第14話 異世界お嬢様の『ざまぁ』みろ!!!

文字数 4,360文字

「死ね! グレン!!!」
「そうだ! そうだ!!!」

 私の考えは1つしかない。

(この国のために、住民のために、そして・・・)

「みんなのために!!!」

―――破壊!!!

 両方の手を前に突き出し、黒い球体を放出させた。

 ゆっくりと、ゆっくりと、黒い球体は進んでいく。

「お前も、スキルを使えるのか!!!」
「こんな、遅い球体を出すスキルなんて私の前では無力だ!!!」
「なに!?」

 レグンは、自身の体を粘性の液に変化させ、黒い球体を包み込んだ。徐々に小さくなっていく黒い球体。レグンは、完全に消滅させると、再び人の姿に戻った。

「どうだい? これが彼女のスキル、自由変化(スライム)」
「あ、あなた!? このスキルをどこで手に入れた!?」
「レグン?」
「あの女のスキルは、あの人のスキルに似ている!!!」

 あの人?
 
 レグンは、蛇のような形相で私を見ている

「おい! 聞いているのか! どこで、そのスキルを手に入れた!!!」
「・・・」
「そのスキルは、あの人のスキルなのよ!!! それが、無ければあの人は消滅してしまう」
「知らないよ・・・」
「あなたは、スキルがなくてもこの国を統一することが出来るかもしれないけど、あの人にはそのスキルが必要なの!!!」
 
 レグンは、私を見ている。目の前に蛇がいるような感じがする。手足がうまく動かない。

「どうしても、必要なの?」
「そのスキルは、あの人が持っていたものよ!」
「このスキルで、その人は、何をしたの?」
「そりゃ! すべてを破壊しまくったよ! 当たり前だろ! 強大な力があるなら、それを使わずにはいられない! それが本能だろ!!! ハァハァハァ!!!」

 破壊することが本能? それを本気でそうレグンは思っているのだろう。到底、私には理解できない。

「わかったよ」
「え! なに? 返してくれんの?」
「うん。私は強大な力とか興味ないから」
「マジで! ヴィトゥよりも理解能力あるじゃん!」

 レグンは、『ニコニコ』と笑みを見せながら、私に向かってきた。

「1つ聞きたい。スキルの受け渡しってどうやってやるの?」
「それはね」
 
 『ザクッ!』と、私のお腹に鋭利な刃物が刺さった。とても、短い刃の部分の冷たさが私の体内から感じる。

「そのスキルの持ち主が死ねば、その人を倒した人に受け継がれるんだよ!」
「そうか、そういうことだったのか」
「うん。じゃあね、聞き分けのいいお嬢様」

 私のお腹に刺さっていた刃物がさらに私の体内に深々と突き刺さる。

「待て!」
 
 私は、レグンの腕をつかんだ。

「この距離では、体を変化させている暇はないよね?」
「え?」

―――破壊!!!

 私は、レグンをつかんだ方の手から黒い球体を出した。

 レグンが言っていた通り、強大な力は使わなければもったいない。しかし、その代わり使われた側が悲しんでしまう。

「私は、この力をそんな奴みたく使うつもりはない!!! この力で私は、この世界を救う!!!」

 つかんでいない方の手からも黒い球体を出して、レグンにぶつけた。

「こ、このくそ野郎が!!!」

 レグンは、完全に消滅した。

「ヴィトゥ! 次は、あんただよ!!!」
「ば、バカな!」

 私にはもう、何もない。こんな状況を住民たちは見ている。平和を守るためには、戦うことが必要だ。でも、そんなの間違っている!!!

 私は、両手をヴィトゥに向けた。

「さようなら、ヴィトゥ」
「ちょ、ちょっと待っ!!!」

―――破壊!!!

「ダメだ! グレンお嬢様!」
 
 誰かが、私の後ろで叫んだ。

「そいつは、確かに俺たちにひどいことをした。でも、そこまでやる必要なないと思う!」
「グレンお嬢様、レグンがいなくなった今、そのものが私たちに危害を加える方法はありません」
「だから、もうおやめください。この国は平和な国です。その平和を守るために誰かを殺すのは、真の平和とはいえません。」

 みんな・・・。

「だから、後は任せてください」
 
 みんな・・・。

「いいの? ほんとに、今、やめても!?」
「はい! 私たちは、あなたについていきます!」

 みんな、ありがとう・・・。

「ば、馬鹿め!」
「み、みんな! 後ろ!!!」

 ヴィトゥがものすごいスピードでこちらに向かってくる。

「み、みんな逃・・・! き、君は!!!」

 『ドタッ』と、音を立てて私の前に立った。

「お待たせしました。お嬢様、セバスチャンの件は聞いております。あとは、この私にお任せあれ」
「き、君は確か・・・」
「私は、一度死んでおります。しかし、不思議な女神に呼ばれてこの時代に戻ってまいりました。そして、私以外にもおります」
「よくぞ、ここまでやってきました。グレンお嬢様、いや、グレン女王!」
 
 そ、その声は・・・

「セバスチャン!!!
「悲しい思いをさせてしまい申し訳ございません。私もよばれたのです。女神にいや、ガブリエラに」
「ここからは、私たちがあなたを守ります!!!」

 私の全方位に、私を守るサポートの人たち。

「だ、だから。どうなる!? 俺は、お前らを殺すまで止まらないぞ!!!」
「その心配はございません」
「なに!?」

―――空間創造(ルームクラフト)

 セバスチャンの手から大きな空間が創造し始め、その空間に触れた人から徐々に消えていった。

「あとは、お任せください」
「ま、待って!」

 『スッ』と、音を立ててセバスチャンは空間の中に消えていった。

「セ、セバスチャー――――ン!!!」

 その後、セバスチャン達は戻ってこなかった。
 
 数か月後、私の女王の即位の日。
 
「皆の者! 元気でありますか!!!」

 新しく建築された城、ヘブン城。私が、スキルを出せるようになってから徐々に、スキルを発動できる人が増え始めたおかげで、建築創造(ビルドクラフト)のお陰で、この城も数週間で完成した。

「女王様、即位のお時間です」
「そうか、もうその時間か」

 結局、その日までにセバスチャンは戻ってこなかった。
 
 華やかな歓声と、人々の喜ぶ顔がここから見える。それでも・・・

「女王! そんな顔じゃ華飾れないっすよ!」
「そうです! あなたはこの国を救った英雄なのですから!」
 
 確かに、この国を救った英雄かもしれない。でも、この国の闇を知った。そして、大切な人を失った。そのことを住民たちは知らない。

「結局、セバスチャンは戻ってこなかったか」
「そうですね。もしかしたら、どこかにいるのかもしれませんね」
「そうだね~」
「貴方は、今日から本格的に女王なのですから。少しは、それを自覚してください」
「は~い」
「貴方に、会いたいとたくさんの人が来ております」
 
 この国に住む住民たちが城の前に集まってきている。そして・・・

 ”彼”を見た時、私の目から涙が流れた。
 
 『コツコツ』と、分厚い靴を流しながら私の方に向かってくる。

「あ、あ、せ・・・」
「長い時間待たせてしまい申し訳ございません」
「あ、あ、セバスチャン!!!」

 私は、抱きしめた。目の前にいる、私が待っていた男の帰りを。

「おやめください。女王様」
「まだ、女王じゃないよ」
「ですが、皆様が見ていますので」
「娘がパパに抱きしめて何が悪いの?」
「そうですね。よくやったよ、グレンお嬢様。いや、グレン」

 うれしい。その感情だけが、私の中に存在している。

「さぁ、女王の即位の儀が始まりますよ」
「うん」

 私は、もうお嬢様ではない。この国を統一するお嬢様だ。この不思議な異世界で生きる異世界元お嬢様だ。

「みんな、ありがとう! 今日私のために集まってくれてほんとにありがとう!」

 広い壇上は、城よりも低いけど、城からみるよりも人がたくさん見える。よろこび、悲しみ、たのしみ、そんな感情が住民たちの顔に現れている。

「とある悪党の手によって私は、一度牢獄に入った。そこは、とても暗くて死んでしまうかも知れなかった。悲しかった。でも、私の大好きなセバスチャンがいたから、その場から脱出できた。だから・・・」
「じょ、おじょう様?」
  
 私は、セバスチャンに向けて頭を下げた。

「ありがとうございました!!!」

 私を成長させてくれてありがとう。そして、私を大切に思ってくれてありがとう。

「私はもっと、この世界について知りたい。だから・・・、だから・・・、だから・・・!」
 
 『ふぅ~』と、息を吸って呼吸を整えた。私の考えはもとから変わらない。

「私、グレン・パワフィーは、王女の座を前王アーサー・パウフィーと前王女ガブリエラ・パウフィーに返還します!!!」
「座を返還するの!?」
 
 セバスチャンは驚いていた。

「うん。私はもっと、この異世界について知りたい。だから、ごめん!!!」

 私は、持っていた煙幕を地面に叩きつけた。辺り一面に白い煙が充満している。

(ごめんね。パパ)

 私は、すぐに舞台裏に向かおうとしたのだが、誰かに腕をつかまれた。

「グレン、本当にいいのですか? 王女の座を捨てても?」
「いいよ、セバスチャン。私は、私の人生を歩みたい」
「なるほど。なら、自由に行ってきなさい。いつでも帰ってきなさい。あなたの人生はあなたが決めるのです」
「ありがとう、セバスチャン」

―――空間創造(ルームクラフト)

「ありがとうセバスチャン。また、いつか出会えたら」
「はい。お元気で、私たちの娘 グレン・パウフィー」

 私は、たくさんの人に迷惑をかけた。でも、これは私の人生。私の人生は私で決めたいそして、待っていてくれると言っていた人たちのためにも、私は先に進んでいく。
 
 セバスチャンの空間創造によってつくられた空間に入る前、セバスチャンともう一人の会話が聞こえた。

「あ、あの。女王の資格返してもらいましたか?」
「えぇ。もちろん、これですね?」
「大変申し訳ないのですが、これ偽物です」
「えぇ!」

 ゆっくりと私の方を向く、セバスチャンに向けて言った。

「私をだますなんて、100万年早いよ!」

 完全に空間が閉じ切り、気が付くと何もない平原が広がっていた。

「これが、外の世界か!」

 無限に広がる草原、そして、ピンク、紫に色を変化させる桜など、ヘブンの中では絶対見ることのできない光景が広がっていた。
 
 胸元の首下げた女王の資格が、太陽の光を反射させ綺麗に光っている。女王の座を返還した私は、王女ではないから、このペンダントをつける権利はない。でも、私は一瞬だけ王女になったのだ。元女王として、別につけていても問題はない。

「セバスチャンには、申し訳ないことをしちゃったな」
 
 それでも、あの場から私を解放してくれたのは、セバスチャンだ。

 どのくらい感謝を伝えたらよいのだろうか。私はそれをわからない、だからこそそれを探すのがこの冒険の目的である!

 そして・・・

「ざまぁみろ!!!」

 これが、異世界のお嬢様が、この世界で生きる最初の言葉だ!!!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み