元産業との関係も悪くないから、ちょうど良い機会なのね」
クリスティーンの母はそれを聞いて、腕を組んだ。
「でも、それじゃあグレイさんが黒幕ってことにはならないわよ。第一、この問題の首謀者にしては動機や報酬、関係がまだ全く見えないわ」
クリスティーンはしたり顔を見せた。
「そうなの。グレイさんは黒幕だけど、それはシャーロットのいじめの原因になっていることについてのみ。本当の犯人はもうすぐニュースになるくらい自明のことよ」
「じゃあ、どうして黒幕って言えるの?」
シャーロットは首を傾げる。
「簡単よ、犯人を知っているし、その犯人が犯した罪と隠蔽が脆いもので、すぐに世間の明るみになることを知っていたのよ。そう、真犯人はあなたのお家の法的処理を担当した弁護士のオッドさんよ」
「オッドさん?あのおじさんが?」
淡々とクリスティーンは説明し始めた。
「そうよ、オッドさんはあまり良い腕の弁護士ではなかったのかしらね。彼の事務所を調べてみると、物凄い小さいわ。オッドさんのお父様の代は街の中心地にあったのにね。見て」
またクリスティーンはタブレットを取り出した。
そこには小さなボロアパートが映し出されていた。
「彼の代になってから事務所は縮小して今に至るの。ただ、不思議なことに、最近彼は新しい顧問先を獲得したの。それがアンダーウッド議員。アンダーウッド議員とオッドさんが一緒に映っている様子がツイッターに上がっているわ」
「あら、そういうことだったの・・・」
クリスティーンの母はスマートフォンを調べると「速報」という文字をみた。
そこには『オッド容疑者、逮捕!』と書かれていた。
「私はどうしたら・・・」
シャーロットはオロオロしながらそう言った。
「お父様が帰ってくるんでしょ。そこで、あなたのやりたいことを、自分で選びたい未来を、好きなことを思いっきり伝えれば良いのよ!」
シャーロットは首を横に振った。
「違うの。許せないの、私・・・」
クリスティーンは神妙な顔を浮かべた。
少し考えた後、再びクリスティーンはタブレットで検索し、シャーロットに見せた。
「大丈夫よ、真相が明るみになったらあなただけじゃなくて世間も味方して悪を成敗していくれるものよ。見て。もう始まっているわ」
画面から報道機関各社やS N Sによる、犯人への制裁が始まっている様子が伺えた。
「ああ、もうすぐここにも多くの報道陣が来るわね・・・」
クリスティーンの母はつぶやいた。
クリスティーンは『今しかない!』と勇気を振り絞り、シャーロットに声をかけた。
「ねえ、シャーロット。ワッツアップのアカウント、教えてもらえる?」
シャーロットは一瞬目を丸くしたが、すぐに表情を戻し、
「うん!」
と笑顔でうなづいた。
クリスティーンの母が音もなく、リビングに現れた。
思わずクリスティーンは飲んでいた紅茶を吹いてしまった。
おまけに、むせている。
シャーロットは一方で唖然とした顔をしている。
どうやらクリスティーンの母は地獄耳でおまけに忍(しのび)の者のようだ。
クリスティーンは落ち着くと、大きく息を吐いて答えた。
「関係あるわ。でもニクソンさんじゃない。この一件の影の黒幕はおそらくグレイさんよ」
「えっ」
シャーロットはびっくりした顔を見せた。
「どうして?グレイさんとはあんまり話したこともないし、仲が良いわけではないけど、彼女に嫌なことをされた記憶もないわ」
クリスティーンは人差し指を立てて横に振って見せた。
「そこがポイントなの」
「どういうこと?」
シャーロットは眉をひそめた。
「憎しみや怒りの感情がある人は、その感情によって自分にとって最も有利な選択をすることはできない。つまり、感情的になった人は最も狡猾な人間に操られる。その感情というのは怒りだけとは限らない。出世や淡い期待というものもまた付け込まれる要因となる。あくまで私の推測に過ぎないけど、だから裏で指示を出していたのはグレイさんだと思うの」
シャーロットは険しい顔をして考え込んだ。
「でも・・・あのグレイさんが、指示しているとは思えない・・・だって、あんまり人と接しない人だし、誰とも群れないような女の子なのよ」
クリスティーンは慌てて、
「あ、グレイさんといってもシャーロットの同級生のグレイさんではないわ!」
シャーロットは顔を上げて、不思議そうにクリスティーンを見つめた。
「グレイさんのご両親が、親御面談か何か親たちが集まる機会でおそらくあるチャンスをニクソンさんのご両親に吹き込んだんだわ。とは言え、吹き込んだ内容としては、シャーロット、あなたのお父さんが中国にいくという噂くらいだと思うわ。だから何かを探しても証拠も出てこないだろうと思うの。でも、常に市場と向き合っているキャピタリストは、その程度の情報でチャンスと思って動き始めるの。しかも彼らが動かなくてもグレイさんに損はない。そしてニクソンさんは学校の教頭であるドウグラス夫妻に何らかの形で伝え共謀した。ただ、どちらに転んでも得するのは、いや既にどちらに転ぶかわかっていたというところかしら」
「どうしてそんなことわかるの?」
クリスティーンはタブレット端末を取り出した。
「ほら、みて」
そこにはグレイ労働党上院議員のツイッターアカウントが画面に映し出されている。
「グレイ議員は昨日からNPOや地域活動を支援する表明のツイートを突然始めたの。元々、ここエジンバラの地元産業との関係も悪くないから、ちょうど良い機会なのね」
クリスティーンの母はそれを聞いて、腕を組んだ。
「でも、それじゃあグレイさんが黒幕ってことにはならないわよ。第一、この問題の首謀者にしては動機や報酬、関係がまだ全く見えないわ」
クリスティーンはしたり顔を見せた。
「そうなの。グレイさんは黒幕だけど、それはシャーロットのいじめの原因になっていることについてのみ。本当の犯人はもうすぐニュースになるくらい自明のことよ」
「じゃあ、どうして黒幕って言えるの?」
シャーロットは首を傾げる。
「簡単よ、犯人を知っているし、その犯人が犯した罪と隠蔽が脆いもので、すぐに世間の明るみになることを知っていたのよ。そう、真犯人はあなたのお家の法的処理を担当した弁護士のオッドさんよ」
「オッドさん?あのおじさんが?」
淡々とクリスティーンは説明し始めた。
「そうよ、オッドさんはあまり良い腕の弁護士ではなかったのかしらね。彼の事務所を調べてみると、物凄い小さいわ。オッドさんのお父様の代は街の中心地にあったのにね。見て」
またクリスティーンはタブレットを取り出した。
そこには小さなボロアパートが映し出されていた。
「彼の代になってから事務所は縮小して今に至るの。ただ、不思議なことに、最近彼は新しい顧問先を獲得したの。それがアンダーウッド議員。アンダーウッド議員とオッドさんが一緒に映っている様子がツイッターに上がっているわ」
「あら、そういうことだったの・・・」
クリスティーンの母はスマートフォンを調べると「速報」という文字をみた。
そこには『オッド容疑者、逮捕!』と書かれていた。
「私はどうしたら・・・」
シャーロットはオロオロしながらそう言った。
「お父様が帰ってくるんでしょ。そこで、あなたのやりたいことを、自分で選びたい未来を、好きなことを思いっきり伝えれば良いのよ!」
シャーロットは首を横に振った。
「違うの。許せないの、私・・・」
クリスティーンは神妙な顔を浮かべた。
少し考えた後、再びクリスティーンはタブレットで検索し、シャーロットに見せた。
「大丈夫よ、真相が明るみになったらあなただけじゃなくて世間も味方して悪を成敗していくれるものよ。見て。もう始まっているわ」
画面から報道機関各社やS N Sによる、犯人への制裁が始まっている様子が伺えた。
「ああ、もうすぐここにも多くの報道陣が来るわね・・・」
クリスティーンの母はつぶやいた。
クリスティーンは『今しかない!』と勇気を振り絞り、シャーロットに声をかけた。
「ねえ、シャーロット。ワッツアップのアカウント、教えてもらえる?」
シャーロットは一瞬目を丸くしたが、すぐに表情を戻し、
「うん!」
と笑顔でうなづいた。