第8話 緑の文明
文字数 829文字
終章 緑の文明
気の遠くなるような時を経て、海洋大循環が復活した。
輝く太陽が、白銀の地球を解かし始めた。
やがて大陸は原生林に覆われ、鳥が渡り、ライオンや象が大自然と共に蘇った。
眼下に広がる樹林の海を見渡すと、緑の絨毯のはるか彼方に、小さな銀色の輝きが見える。大地からにじみ出た一滴の涙のようだ。それは古代の遺跡として保存されている奇妙な形の鉄塔だ。遥かなる昔、あのあたりに、この国の中心があったらしい。
復活した人類は、それを「ガイアの涙」と呼ぶ。
「タケル、今日の講義で先生が面白い話をしていたわ。私たちの祖先は、築き上げた高度な文明を自ら崩壊させたけど、そのころの女性って、地球資源を身に着ける習慣があったんだって」
「へぇー、地球資源をね……。詳しく教えてよ」
「一度滅亡した地球で、今の文明はミネルバと呼ばれる村から始まったそうよ。そのころは氷河期で、地球と共存できる緑の文明を、この国から作ろうと頑張っていたらしいの」
彼女は、木のつるで編んだバッグから、光を帯びたカードを取り出した。ディスプレイを見つめ何かを呟くと、鮮明な立体像が浮び上がった。細長い筒を口に当て、優しく微笑んでいる。
「ほらこれを見て、当時の指導者よ。私たちとはまるで違うわ――」
「あ、ほんとだ……なにか懐かしい、肉体の力を感じるね。それに、何かが聴こえてくる……僕たちの世界にはないものだ」
「そうね、恋愛も当時は、プラトニックじゃなかったみたい」
「なんか原始のほうが、ワクワクするような気がするな……」
タケルは、革の衣装に身を包んだ女性の首に下がる、ブルーの光をじっと見ていた。
その時、大学の構内アナウンスが、月の研究所に向う定期便シャトルロケットの出発時間が近いことを告げた。
「サクラ、そろそろ時間だ、行ってみようか」
タケルは、吹っ切るように顔を上げた。
二つの透明な影が、天空のランウェイに、消えていった。
(了)
気の遠くなるような時を経て、海洋大循環が復活した。
輝く太陽が、白銀の地球を解かし始めた。
やがて大陸は原生林に覆われ、鳥が渡り、ライオンや象が大自然と共に蘇った。
眼下に広がる樹林の海を見渡すと、緑の絨毯のはるか彼方に、小さな銀色の輝きが見える。大地からにじみ出た一滴の涙のようだ。それは古代の遺跡として保存されている奇妙な形の鉄塔だ。遥かなる昔、あのあたりに、この国の中心があったらしい。
復活した人類は、それを「ガイアの涙」と呼ぶ。
「タケル、今日の講義で先生が面白い話をしていたわ。私たちの祖先は、築き上げた高度な文明を自ら崩壊させたけど、そのころの女性って、地球資源を身に着ける習慣があったんだって」
「へぇー、地球資源をね……。詳しく教えてよ」
「一度滅亡した地球で、今の文明はミネルバと呼ばれる村から始まったそうよ。そのころは氷河期で、地球と共存できる緑の文明を、この国から作ろうと頑張っていたらしいの」
彼女は、木のつるで編んだバッグから、光を帯びたカードを取り出した。ディスプレイを見つめ何かを呟くと、鮮明な立体像が浮び上がった。細長い筒を口に当て、優しく微笑んでいる。
「ほらこれを見て、当時の指導者よ。私たちとはまるで違うわ――」
「あ、ほんとだ……なにか懐かしい、肉体の力を感じるね。それに、何かが聴こえてくる……僕たちの世界にはないものだ」
「そうね、恋愛も当時は、プラトニックじゃなかったみたい」
「なんか原始のほうが、ワクワクするような気がするな……」
タケルは、革の衣装に身を包んだ女性の首に下がる、ブルーの光をじっと見ていた。
その時、大学の構内アナウンスが、月の研究所に向う定期便シャトルロケットの出発時間が近いことを告げた。
「サクラ、そろそろ時間だ、行ってみようか」
タケルは、吹っ切るように顔を上げた。
二つの透明な影が、天空のランウェイに、消えていった。
(了)