虫すだく 4 (2)
文字数 796文字
聞き覚えのある声に、うつむきかげんの顔を、のぞむはゆっくりと上げた。そんな些細な動作さえ、一度通りすぎた弔問客がわざわざふり返るほどだ。
そこになつかしい顔を見つけ、枯れたと思ったものがあふれてきそうになる。のぞむはこらえた。
「これは倉沢さん、お久しぶりです」
宗介は愛想のよい顔を、矩の祖父と母親に向けた。
「矩くんもよくきてくれたね」
「お久しぶりです。お悔やみ申し上げます」
矩は深々と頭を下げる。
矩に会うのは本当に久しぶりだ。
別々の高校に通い出してから、顔を合わせる機会が格段に減った。
母親の看病もしなくてはならないのぞむは、多忙で、前に矩と会ったのがいつだったかも思い出せない。
「ああ、ありがとう」
父は愛想いい笑顔を矩に向けた。
「久しぶりに会ったら、ずいぶん背がのびたな。のぞむと同い年なんだっけ?」
「はい」
「じゃ、高校生か」
「はい」
「成績がいいらしいな。将来が有望だ」
宗介は葬式にはそぐわない軽快な笑い声をあげたが、矩も少し笑顔を見せた。
「たいしたことはありません。油断すればすぐに誰かに抜かされるし、いつも必死です」
「あいかわらず謙虚だな。ご立派なお孫さんをお持ちですね」
宗介が矩の祖父に声をかけると、
「まだまだ未熟です」
と、祖父は謙遜した。
倉沢の家族は挨拶を終えると、焼香をするためにのぞむたちの前から離れた。
その間、矩はのぞむにちらりと一瞥しただけで、声をかけるでもない。
何かを期待していたわけではなかったが、のぞむは拍子抜けした。少し裏切られたような気がして、矩を恨んだ。矩が悪いわけではないのに。
また、弔問客への挨拶が淡々とくり返される。
顔も名前も知らない人々が、会場を埋め尽くす。
人いきれに酔って、ついには指先や顔がしびれ始め、目の前が白けてきた。
限界だと、頭の片隅で思った瞬間、
隣から華やいだ気配を感じ、ぼやけた意識が強引にひき戻される。
そこになつかしい顔を見つけ、枯れたと思ったものがあふれてきそうになる。のぞむはこらえた。
「これは倉沢さん、お久しぶりです」
宗介は愛想のよい顔を、矩の祖父と母親に向けた。
「矩くんもよくきてくれたね」
「お久しぶりです。お悔やみ申し上げます」
矩は深々と頭を下げる。
矩に会うのは本当に久しぶりだ。
別々の高校に通い出してから、顔を合わせる機会が格段に減った。
母親の看病もしなくてはならないのぞむは、多忙で、前に矩と会ったのがいつだったかも思い出せない。
「ああ、ありがとう」
父は愛想いい笑顔を矩に向けた。
「久しぶりに会ったら、ずいぶん背がのびたな。のぞむと同い年なんだっけ?」
「はい」
「じゃ、高校生か」
「はい」
「成績がいいらしいな。将来が有望だ」
宗介は葬式にはそぐわない軽快な笑い声をあげたが、矩も少し笑顔を見せた。
「たいしたことはありません。油断すればすぐに誰かに抜かされるし、いつも必死です」
「あいかわらず謙虚だな。ご立派なお孫さんをお持ちですね」
宗介が矩の祖父に声をかけると、
「まだまだ未熟です」
と、祖父は謙遜した。
倉沢の家族は挨拶を終えると、焼香をするためにのぞむたちの前から離れた。
その間、矩はのぞむにちらりと一瞥しただけで、声をかけるでもない。
何かを期待していたわけではなかったが、のぞむは拍子抜けした。少し裏切られたような気がして、矩を恨んだ。矩が悪いわけではないのに。
また、弔問客への挨拶が淡々とくり返される。
顔も名前も知らない人々が、会場を埋め尽くす。
人いきれに酔って、ついには指先や顔がしびれ始め、目の前が白けてきた。
限界だと、頭の片隅で思った瞬間、
隣から華やいだ気配を感じ、ぼやけた意識が強引にひき戻される。