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文字数 2,472文字

 おれたち二年の校舎の南向かいが、一年の校舎になっている。
「おい、またあの子、こっち見ようぞ」
 ここのところ何日か続けて、休み時間になると、向かいの棟の校舎から、二年のおれたちの教室を見続ける一年の女子のことが、おれたちの間で話題になっていた。
 女の子は、サッカー部のマネージャーをしているなかなかの美人だ。
 大熊や眠や谷本たちが冗談に手を振ったが、彼女はニコリともしない。
「誰を目当てにきようがやろうにや、みんなん順番に手ぇ振ってみたらわからへんか?」
 とセンズリ好きの大熊が言った。
 誰が手を振っても反応がない。
「三木も手ぇ振ってみれや」
 と大熊に促されて、おれはしぶしぶはにかみながら手を振った。何と、女の子が笑って手を振り返してきたではないか。
「なんや、三木やったがかぁ、つまらんにや」
 と言って、大熊や谷本が、
「本当にこれか」
 といったゼスチャーでおれを指差して、彼女の反応を見た。
「うん、うん、うん」
 と彼女は三回大きく頷いた。
「ヒャッホー」
 と大熊たちが、嬌声を上げた。
 
 おれとリエはクラスの男子公認の中で付き合いはじめた。
 リエは、今はサッカー部のマネージャーだが、中学の時は短距離のスプリンターだった。
 怪我をして短距離を諦めたが、中学時代は短距離選手として、有能だったらしい。
 リエの容姿は、身長一メートル六十五センチ、体重四十五キロ。スレンダーなプロポーションで、すらっとしたカモシカの様な長い足、顔は瓜実顔の美人、すべてにおいて申し分のない女の子だった。
 おれたちは同級生に冷やかされながら、雨の日には相合傘で帰った。
 リエの実家は、市内の老舗の旅館だった。
 デートはもっぱら、高校の傍を流れる川の堤を歩いた。
 夏休みのことだ。
 おれは実家に帰省もせず、アルバイトをしていた。
 おれの下宿は、神経質な後家のおばさんが一階に住み、おれは二階に間借りしていた。
 ある日、初めてリエを下宿に連れてきた。
 当時おれが夢中になっていた「ビートルズ」のLPを、安いプレーヤーで聴いた。
 何時の間にかおれの横に、リエが寄り添うように座っていた。
 リエがおれにもたれかかっている。
 おれも自然にリエの肩に手をまわした。
 今度はリエが、おれの手を握り、指と指を絡ませてきた。
 おれたちは自然とキスをした。
 初めは静かに、徐々に激しくなっていった。
 その内、リエの手が、おれの股間に触れた。
 おれは我慢が出来ずに、リエを押し倒した。
 おれたちは、夢中になってかさなりあった。
 やがて窓の外が、暗くなっているのに気がついた。
 おれたちは、夏休みの間、毎日のように、セックスをした。
 リエの胸は、大きくはなかったが、形がよくおれは好きだった。
 おれはリエの乳首を何時までも舐め続けた。
 リエも乳首が一番感じると言っていた。
 ある日の晩、リエが帰った後、おばさんが部屋に上がってきた。
 後家のおばさんと言っても、まだ三十代後半くらいで、元学校の教師をしていたが、体を壊したとか何とかで辞めたらしい。
 今は、この家で塾の先生をしている。
 おばさんはおれから見ても十分まだまだ魅力的である。
 熟した柿のような、食べごろの女に見える。
 そのおばさんが、スケスケのネグリジェ姿でおれの部屋にやってきて、おれに数学の問題を聞くのである。
 おれは、確かに数学は得意だが、聞かれた問題は、中学一年程度の内容だったから、おれはその瞬間に、あやしいものを感じた。
 おばさんはおれがその問題を解く間、おれにしなり寄ってきた。
 おばさんは酒を飲んでいるらしかった。
 おれはどうやらおばさんに誘われているらしい。
 リエとのセックスに十分満足していたが、年上の女を抱いてみたいという本能がムクムクと芽生えて、勃起した。
 おばさんはおれのファスナーを下ろして、硬くなった一物を口にくわえた。
 リエとのセックスでは、経験した事のない領域だったので、おれは腰を抜かしそうになった。
 あまりの気持ち良さに、おれは女のような吐息を吐いてしまい、すぐにおばさんの口の中で果てた。
 その後、おばさんとの大人のセックスを堪能した。
 昼間にリエとして、夜はおばさんとする日々に、おれはまるで夢を見ているようだった。
 しかしそんな夢のような日々は続かない。
 おれとおばさんの関係をリエに感づかれ、おばさんとの関係を立てないのなら、別れてくれと言われた。
 おれは両方失いたくなかったが、どちらかを選ぶとなると、そりゃあ当然リエを選ぶ。
 そうしてある晩、何時ものように部屋にやってきたおばさんを、初めて拒んだ。
 おばさんは、
「私としないのなら、もうこの部屋に、あの女の子を連れてこないで、ここはモーテルじゃないのよ」
 と言って、プンプンと腹を立てて部屋から出て行った。
 そんなわけで、おれとリエのセックスもお預けになってしまい、その後リエがサッカー部の先輩と出来てしまったために、おれとの関係は自然消滅してしまった。

 というのは、いつものおれの妄想で、本当のところは、リエがおれを向かいの校舎から、覗きにきていたところまで、遡る。

 その後も彼女はほとんど毎日のように、休み時間ごとに向いの棟の校舎から、おれたちの教室を、いやおれを見続けていた。
 目的がおれだということがわかってからは、みんなに、
「また、きちょうぞ、はよう手ぇ振っちゃれや」
「はよう、一発やっちゃらんと、おさまりつかんぞ」
 とか、散々冷やかされてまいった。
 彼女はスタイルも良く美人だし、もっとこっそりと交際を申し込んでくれさえすれば、いつでも付き合うことが出来たのにと残念に思った。
 これだけみんなの注目を浴びた彼女と、いまさら付き合うことは、妙に間抜けなようで、シャイなおれには出来なかった。
 そんなカッコをつけているうちに、リエはサッカー部の二年で、プレイボーイの荒木と付き合いはじめた。
 荒木とリエが放課後仲睦まじく帰る姿を見ながら、
「オレって、本当にマヌケもマヌケ、どうしようもないマヌケ野郎だ」
 と唇を噛むのである。
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