第42話 男と女の婚活物語(4)

文字数 7,810文字

 なるほど、そういうことか。
 泰宏はひとり納得しながら、自宅の電話機の受話器を置いた。

 借物の家ではなく、正真正銘の戸高家だ。つい先ほどまで泰宏が電話をしていたのは、実妹の和葉だった。
 すでに頼れる男性のもとへ嫁いでおり、将来を心配したりする機会もグッと減った。わざわざ妹に連絡をとったのには理由がある。

 今日のお昼に、デートをしていた女性の件だ。
 仲良く泰宏お手製の蕎麦を食べ、会話もそれなりに盛り上がっていた。
 相手女性こと小石川祐子の態度が急変したのは、泰宏が妹の愛娘、葉月のことを話題にした直後だった。

 用事があったとランチデートはお開きになったのだが、とてもそのようには見えなかった。青を通り越して、白と形容していいぐらいの顔色になっていた。
 内心をうまくコントロールしていた女性が、まともに動揺した初めてのシーンだった。気にはなったものの、出会って間もない状態でしつこく質問するのは得策でないと判断した。

 以降は葉月の名前を出さず、駅まで送った。長い距離を送っていくのも可能だったが、祐子はひとりになりたがっていた。言葉にこそしなかったものの、相手の態度や雰囲気である程度の意思は伝わってきた。

 無事に駅まで送り届けたあとで、借りていた家の後片付けをした。その後、自宅へ戻り、高木家へ電話をかけた。仕事の邪魔をしたら悪いので、携帯ではなく家へかけたのである。

 本来ならこの時間は会社へ行っている場合が多いのだが、今日は休みなのか、夕方にもかかわらず和葉は家にいた。そこで泰宏は葉月の担任の女教師――すなわち、小石川祐子について尋ねてみた。

 返ってきた言葉と説明で、大体の事情を理解した。お礼を言って妹との電話を終えたあとで、泰宏はひとり考える。

 葉月がいじめを受けていたことや、その際の祐子の対応も知った。
 その上で、自分はどうするべきなのか、腕を組んで思案してみたものの、途中で考えるのを止めた。じっくり悩んでも、辿り着く答えが変わらないと気づいたからだ。

 泰宏は単純に、小石川祐子という女性に惹かれている。このまま縁が切れるのを、よしとはできなかった。
 だが祐子が、泰宏の電話を受けてくれるかはわからない。何せ、日中のあの慌てぶりだ。着信拒否をされる可能性もゼロではなかった。

 ならば諦めるのか。
 自分自身に問いかける。

 答えは最初から決まっていた。
 手にした携帯電話の短縮ダイヤルを使用し、意中の女性のナンバーをコールする。呼び出し音は何度も鳴るが、やはり電話に出てくれそうもない。

 登録している結婚相談所へ聞いたところで、個人情報を教えてくれるはずがなかった。ならばどうするかといえば、結論はひとつだ。向こうが逃げるのなら、追いかけるしかないのである。
 ストーカーと罵られ、通報される可能性はあるものの、祐子を諦めたくないのであれば、他に方法はなかった。

 どこに勤務をしているかは、すでにわかっている。妹の娘が通っている小学校だ。
 だが、堂々と正門で仁王立ちしていた日には、変質者扱いされても文句は言えない。むしろ当たり前である。

「とにかく、行動してみるか」

 電話を切った泰宏は、自らを奮い立たせようとするかのようにそう呟いた。

   *

 鳴り続ける携帯電話の着信画面を見ながら、祐子は表情を硬くしていた。
 ディスプレイに表示されている戸高泰宏という名前を見るたび、ドキドキして胸が痛くなる。

 電話に出て声を聞きたいのに、怖くて指が動かない。
 結局、受話ボタンを押せないうちに、着信メロディが途切れてしまった。

 始めはキープしておいてもいいかなぐらいの気持ちで、登録している結婚相談所主催のパーティで会話のきっかけを作った。

 それがいつの間にか、こんなにも惹かれている。
 今時珍しい純情な男性かと思いきや、たまに人の心さえも見透かすような目をする。
 つかみどころのない性格が、祐子の興味を誘った。

 けれど、もう終わった。
 自分に言い聞かせる。

 本名を教えているだけに、妹の娘――つまりは葉月に聞けば、祐子の素性はすぐに判明する。
 家族の子供を嫌な目にあわせた女教師を、変わらずに好いてくれる人間の方が珍しい。
 せっかくの出会いだったけれど、縁がなかったのだ。祐子は半ば諦めていた。

 しかし数日後、思わぬ出来事が祐子を待っていた。

「今、お帰りですか」

 いつから待っていたのか、正門付近で隠れるように泰宏がスーツ姿で立っていた。
 生徒のテストの採点で残業をしていたため外はすでに暗く、夜の闇と同化しかけていたため、声をかけられた瞬間、思わず悲鳴を上げるところだった。

「あまり、驚かせないでください」

 安堵の吐息とともに、そんな言葉を放出する。自分が不気味だと気づいたのか、すぐに泰宏は「すみませんでした」と謝罪してくれた。

「……何の御用でしょうか」

 尋ねるのは怖かったが、無視して立ち去るわけにもいかない。学校まで会いに来るぐらいなのだから、一度や二度追い払ったとしても、相手男性は諦めないだろう。いつか必ず、会話をする必要性が出てくる。
 であるならば、早い方がいい。そう判断した上での対処だった。

「貴女に会いにきました」

 ズバリと切り込んできたが、その次の言葉が待っていてもやってこない。不審に感じた祐子は、じっくりと相手男性を観察してみる。
 文句を言いにきたような素振りは一切なく、それどころか妙にニコニコしている。怪しさ大爆発で、どこからツッコむべきか思案しているうちに時間だけが経過する。

 それでも泰宏は何も喋らない。まるで自分の用件は、もう伝えましたと言わんばかりの態度だ。

 ここで祐子はハッとする。何かを狙っているわけでなく、泰宏は単純にこちらの質問に答え終えたのである。

 つまりは――祐子に会いにきた。

 しかし、その後の展開はまったく考えていなかったため、次にどうするべきかわからず、立ち尽くしている。
 そんなアホなと思ってしまうが、それ以外に考えようがない。なおかつ、その仮定が一番しっくりくる。

「プッ……あははは」

 祐子はたまらず笑っていた。
 これまで出会ってきた男たちといえば、喜ばせてものにしようと綿密なスケジュールを練っていたものである。

 だが目の前にいる男性は、まったくのノープランで挑んできた。
 高木春道とは違ったタイプだが、こういう男性も面白いかもしれない。笑いながら、祐子はそんなことを考えていた。

  *

 悩むより行動。
 決定された方針のもと、泰宏は祐子が勤務している小学校へやってきていた。
 まだ日が沈みきっていなかったので、生徒たちが学校へ残っている。

 正門で待ち構えていた日には、帰宅しようとしている児童と鉢合わせして、変質者扱いされる可能性が高かった。そのため人の出入りが確認できる位置で、隠れるようにして立った。

 昔ならともかく、今の時代は児童に挨拶しただけでも、不審者として逮捕されるかもしれない。生きにくい時代だと文句を言っても始まらないので、慎重になりすぎなくらいで丁度よかった。

 教師たちが帰宅するであろう時間帯に合わせてやってきたので、それほど待たなくても目的の人物に会えるはずだ。

 期待と緊張に挟まれながら待ち続けるも、なかなか目当ての女教師は校舎から出てきてくれない。
 もしかしたら、学校を休んだのだろうか。
 段々と不安になってくる中、ようやく待ち焦がれていた女性が正門へ現れた。

「今、お帰りですか」

 出来うる限り自然かつフレンドリーに話しかけたつもりだったが、瞬間的に祐子の表情が凍りついた。驚ききった相手の様子に、泰宏もまたビックリする。

 相手女性の指摘により、泰宏は今、自分がどういう状態なのかようやく気づいた。

 すっかり暗くなった周囲の景色に同化しかけた状態で、ひとり帰宅しようとしている女性に声をかける。しかも職場の前で、目的の女性が出てくるのをひっそりと待っていた。

 まさにストーカーそのもので、悲鳴を上げられても文句は言えなかった。またやらかしてしまったかと後悔する泰宏に、祐子が何の用かと尋ねてくる。

 ――祐子に会いに来た。

 質問へ実直に答えたのだが、何故か不自然な沈黙が現場に流れる。泰宏にすれば、すでに聞かれたことへは答えている。なのに会話が続かない。

 従って無言の状況が続く。
 相手が何を待っているのか、自分が何をするべきなのか。泰宏にはわかっていなかった。そのため話しかけるのを躊躇ってしまい、夜の小学校前で女教師と向かい合うだけの時間が過ぎていく。

 さすがの泰宏も焦りだした頃、いきなり目の前にいる女性が大爆笑する。何が起きているのか理解しきれず、ただただポカンとするしかなかった。
 やがて笑い終えた祐子が「すみませんでした」と、泰宏に謝罪した。

「私、何か変なことを言ったでしょうか」

 思わず尋ねた泰宏に対し、回答者の祐子が静かに首を左右に振る。

「普通に話していただけですよ。今時、珍しいぐらい……」

 しみじみ言われても、泰宏にはよく理解できなかった。物心ついた頃から、ずっとこの性格で、何の疑問もなくやってきた。これが当たり前であり、むしろそうでない方が珍しかった。
 返すべき言葉が見つからないので、とりあえず開いて女性の次の言葉を待つ。

「気を悪くさせてしまったですか?」

 こちらが無言なのを気にしたのだろう。祐子に泰宏は「いえ……ただ不思議だったものですから」と返した。
 事実その通りなのだから、そう言うしかなかった。だが相手の大笑いで、ある種の緊張が解けたのは確かだった。

 この場でずっと立ち話をしていても仕方ないので、泰宏はどこか適当な喫茶店へ入ろうと提案する。

 了承してくれたあとで、祐子は少し考える素振りを見せた。何かを迷ってる様子で、小学校前から動こうとしない。
 どうしたのだろうと思い始めた泰宏へ、目の前にいる女教師はとある提案をしてきた。

「どうせなら、私の家へ来ませんか」

   *

 少し大胆すぎたかしら。

 祐子は心の中でペロリと舌を出した。
 見ものなぐらい慌てふためいてくれるかと思いきや、泰宏はわりと平然としていた。

「わかりました。それでは行きましょう」

「は?」

 うろたえるどころか、即座に応じてきた。
 もしかしてこれまでの印象とは真逆で、本当はもの凄い遊び人なのだろうか。
 相手をからかうつもりが、祐子の方が戸惑う結果になっている。

「ええと……小石川さんのお宅で話すんですよね」

 何の疑念も抱いてない表情で、泰宏が尋ねてくる。
 聞かれれば「そうです」としか、答えようがなかった。

 相手男性が乗ってきたミニバンが停めてある場所まで一緒に歩く。その途中で、泰宏が「あっ」と何かに気づいたような声を上げて赤面した。

 率直に祐子はあれ? と思った。
 あくまで仮定の話ではあるが、女性の家へ行くという意味を今になって理解したのではないか。
 もちろん祐子にそうした意図はないので、相手男性がひとり慌てるのを見物するだけのつもりだった。

 けれど祐子の想像以上に、泰宏は鈍かった。計算でトボけたようには見えず、天然なのがわかる。そうした点も、意外と好印象になっていた。冗談ではなく、本気で自宅へ招待しようという気持ちになっている。

「え、えー……車です」

 駐車場へ着くなり、誰が見てもわかるような台詞を泰宏が口にする。多少どもっているあたり、相手男性に幾らかの動揺があるのがわかる。
 ロックを外したあとで、助手席のドアを泰宏が開けてくれる。お礼を言ったあとで、祐子は助手席に座る。この間も乗せてもらっているので、特別に緊張したりしなかった。

「じゃ、じゃあ……行きましょうか」

 運転席に腰を下ろした泰宏が、震える手で差し込んだキーを回してエンジンをかける。どことなく、落ち着きがないようにも見える。
 事の重大さに、自分なりに気づいたのだろう。身に纏っている雰囲気が、本当に大丈夫なのかと語っている。そして、さらなる問題点も発生している。

 普通に発進しているが、果たして相手は向かうべき場所の詳細を知っているのだろうか。ちなみに祐子は、自宅の住所をまだ教えていなかった。
 チラリと隣を見れば、右足で力強くアクセルを踏んでいる。しっかりとハンドルを握り、前を見据えているが、自信なさげに感じるのは気のせいでないだろう。
 祐子の直感は正しく、すぐに泰宏が口を開いた。

「あの……住所を教えてもらっていいですか」

 微笑ましくなるような質問を経て、ミニバンが祐子の自宅前へ到着した。
 すぐに車を降りた泰宏が、出発前と同じように助手席のドアを開けてくれる。

 祐子は独身のため、広い家は必要としていない。従って、現在契約してるような1LDKのマンションで十分だった。

 外でデートするケースが多いだけに、こうして自宅へ異性を迎え入れるのはどれぐらいぶりだろうか。
 当人の祐子もわからないのだから、かなり久しぶりなのは間違いなかった。

「どうぞ」

「お、お邪魔します」

 やや緊張した面持ちで、泰宏が祐子の部屋へ上がる。
 綺麗好きというほどではないが、最低限の掃除は毎日している。だからこそ、いきなりに近い形であっても、我が家へ男性を招待できるのである。

「お好きなところに座ってください」

 コートを脱ぎながら、とりあえずリラックスしてもらえるように声をかけた。

   *

「それじゃあ、お言葉に甘えまして……」

 そうは言ったものの、泰宏はどこへ座ればいいのかまったくわからなかった。根本的に女性の部屋へお邪魔した絶対数が足りないのだ。

 経験豊富な男性であれば余裕の態度を示せるのだろうが、生憎と泰宏はそういうタイプではなかった。無理に自分を変えようとしても、大体はろくな結果にならない。こういう時は自然体で行動するのが一番なのである。

 方針を決定したまではよかったが、自然体の泰宏はおろおろすることしかできなかった。キッチンへコーヒーを作りにいった祐子が戻ってくると、ここ最近で見慣れた笑顔を目にすることになる。
 リラックスしてほしいと告げたのには、逆に緊張を強くしているのだから、笑われるのも当たり前だった。

「じゃあ、そこに座ってください」

 クッションがある場所を指定され、泰宏は「すみません」という言葉とともに腰を下ろした。

「それで……今日は、わざわざどうしたんですか」

 テーブルの上に置かれたコーヒーをご馳走になりながら、いよいよ泰宏は本題に入る。

「先日の別れ際の件です」

 手打ち蕎麦を披露したあと、二人で楽しく会話をしていたにもかかわらず、あることがきっかけで逃げるように祐子は帰宅した。
 途中までは泰宏が来るまで送ったが、その間も会話はほとんどなかった。原因となったのは、泰宏の妹の娘である高木葉月の名前だった。その日のうちに妹へ連絡をとり、様々な事情を知った。

「それは……」

 口ごもる相手女性へ、泰宏はズバリ「葉月がいじめられていた件ですか」と告げる。これだけで、こちらがある程度の情報を得ていると悟ったのだろう。白を切ろうとはせず、素直にそのとおりだと認めた。

「実の妹さんの子供がいじめられていたのに、私は何もしませんでした。それどころか、煽るような真似を……。
 知られたら、嫌われると思ってしまって……」

「……本当ですか」

 謝罪しながら当時の状況を説明する女教師へ、泰宏はそんな言葉を投げかけた。
 前方に座っている女性が、不思議そうな顔をする。

「え、ええ……その、戸高さんも、妹さんからお聞きになったんですよね」

 詳細までは教えてくれなかったが、大体の概要は聞いている。
 だが泰宏の知りたいのは、そんなことではない。

「私が本当かどうか知りたいのはいじめがあったかではなくて、貴女が何もしなかったという点です」

 泰宏の言葉で、相手の表情が曇る。
 直後に、申し訳なさそうに口を開いた。

「正確には違います。授業参観の際に煽るような――」

「――ではなくて。対処をしなかった……というのは、嘘なんじゃないですか」

 虚を衝かれたように、祐子の両目が大きく見開かれた。
 言葉にしてこそいないが。どうしてそれをと言っているみたいだった。

「隠す必要はないですよ。もちろん、恥じる必要もね。小石川さんは精一杯やったはずです」

 わかったふうな口を利かないでと、怒鳴られてもおかしくなかった。
 けれど祐子は無言のままで、ポロポロと涙をこぼしていた。それが泰宏の言葉を、肯定しているようなものだった。

   *

 ――小石川さんは精一杯やったはずです。

 その言葉を聞いた瞬間に、祐子は大量の涙を溢れさせていた。
 策略で流す以外は、男性の前で泣いたのは初めてだった。
 それぐらい、人前では涙を見せる機会は少なかった。

 泣いている自分に気づいた祐子は愕然とした。
 それもこれもすべて、目の前にいる男性のせいだった。
 責められるのを覚悟していた祐子に、まったく予期せぬ台詞を送ってきた。

「すみません。泣かせるつもりはありませんでした」

 差し出されたハンカチを受け取って涙を拭う。
 気持ちが落ち着いてきたところで、ふうとため息をつく。みっともない姿を見せてしまった。
 ある程度の冷静さを取り戻した祐子は、相手のハンカチを借りたままにする。

「ハンカチ、ありがとうございました。きちんと洗ってお返しします」

 普段よりも毅然とした態度で告げてから、スカートのポケットの中へ丁寧にしまう。すると相手男性は「小石川さんの涙なら、大歓迎なのですけどね」と言ってきた。

「戸高さんは、特殊な趣味の方だったのですか」

 冗談だとわかっていたので、乗るような形で言葉を帰した。
 しかし泰宏は、真面目な顔つきで「そうかもしれませんね」と応じる。

 不思議な態度に、祐子は目をパチクリさせる。
 やはりこの男性はつかみどころがない。これまで交際してきた男性陣とは、明らかに毛並みが違っていた。

「否定……しないんですか? 変態さんだと思われますよ」

 相手のリアクションがいまいち理解できず、つい質問してしまっていた。嫌な顔をされるかと思ったが、むしろ泰宏は笑っていた。

「自分でもよくわからないのに、即座に否定はできませんよ」

 なにかと言い訳をしようとはせず、堂々と自分の考え方を教えてくれる。

「でも、変な誤解をされたらどうするんですか」

 なおも祐子が食い下がると、当たり前のように「別に構いませんよ」と発言した。

「まるで悪者みたいに聞こえますけど、少数派を変態と呼んでいるだけでしょう」

 言われて祐子も、なるほどと頷いた。意識してこなかったが、確かにそのとおりである。何でもかんでも、変態等の言葉で片づけるのも考えものだなと反省する。

「やっぱり、小石川さんは素直な女性ですね」

 唐突な相手男性の発言に、またもや祐子は目を丸くする。これまで可愛い等の褒め言葉を数多く受け取ってきたが、素直だという評価をするのは泰宏だけだ。

 どのような反応をしたらいいかわからずに戸惑っていると、顔面がカーっと熱くなってくる。ここに至って、祐子はようやく自分が柄にもなく照れているのだと悟った。

「どうして……そう思われたんですか」

 照れ隠しというわけではないが、口先だけの言葉だったのかどうか知りたくて、祐子は泰宏へ質問した。
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