第33話 20歳の誕生日、自立と旅立ち

文字数 1,282文字

2月になって未希の就職先が決まった。未希はコックとしての腕を試してみたかったのだと思う。中堅ホテルチェーンのホテルのコックとして採用された。独身寮があるという。未希は俺にどうするか相談した。

「就職が決まったけど、独身寮があって希望すれば入れるのですが、どうすればいいか迷っています」

「未希はどうしたいんだ」

「いつまでもおじさんのお世話になっているのも申し訳ないし、でも今までのお金を返し終えていないと思うし」

「俺は、未希はこのまま俺と一緒にいるより自立した方が良いと思っている。お金は身体でもう十分に返してもらった。気にすることはない」

「それなら、独身寮に入ります」

「そうした方が未希のためだ。自立して好きなように生活してみるのがいい」

未希は嬉しそうだった。俺は、本当は未希を手放したくなかった。いつまでもこの手の中に置いておきたかった。

でも今の俺の身体の状態では未希を幸せにできない。今まで未希にしてきたことの 罰ばちがあたったと思っている。俺に未希を幸せにする資格などないと諦めもついてきている。未希の幸せのためには、ここから離れて自立させた方が良いと思っている。

未希の引越しの前の晩、未希の20歳の誕生日と就職のお祝いを兼ねていつものレストランで食事をした。これが最後の晩餐になった。俺は未希と何を話していたかよく覚えていない。

食事の後、いつものように二人で手を繋いで歩いて来た。公園のところ来ると桜が咲いていた。未希が夜桜を見たいと言うので、池の周りの遊歩道を1周した。1周で帰ろうとするともう1周したいと言う。

人がいないところで未希がしがみついて来て、キスをねだった。抱き締めてキスをする。別れが近づいていることはお互いに分かっている。

そして、アパートに戻ってきて、最後の別れを惜しんだ。初めて未希がアパートに来た時のように、二人でお風呂に入って、身体を洗い合って、ベッドに行って抱き合った。

俺は手と口で未希を可愛がった。未希はもうそれだけで何度も何度も昇りつめた。未希も口で試みてくれたがやはりだめだった。未希も諦めがついただろう。未希がぐったりするまで可愛がって腕に抱き締めて眠った。これで俺はすべて吹っ切れた。

朝、未希が俺に抱きついたので目が覚めた。未希は「ありがとう」と言った。俺も「ありがとう」と言った。未希がここへ来た時と同じに、俺が朝食を作って二人で食べた。10時に引越し屋が来て荷物を搬出していった。

それから、未希はアパートを出て行った。別れ際、俺は「困ったことがあったら何でも相談にのる。いつまでも俺は未希の保護者だ」と言った。

未希は嬉しそうに「ありがとう」と微笑んで去って行った。俺にはその後姿が嬉しそうでもあり寂しそうにも見えた。未希との2年4か月の同居生活が終わった。

***

これで、冬の雨の日にであった家出JKと性悪のサラリーマンとの凄まじいラブストーリー「冬の雨に濡れて」第1部 家出・同居編 はおしまいです。二人にとっては、めでたくもあり、めでたくもなしの自立の旅立ち・別離でありました。第2部 再会・自立編 をお楽しみに! 
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