第4話 離婚の決心

文字数 1,929文字

6時に奥の部屋で見覚ましが鳴った。セットを外すことを忘れていた。未希が目を覚ましている。まだ暗いが、今日は朝から晴れている。

「おはよう、しばらくそのままにしていて、朝食を作るから」

「私がします」

「いいから、休んでいるといい」

あの時のように、俺は朝食を準備する。昨夜の決心から気合が入っている。今日と土日を含めて3日間は未希が生活のできるように手助けをすることに決めている。

すぐに出来上がったので、未希を呼んだ。

「いつも同じ朝食で悪いね」

「懐かしい食器ですね」

未希はおいしそうに食べていた。

「未希は戻って彼とやり直す気はないのか?」

「もう何回かはやり直そうとしましたが、同じことでした。もうやり直せません。別れます」

「そうか、しかたないか」

未希は大事な時に果敢に決心する。ここへきて俺の言いなりになる時も、高校へ復学する時も、専門学校に行く時も、ここを出て自立する時も、要所、要所では自分で判断して決心して来た。俺はそれを見ていた。未希の決心は揺らがないだろう。

「それでこれからどうする。家出したのなら、衣食住を確保しなければならないけど」

「銀行のキャッシュカードは持っているから、お金は引き出せる。健康保険証もある。携帯もある」

「預金はいくらぐらいある?」

「私の口座に100万円ぐらい、彼が勝手に引き出していなければだけど」

「離婚するとなると、俺のところで同居していてはいけない。どこかを借りた方が良い。あとでオーナーに部屋が空いていないか聞いてあげる。未希が住むと言えば割引してくれるかもしれない」

朝食を食べ終わると未希が後片付けをしてくれる。俺はあのころを思い出してそれを黙ってじっと見ている。随分昔だったようにも、つい昨日のことだったようにも思えた。

それから二人でオーナーのところへ部屋が空いていないか聞きに行った。

オーナーは未希と久しぶりに会ってとても喜んだ。そして部屋の相談をすると事故物件があるので良かったら入ってみないかと言ってくれた。

半年前に3階の4号室の住人が、亡くなってから1週間後に発見されて、事故物件になったとのことだった。

ずっと借り手が見つからないので家賃は半額の4万円でいいと言う。未希はすぐに借りることに決めた。

キャッシュコーナーから現金を引き出す。すでに20万円が使われていたとのことだった。残金をすべて引き出そうとするが、カードでは1日50万円しか引き出せない。

それでも当分の間、生活するには十分ある。未希は貯金が大切なのが今、分かったと言っていた。

今後のこともあるので、俺は医者で青あざの診断書を取っておくことを勧めた。そして、近くの整形外科の医院に診察してもらいに行った。

写真も撮って診断書を書いてもらった。これはこの後の離婚訴訟などで重要な証拠になる。

それから、ユニクロに着替えを買いに行った。戻って未希は着替えをした。そして、俺の部屋からバケツと雑巾と掃除機を持って行って、借りた部屋を二人で掃除した。

ルームクリーナーが入って前の住人の痕跡はなにもなかったが、随分とほこりが溜まっていた。部屋が近いと何かと便利だ。

部屋がきれいになると、今度は家電量販店へ行って、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、炊飯器、テレビを買った。

それから、総合スーパーへ行って布団を1組注文した。また、ベランダのガラス戸にカーテンを買った。

安売りの家具専門店へ行って、食器棚、整理ダンス、テーブルと椅子、座卓、ソファーを購入した。

未希は俺の部屋にあるものと同じものをそろえたがった。そして調理器具をひととおり買いそろえていた。食器はすべて二組買っていた。

日曜の3時ごろまでには家財道具がある程度揃った。布団も届いたのでこれで自分の部屋で寝られる。1週間以内には注文したものがすべてそろうだろう。

俺の部屋に二人で戻ってきて、コーヒーを飲んで一休みする。少し疲れた。

「ありがとう。これで、一人で生活できるようになりました」

「よかった。これで本当に自立だね。費用も全部自分で払えたから」

「これからもよろしくお願いします」

「俺はいつまでも未希の保護者だからサポートすると約束しよう。これから食事に行こう。自立のお祝いというのもなんだが、父親から自立した時に行った例のレストランで」

「嬉しいです」

未希は嬉しいと言ったが、俺も嬉しかった。未希が俺の手の中に戻ってきた。大事にしないとまた失ってしまう。今度はそういう間違いをしたくないと思っている。

今ここで以前のように未希を押し倒して自分のものにすることはできる。未希も俺に身を任せるだろう。でももうそんなことはしたくない。時間をかけて、二人の結びつきをもう一度少しずつ強くしていきたい。未希もそうしたいはずだ。
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