第12話 牢獄の怪物 パート2の3

文字数 2,423文字

  『ドンッ!』と、打撃音が空間中に響き渡る。

 『ピキピキ』。空間中にヒビのような割れ目が徐々に広くなる。

「ヤット、出テキタネ笑」
「あぁ、出てきてやったよ。このクソが!」

 『クソ』。とても上品な言葉ではない。でも、それを言わなければ、私の怒りは収まらない。

「こい! オーク! ここからは、1対1の対決だ!!!」

 妙な緊張感が、足を出すのを許さない。

(何分たったのかな?)

 私とオークの間に生まれた、妙な緊張感のせいでお互い、攻撃を加える瞬間が、よくわからない。

「なぁ、オーク。あんたここにどのくらいいるんだい?」
「サァーナ。気ヅイタラココニイタ」

(気づいたら?)

「今日、この日まで何人の人間を食らった!?」
「知ラネ」

 オークは、『ニヤリ』と笑い、自身の歯を見せつけた。部分的に赤色に染まっていた。

「なるほど、よくわかったよ」

 倒す、そして、殺す! 今ここで倒さなければ、こいつは私たちを食らった後に、ここを出て、住民たちに危害を加えるだろう。だったら・・・

「ア? ナンダ?」

 さっきまで、あたり一面を覆っていた妙な緊張感が、一切ない。

 私は、無意識のうちに足を前に出した。

「オ――――ク!!!」

 右手を力いっぱい握りしめ、オークの腹部を殴った。しかし、腹部殴った感覚はなく、ゴムボールを殴ったような感覚だった。

「ソレガ、本気、オ嬢様?」
「当たり前だろ」
 
 昔、セバスチャン(父親)から教えられた言葉があった。

「お嬢様、どんな時も全身全力で、今出せる力を最大限に出しましょう。そうすれば、きっと道は開きますって、セバスチャンが言っていたのだから!!!」

 一発ではうまくダメージを与えられなくても、何度も何度も殴り続ければ少なくてもダメージ入るはずだ。
 
 私は、何度も腹部を殴った。それでも、オークはダメだった。

「ダカラ、ナンド言ッタラワカルノカナ? 君ノ攻撃ジャ僕ニダメージハ入ラナイヨ」
「それでも、やり続ければ、あんたはいずれもがき苦しむさ!」
「ダッタラ、コノ場デ殺シテヤル」

 オークは、私をつかみ、力一杯握った。

「い、痛い!」
「ダ、ダロウ! ダカラ、アンタニハ、無理ナンだヨ!!! アンタモアイツノ後を追ウンダナ!!!」

(あいつ? まさか!)

「せ、セバスチャン! セバスチャンはいないの!!!」

 オークの手の中から、牢獄の中を探すがセバスチャンの姿は見えない。

「アイツ、セバスチャンッテ言ウノカ。無惨ナ最後ダッタナ」

 オークは、自身のお腹を見た。

「アイツモ今頃、オ腹ノ中ダロウ!」
「・・・」
「久シブリ、ダッタカラメチャクチャオイシカッタナ~!」

 せ、セバスチャンが死んだ? しかも、こんな奴に食われたの? 
 
 つまり、もう会えないってこと?

「オ嬢様モ、アイツノ後ヲ追ワセテアゲルヨ」
「せ、セバスチャンが死んだ?」

 オークは、私を持っている手を口元に近づけた。

 『キャキャキャッ!』と、オークは笑っていた。

 口の中に放り込まれた私。でかい舌の上で横になっている私に、『ベタベタ』とオークの汚い唾液がまとわりついてくる。

「せ、セバスチャンが死んだ」

 私は、その事実のせいか、他のことに頭が回らなかった。

「わ、私も、もう少しでセバスチャンの元に・・・」

 体一面にオークの唾液がまとわり、喉の間を滑り落ちた。多分、この先にあるのは、胃だ。

 もう、私の精神的にも身体的にも動く気力も何もない。

「さ、さよなら」

 喉の間を滑り落ちた私。噴門と呼ばれる胃の入り口が見えた。あれを通れば、私もセバスチャンの元に行ける。

(私は、結局何もつかめなかった)

 住民たちのために、国のために、そう思って住民たちのために動き慕われても、結局は人は裏切る。私を唯一裏切らなかったセバスチャンですら、もうこの世にはいない。私は全てを失った。

「楽しいか! もっと、笑え! ハッハッハッ!」
「キャキャキャッ!!!」

 私の脳内に誰かの声が聞こえる。

「グレン、お前は、いずれこの国のお嬢様になる。そして、住民たちから慕われるだろう。しかし、住民たちから慕われるのが当たり前だと思うな。そう思ってしまったら、裏切られたとき、お前は絶対に悲しむ。グレン、聞いているのか?」
「寝ちゃっていますよ」
「いや、俺にはわかる。グレンはすぐそばにいる」
「え? どこに?」
 
 顔の見えない男の人は、私を指さした。

「グレンを前が今いる所は、お前の人生の最低地点だ。そこから、立ち上がれれば、お前はとても立派なお嬢様になれるだろう。だから・・・」

(あ、あぁ・・・!)

「立ち上がれ! 国のために! 守れ! お前の未来を!」
 
 そう、男は言った。

「せ、セバスチャン!」 

 私は、目を覚ました。セバスチャンと母が守ってくれた命を守るために、そして、ヴィトゥの手によって落ちた国を、お嬢様として守るために。

「私は、生きて帰るんだ!!!」

 『ドドドドッ!』と、オークの腹の中から何度も何度も殴った。『ベタベタ』と、まとわりつく唾液を一切気にせずに、無我夢中で殴りまくった。
 
「私を、ここから出しやがれ!!!」

 私は、殴った。その瞬間、オークの胃から液体が流れ出てくる。私は、その液体に押されて流れてくる物体に乗った。

「オォヴェェ!!」

 意外と地面が近かったおかげで、そこまで、大きなけがをすることなく口の中から出ることが出来た。

「ナ、何ゼダ!!!」 
「私には、聞こえた!!! 母親を失った私を悲しくさせないために、国王の座を降りて私のサポートに回ったって。そして、ヘブンの国を守ってくれっと託されたんだ!」
「キ、貴様!!!」
「もう、あんたになんか負けるつもりも、ここから逃げだろうと思う気持ちはない。オークあんたをここで、抹殺する!!!」

 私の方にやってくるオークに焦点を集め、両手を広げた。

「消滅しろ! この世界を脅かすケダモノとして!!!」

―――破壊!!!

 私の両手から放出された、黒い球体がオークの体を囲んだ。
 
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