二十七

文字数 693文字

 男にバスを運転させ、劉建を客席に縛り付けた。劉建の額には大粒の汗が浮いている。青ざめ、被弾した腕にタオルを巻いたまま、荒い息をしていた。ハダが後部座席から二人に銃口を向けていた。
「その日本人が降りる場所まで案内しろ」
「ア、アンタ何者ナンダ? 本気デ撃チヤガッテ」
「うるさい、言う通りにしろ」
「ケッ、日本ノヤクザダカ何ダカ知ラネエガ、後デ覚エテロヨ」
 運転手がバスを出した。
「その日本人とは一体何者だ?」
「知ラネエヨ。二十年モ前ニフラット現レテ、時々バスニ乗セルダケダ。噂デハ画家ダトカ聞イタガ」
「その日本人は何をしに北の街まで来る?」
「ダカラ、知ラネエッテ」
 すると、ハダが劉建に銃を突きつけた。
「お前、実は知っていたな?」
 劉建が目を逸らす。傷口に銃口をあて、力を込めた。
「ワカッタヨ、全部話スカラ」
 ハダが銃を戻した。
「アイツハ、ココラ辺ノジャンキーニハ知ラレタ存在デ、確カ名ハ『コバヤシ』トカ呼バレテイル日本人ダ。二十年前ニ、アル人ト共ニ島ニ来テ、ソレ以来ズット住ミ続ケテイルト聞イタコトガアル。画家ト言ウガ、本当ハ贋作絵師ラシイ。時々四角イ板ノヨウナモノヲ持ッテバスニ乗ル」
 その名前に聞き覚えがあった。上海の船上オークションに組織の贋作を出品したのが、確かコバヤシという名だった。そして、その時、組織はタザキノボルの『白月』の贋作を出している。
「コバヤシという男は、台北の黒社会の構成員か?」
「サア、ソコマデハ知ラナイガ、ソイツト一緒ニ居タ男ヲ知ッテル」
「そいつは誰だ?」
 劉建が溜息をついた。
「白蓮幇ノ、孫小陽トイウ男ダ」
 つながった。間違いなく孫小陽はこの島に来ている。
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