第5話

文字数 2,278文字

次の朝、二人はステラさんに起こされ、目を覚ました。
朝食を取るため、階段を降りて、リビングの食卓につく。
クリスティーンの父親がその間血相を変えてパンを加えながら、スーツに袖を通し、「行ってきます」と手を振るなり、外に出て運転手が出迎えた車に飛び乗った。そしてエンジンが鳴る。
「またか・・・」
とクリスティーンは呆れた表情を浮かべた。
「うちと似てるわ」
シャーロットは笑いながらそう言った。
クリスティーンはその様子を見て、こういうのもたまには悪くないと思った。
テレビをつけると、クリスティーンは「あ!」と大声をあげた。
「どうしたの?」
「お母さん(マンマ)が映ってる・・・」
クリスティーンの母は、シャーロットの学校近くの街角で自信満々に記者たちの前で教育論について語っている。
『こちらもまたか・・・』
クリスティーンはまた呆れた表情を浮かべた。
一方、シャーロットの顔は青ざめる。
クリスティーンの母は、なんとシャーロットの出自といじめについて語り、夜中クリスティーンたちが寝静まった後もネットサーフィンを続けていじめているグループの子供たちの家庭環境をくまなく調べていたのだ。
どうしてそれができたかと言えばSNSでシャーロットの同年代の子たちを特定できたのと、あとは子爵について検索して結果である。
しかし、次にカメラの前でクリスティーンの母が言ったことは衝撃であった。
「子爵は失踪宣告を受け、死亡と見做されていますが、生存を確認しました」
その瞬間、無数のフラッシュがクリスティーンの母に当てられた。
「お父さんが生きてる?」
シャーロットは目をまん丸くして、口元を覆った。
クリスティーンはその言葉を聞いとき、時がとまり、自分の灰色の脳細胞が高速回転するのを感じた。
眩いフラッシュの中でクリスティーンの母は続けた。
「子爵は中国本土の回線のVPNによって連絡を阻まれていた。また現地に秘書に手配させたwifiは回線がつながらなかった。一方で、商談相手の関係上、イギリス本国との連絡を取るためのネットワーク回線を使えなかったようです。しかし、私の中国にいる友人経由で彼との連絡を連絡が取れています」
クリスティーンの母はタブレット端末をカメラに見せると、そこには子爵が映っていた。
「お父さん!!」
シャーロットは口元を押さえたまま泣き始めた。
「シャーロット、シャーロット!聞いているか?お父さんは生きている。もう間も無く飛行機に乗って帰国するから待っていておくれ」
シャーロットの父の優しい言葉がネットワーク回線の影響で声が震えてはいたが、鳴り響いた。
この言葉を聞いて、記者たちは一斉にそのタブレット端末に詰め寄った。
しかし、一部始終を聞いてもシャーロットの父は誰に失踪の虚偽通報をされたのかについては、依然としてわからなかった。
シャーロットの歓喜の横でクリスティーンは冷静な面持ちで指をくわえた。
その時、
「ただいま〜」
クリスティーンの母が帰ってきた。
「あれ、お母さん(マンマ)?テレビに出てるんじゃないの?」
「ああ、それは録画の映像よ。もう用は済んだわ」
クリイスティーンはキョトンとした。
「あの・・・」
一頻り泣きじゃくった後、我にかえったシャーロットが肩身を狭くしている。
「大丈夫、あなたはあなたのお父様が帰ってくるまで一旦うちで預かっておくことになっているから。あと、今日はもうテレビで見てわかると思うけど、それどころじゃないから学校にいく必要はないわ」
シャーロットは強張っている方をゆっくりと下ろした。
学校に行くことがやはり不安だったのか、それがなくなった分、少し落ち着いた面持ちになった。
「ただ・・・あなたは別よ、クリスティーン」
クリスティーンはため息をついた。
「もう、お母さん(マンマ)!そんなの言われなくてもわかってる!」
クリスティーンもやはり年下の前では、面子があるので少しその面子に泥を塗られて気がしてプンスカして自分の部屋に戻っていく。
その間、シャーロットはまた不安な面持ちになった。
「大丈夫、あなたのお父様は2日後にはこちらに着くわ。それまで少し退屈な休日を辛抱して頂戴」
シャーロットの母は言った。
「お父さんが、2日後に帰ってくる?」
シャーロットは目をまん丸くした次の瞬間、幼子がよくやるように絶叫して飛び跳ねた。
クリスティーンの母は、優しく微笑んだ。
シャーロットが落ち着くのをクリスティーンの母はじっと見守っていると、
着替えたクリスティーンが上階から降りてきた。
クリスティーンを見るや否や、シャーロットは彼女の手を両手でギュッと握った。
「ありがとう!全部あなたのいう通りね!私が間違っていたわ!私は不幸になんてならない!」
クリスティーンは手を握られた瞬間はびっくりを抑えるような表情を浮かべたが、彼女の言うことを全て聞き終えると、ゆっくりと口元を緩めた。
「そうでしょ!わたしの言った通りでしょ!大丈夫、だって名探偵のわたしがついてるんだもの」
とっさに見栄を張るために自分で「名探偵」と自称してしまったことを彼女は一瞬恥じらいを感じたが、すぐに「まあ良いか」と思い直し、また表情を緩めた。
「お嬢様(マイ・フェア・レディ)、そろそろお時間です」
無愛想にステラさんがそう言った。
「ああ、そうか。行かなきゃ。すぐだから待っててね!」
とクリスティーンはウィンクした。
「うん!」
シャーロットはクリスティーンの背中を見ながら、力強くうなづいた。
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