第8話 アルバイトを始めたい!

文字数 1,822文字

今週もようやく金曜日。今日も帰りが遅くなった。9時過ぎにアパートに着くと、未希が玄関まで迎えに出てくる。

「おかえり」と言うので「ただいま」と答える。このごろは帰ってくると必ず迎えに出てくる。未希の顔をみるとなぜかほっとする。

「夕飯は食ったのか?」

「食べた」

「俺は弁当を食べる。お湯を沸かしてくれないか?」

未希はお湯を沸かしにキッチンへ行った。冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出す。テーブルに座って、レンジで温めた弁当を食べる。弁当はどれを食っても同じ味だ。いい加減に飽きる。俺の食べるのを未希が見ている。

「未希は毎日弁当で飽きないか?」

「パンも買って食べている」

「そうか」

「おじさん、アルバイトをしてもいい?」

「アルバイト?」

「下のお店で」

「どうして?」

「お店のオジサンに人手が足りないから、時間があるのならアルバイトをしないかと言われた」

「どう答えた?」

「おじさんと相談してみると言っておいた」

「やりたいのか?」

「うん。前にしたことがあるから」

「俺の帰りは毎晩遅いから一人で居ても退屈だろう。寝る時に居ればいいから、あとの時間は自由にしたらいい」

「分かった」

「明日、オーナーのところへ一緒に行こう。時給などの条件を確認しておこう。その時、二人の関係を聞かれるだろうから、そうだな、俺の姪つまり俺の姉さんの娘ということにしないか? 事情があって預かっているということにする。いいね」

「言うとおりにする」

食事を終えるともう10時になっていた。今日は疲れたので、すぐに風呂に入って寝る。未希は生理が終わっていたので、久しぶりにぐったりするほど可愛がってやった。仕事の疲れもあって、すぐに深い眠りに落ちた。

目が覚めるともう9時だった。今日は土曜日だから、ゆっくり寝ていた。朝食を終えると二人で下のコンビニに行った。丁度オーナーがいたので、未希のアルバイトについて相談した。

時給800円、一日5~8時間、週5日、シフト制、夜は8時まで、給与は毎月25日に銀行振込と言うことになった。1か月10万円以上は稼げる計算になる。

部屋に戻ってから未希に聞いた。

「未希は銀行口座を持っているのか?」

「持ってない」

「そうかやっぱりないか、作らないといけないなあ。それじゃ聞くけど健康保険証は?」

「持ってない」

「健康保険に入っていないのか?」

「分からない。お母さんとお医者さんへ行ったときに見せていたように思うけど」

「じゃあ、こっそり家へ行って持ってこられる?」

「ないと思う。お母さんが死んでから見たことないから」

「 お母さんはいつ亡くなったんだ?」

「今年の4月、急に。それから、お父さんがおかしくなって」

「それが家出の理由か?」

未希は頷いた。

「それじゃあ聞くが、家に帰る気はないのか?」

「ここにいたい。お父さんとはもう暮らしたくないから」

「俺にやりたい放題されてもか?」

未希は頷く。

「分かった。このままじゃ、何かと差しさわりが出てくる。病気になったら健康保険証が必要だし、これからアルバイトをするにしても銀行口座は必要だろう。キャッシュカードもあったら便利だ。どうしたらいいか考えてみる」

すぐにネットで銀行口座の作り方を調べると健康保険証でOKらしいが、未成年者は親の承諾が必要とされていた。これが問題だ。保険証は家にある可能性がある。

それに18歳でも未成年者だからこのまま同居するにしても親の承諾は得ておいた方が無難だろう。せっかく手なずけた未希をいま手放したくない。

これはめんどうだが、父親に会う必要があると思った。父親の携帯番号を聞くが分からないと言う。

「未希の家はどこにあるんだ?」

「青物横丁」

「ええ、どこだ?」

「京浜急行の青物横丁です」

「そうか、ここから遠くないから、これから未希の親父さんに会いに行く」

「会ってどうするの?」

「同居を取り付けてくる。そして必要なものを貰ってくる」

「私も一緒に行くの? お父さんには会いたくない」

「家の前まで連れて行ってくれればいい。親父さんとは俺が話を付ける。どこかで待っていればいい」

未希は父親が家に居るかどうか分からないと言ったが、俺を家に連れて行くことを承諾した。

俺は未成年の未希が親から離れて同居生活する場合に必要になるものを考えた。とりあえず、銀行口座と印鑑とキャッシュカード、健康保険証、住所変更のための転出証明書、親の同居の承諾書、あと父親の携帯の番号くらいかなと思う。バッグに筆記用具、コピー用紙などを入れる。
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