待雪草 2 (3)

文字数 849文字

「もし純血の日本人が生き残っていたとしても、交配し尽くしてて純血じゃなくなってるんじゃないですか?」
 交配という言葉に男子生徒たちはニヤニヤし始める。

「……そうかもしれないけど……大陸の影響を受けないまっさらな日本人がいたっていう説は、なんか夢があるだろ?」
 北白川は苦笑しながら質問に答えた。
 この頃になってようやく、自分と生徒たちとの熱量の差に気づく。

「自分はそうは思いません」
 別の男子生徒が座ったまま発言する。
「現生日本人である自分たちが否定されている気がします」
「否定してるわけじゃ……」
 北白川は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。
「自分たちが純血だっていう可能性があるなら夢もあるけど、結局は今生きている日本人全員、大陸から渡ってきた余所者っていうことじゃないですか。今更純血だの混血だの余所者だのって言われたって、じゃあ俺たちはいったい何なんだって思います。まるで日本に住んでちゃダメみたいじゃないですか」
「……ダメとは言ってない……」
 生徒たちの意外な反応に、北白川はタジタジとなった。

「ま、旧石器時代の話だ。原人と遺伝子が別の国のものだとしても、長い年月日本列島に土着して、独自の文化を築き上げてきたんだ。我々は立派な日本人だよ」
 ざわめき出した生徒たちをしずめるために、北白川はその場かぎりの気休めで咲梅遺跡の話をしめくくった。

          *

 駅近くの小さな居酒屋には、すでに矩がきていた。
「久しぶり」
 店に入ってきた北白川を見つけ、矩は軽く手を挙げた。
「久しぶりだな。夏に会って以来じゃないか?」
「そうだな」
 北白川は矩の向かいに座り、店員にビールを頼む。矩はすでにビールを一杯あけていた。

 二人は高校の同級生である。社会人になった今でも、時々居酒屋で一緒に酒を飲む程度の仲が続いていた。

「今日はお姫様の誕生パーティーだったんじゃないのか?」
「おまえ、のぞむの誕生日なんてよく覚えているな!」
 親友の揶揄には気づかずに、矩は目を丸くしてまじまじと北白川を眺める。

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登場人物紹介

加賀美 朔 (かがみ さく)

他人に興味がなく、感情というものを持ち合わせていない。

人に言えない秘密を抱えている。

自動車整備士。

桂木 奏凪 (かつらぎ そな)

姉に虐待を受け続け、逃げ出した先で朔に出会う。

そのまま朔のアパートに住みつく。

桂木 のぞむ

奏凪の血のつながりのない姉。

地元でも評判の美人だが、近寄りがたい雰囲気を持つ。

倉沢 矩 (くらさわ ただし)

優等生で、かわいそうなものを放っとけない性格。

のぞむの幼なじみで、短大の図書館司書。

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