虫すだく 2 (3)
文字数 806文字
「さあ、さっさと作りなさい! モウロクしたってそれくらいはできるで——」
のぞむが言い終わらないうちに、井上は細い腕をきつくつかんだ。
「痛いっ」
思わず叫んでしまったが、井上の手がゆるむことはなかった。
玄関の外に引きずり出したが、井上は一瞬ためらう。冷たい雨が降っていた。
チラリとのぞむの父親の顔が頭の中に浮かぶ。
しかし、理性よりも怒りがまさった。
玄関の外にひきずり出しただけではおさまらなかった。
のぞむを門の外に押し出すと、内側から門に鍵をかけてしまった。玄関の鍵はのぞむも持っているので、門に新しく鍵をつけたのだ。
のぞむはガシャンと目の前で鍵がかかるのを、唖然としてただ見ているしかなかった。
いつの間に鍵を取りつけたのか?
防犯の為でなく、のぞむをおしおきするためだけに業者に取りつけさせたというのか?
悔しさもあきれも通り越して、感心すらした。
*
のぞむはぎくりとして目を覚ます。今日の嫌なできごとを、夢の中にまで再現してしまった。
また雨にぬれたのかとかんちがいするくらい、寝汗をかいた。
矩の母親に連れられて家に帰ってきた時には、井上はもう帰宅していた。
正直ホッとした。
井上と戦っている醜い姿を、倉沢家の人たちに見られたくなかった。
のぞむは矩の母親が自分にがっかりするのを恐れたのだ。
帰ってきた時には電灯も消され、暖房も消され、家は閑散と寒々しかった。
「井上さん、帰っちゃったね。おばさんが帰ってもいいって言ってしまったから」
矩の母親は申しわけなさそうに言う。
「大丈夫です。お風呂にも入れさせてもらったし、ご馳走にもなったので、後はもう寝るだけですし」
かえっていないほうがいいと言う言葉を飲み込んだ。
そしてのぞむは深く頭を下げる。矩の母親はとまどった。
「ご迷惑をおかけしました。私が幼くて未熟なばかりに、おばさんにまで嫌な思いをさせてしまって……」
のぞむが言い終わらないうちに、井上は細い腕をきつくつかんだ。
「痛いっ」
思わず叫んでしまったが、井上の手がゆるむことはなかった。
玄関の外に引きずり出したが、井上は一瞬ためらう。冷たい雨が降っていた。
チラリとのぞむの父親の顔が頭の中に浮かぶ。
しかし、理性よりも怒りがまさった。
玄関の外にひきずり出しただけではおさまらなかった。
のぞむを門の外に押し出すと、内側から門に鍵をかけてしまった。玄関の鍵はのぞむも持っているので、門に新しく鍵をつけたのだ。
のぞむはガシャンと目の前で鍵がかかるのを、唖然としてただ見ているしかなかった。
いつの間に鍵を取りつけたのか?
防犯の為でなく、のぞむをおしおきするためだけに業者に取りつけさせたというのか?
悔しさもあきれも通り越して、感心すらした。
*
のぞむはぎくりとして目を覚ます。今日の嫌なできごとを、夢の中にまで再現してしまった。
また雨にぬれたのかとかんちがいするくらい、寝汗をかいた。
矩の母親に連れられて家に帰ってきた時には、井上はもう帰宅していた。
正直ホッとした。
井上と戦っている醜い姿を、倉沢家の人たちに見られたくなかった。
のぞむは矩の母親が自分にがっかりするのを恐れたのだ。
帰ってきた時には電灯も消され、暖房も消され、家は閑散と寒々しかった。
「井上さん、帰っちゃったね。おばさんが帰ってもいいって言ってしまったから」
矩の母親は申しわけなさそうに言う。
「大丈夫です。お風呂にも入れさせてもらったし、ご馳走にもなったので、後はもう寝るだけですし」
かえっていないほうがいいと言う言葉を飲み込んだ。
そしてのぞむは深く頭を下げる。矩の母親はとまどった。
「ご迷惑をおかけしました。私が幼くて未熟なばかりに、おばさんにまで嫌な思いをさせてしまって……」