2. 迎撃準備
文字数 2,193文字
アベルとリマールは、この関所 で、アスティンのほかにもう一人懐 かしい人と会った。衛兵長のイシルドだ。あのイルマ山から王都までの過酷 な旅の中でここへ来た時、彼はいろいろと宿泊の世話をしてくれたり、イスタリア城まで送ってくれた。
しかし、以前のように愛想よく接してくれた彼だったが、その笑顔には気苦労 と疲れが感じられた。今、関所の衛兵 たちは、間もなく始まろうとしている戦争に備えた訓練をしている。彼は、二度とそうならないで欲しいと祈っていただろうに。
それから一行は、アスティンと一緒にここに残っていたコラルとも会った。その時、アベルもリマールも、やっと会えたという気がした。そもそもこのご老人とは、ヘルメスの指示によって、あの旅の中ですでに出会えているはずだった。だが留守だったのだ。今は、それを幸運だったと二人は思う。だって、孫のラキア、可愛らしくて楽しい彼女と知り合えて一緒に旅ができたのは、そのおかげだから。
そして夜には、そのコラルに呼ばれて、関守 マルクスが用意してくれた応接室に集合した。この広い館内には応接室のほか、会議室なども多く何種類も用意がある。人数やその顔ぶれ、また議題によってただちに適切な場所を提供できるように。
一行が通されたのは、十二人以下に対応した、中でも小さな応接室。真ん中に置いてある四角いテーブルを、三人掛けのソファーが取り囲む。部屋の隅 に、本棚とキャビネットが隣合わせに並んでいるが、接客の場らしく、夕映えの大河の絵や観葉植物で飾られていた。
本格的な会議で話し合う前に、一行は、関守マルクスから迎撃 準備についての考えを聞いていた。要は、敵に狙われている西のこの大街道 の関所と、橋を越えた東側にある、同じく標的 となっているイスタリア城に、どこからどれだけの援軍を送り込むかということだった。
「レイサーの部隊も行くんでしょう?」
まだ何かほかにも言いたいことがありそうな顔で、アベルがきいた。
カルヴァン城から兵を出すことは、ほぼ確定している。戦地までの距離や軍事力からみて妥当 で、その城主ルファイアスがもうここにいるのだ。しかもカルヴァン城の兵士は、代々その指導者が素晴らしく、かなり心強い存在である。つまり、レイサーたち兄弟の父ラドルフも、当然、名騎士だ。息子たちと同じように、武勇に優れているとして有名だった。
「ああ、兄貴に自分から申し出た。幼馴染 みの城だしな。」
「アルヴェン騎士。」と、アベル。
彼は、イスタリア城主エオリアス騎士の長男で、跡取 りである。少年時代は、レイサーとも一緒に騎士になる訓練を受けていたと、以前会った時にアベルは聞いていた。親しみをこめてレイサーを友だと言った、少し鋭 くて端整 な彼の顔が目に浮かんだ。
「あの、僕も連れて行ってください。」
アベルは身を乗り出した。
「僕も。」
アベルの力になりたい! と、リマールは思った。
「じゃあ、あたしも!」
アベルと一緒にいたい! と、ラキアは思った。
「じゃあって、お前な。アベルはともかく、お前たちじゃあ戦力にならないだろ。」
レイサーは呆 れて背をそらし、腕を組んだ。
「僕は軍医(見習い)だ。戦力を回復させられる。」
「あたしは精霊使いだよ・・・なんかできるよ。」
「術を使って焼き殺すとか、できても無しだぞ。だいたい、お前に殺人なんてできないだろう。俺だって、お前を戦場に立たせるとか有り得ないし。」
「しかし、道中では大いに役立つんじゃないか。彼らみんな。」
ルファイアスが穏やかに口を挟んだ。なんでもない言葉にも威厳 が滲 む。軽いやりとりも、いっきに落ち着かせる声だ。
レイサーは、腕を組んでいるそのまま考えた。
ほかが未熟なのが気になるが、アベルの驚異的な弓の腕は、城を守る戦いではかなり頼もしい。それに加えて、風の声(アベルが言うには)から何らかの情報を得ることができる。リマールは、病気や怪我に対して適切な処置がとれるし、ラキアは・・・困った時にはなんか役に立つかもしれない・・・か。確かに、前回の経験から、この少女にしかできないこともある。
「だがアベル、戦士として行くというなら、もう敵を殺すつもりで・・・だぞ。」
「僕も、覚悟を決めて兵士の道を選びました。大切なものを守れる力をつけたくて。だから、大丈夫。やれます。」
アベルは、しっかりと首を縦に振って答えた。
その目に、レイサーも固い決意を見て取った。アベルの素性 を考えるとまだためらいは残るが、うなずかないわけにはいかないと思わされた。兵士になると決めた彼の前に、もはや王弟であることを引き出すべきではないと。
レイサーは、わかった・・・というように、一つうなずき返した。
「陛下 には、私から伝えておこう。反対はするまい。」
ラルティスが言った。
彼は、ここでの会議のあと、やはり王都へは行く予定を立てていた。何が起こったとしても、どんな理由があろうと、彼には全ての責任と報告義務がある。
しかし、以前のように愛想よく接してくれた彼だったが、その笑顔には
それから一行は、アスティンと一緒にここに残っていたコラルとも会った。その時、アベルもリマールも、やっと会えたという気がした。そもそもこのご老人とは、ヘルメスの指示によって、あの旅の中ですでに出会えているはずだった。だが留守だったのだ。今は、それを幸運だったと二人は思う。だって、孫のラキア、可愛らしくて楽しい彼女と知り合えて一緒に旅ができたのは、そのおかげだから。
そして夜には、そのコラルに呼ばれて、
一行が通されたのは、十二人以下に対応した、中でも小さな応接室。真ん中に置いてある四角いテーブルを、三人掛けのソファーが取り囲む。部屋の
本格的な会議で話し合う前に、一行は、関守マルクスから
「レイサーの部隊も行くんでしょう?」
まだ何かほかにも言いたいことがありそうな顔で、アベルがきいた。
カルヴァン城から兵を出すことは、ほぼ確定している。戦地までの距離や軍事力からみて
「ああ、兄貴に自分から申し出た。
「アルヴェン騎士。」と、アベル。
彼は、イスタリア城主エオリアス騎士の長男で、
「あの、僕も連れて行ってください。」
アベルは身を乗り出した。
「僕も。」
アベルの力になりたい! と、リマールは思った。
「じゃあ、あたしも!」
アベルと一緒にいたい! と、ラキアは思った。
「じゃあって、お前な。アベルはともかく、お前たちじゃあ戦力にならないだろ。」
レイサーは
「僕は軍医(見習い)だ。戦力を回復させられる。」
「あたしは精霊使いだよ・・・なんかできるよ。」
「術を使って焼き殺すとか、できても無しだぞ。だいたい、お前に殺人なんてできないだろう。俺だって、お前を戦場に立たせるとか有り得ないし。」
「しかし、道中では大いに役立つんじゃないか。彼らみんな。」
ルファイアスが穏やかに口を挟んだ。なんでもない言葉にも
レイサーは、腕を組んでいるそのまま考えた。
ほかが未熟なのが気になるが、アベルの驚異的な弓の腕は、城を守る戦いではかなり頼もしい。それに加えて、風の声(アベルが言うには)から何らかの情報を得ることができる。リマールは、病気や怪我に対して適切な処置がとれるし、ラキアは・・・困った時にはなんか役に立つかもしれない・・・か。確かに、前回の経験から、この少女にしかできないこともある。
「だがアベル、戦士として行くというなら、もう敵を殺すつもりで・・・だぞ。」
「僕も、覚悟を決めて兵士の道を選びました。大切なものを守れる力をつけたくて。だから、大丈夫。やれます。」
アベルは、しっかりと首を縦に振って答えた。
その目に、レイサーも固い決意を見て取った。アベルの
レイサーは、わかった・・・というように、一つうなずき返した。
「
ラルティスが言った。
彼は、ここでの会議のあと、やはり王都へは行く予定を立てていた。何が起こったとしても、どんな理由があろうと、彼には全ての責任と報告義務がある。