第59話 鏡の妖怪
文字数 2,537文字
結局、翌朝になってもタイガは現れない。
イラストリアとフューリアも、あの後、タイガのマナ波動を追って、必死で街中をかけずりまわったり、魔導探査を打ってみたりしたのだがどこにも見当たらなかった。遠くに行ってしまったのでなければ、どこかで死んでいる?
そんな思いが二人に重くのしかかった。
ナナも激しく動揺していたため、深層で落ち着く様言い聞かせてある。
「それで魔王よ。そのフューリアに化けておったのはやはり魔族なのか?」
サリー婆の問いにエリカが答えた。
「ああ。多分、ドッペルゲンガーという種族だろう。あいらは一度見た相手を完璧にコピーする。それも見てくれだけじゃなくて個人のマナ波動までそっくりにな。
たまたまナナに化けてもあたいの分まで模倣出来なかったのをイラストリアだから気づけたとは思うが……他の奴じゃ、不意打ち食らっても仕方ねえよ」
「あんまり聞かない魔族よね?」イラストリアが尋ねる。
「多分、もともとはナナ達の世界の妖怪みたいなもんだったと思うが、大昔に一族でこっちに移民して来たんだが……ちょっといろいろあってな」
そこまで言ってエリカは黙ってしまった。
「しかし、コンスタンだけでなくタイガまでやられたとなると、いよいよ用心せんといかん。すぐにデルリアルと合流したほうがいいのではないか、魔王」
サリー婆がそう提案した。
「そりゃそうなんだが、周りの頭数が増えるとそれだけ奴に入り込む隙を与える事にもなる。出来ればデルリアルに合流する前にそのドッペルとはケリを付けたいんだが……」
「何か策があるのか?」
「策はねえ。当面様子見で、いつもこのメンバーで行動しているしかねえだろ」
そしてその日の夜は、イラストリアもフューリアも自宅に戻らず、エリカやサリー婆と同じ宿の部屋に泊まる事にした。
「なんか女子会みたいですね」フューリアが楽しそうに言う。
「何言ってんだよ。こんなばばあと魔王だぞ!」エリカがつまらなそうに言う。
「でも修学旅行の時もナナちゃん。マナ酔いがひどくて、夜の女子トークに加われなかったの可哀そうだったんですよ」フューリアが言う。
「そんな事言ったって……えっ!? 表に出たいって? 大丈夫かよ。
でもまあ婆もいるし大丈夫か」
そう言ってエリカは表をナナと替わった。
「もう落ち着いた?」イラストリアがナナに問う。
「はい、なんとか。でも本当にタイガさん大丈夫なのかな」
「ほらほら、そんな風にするとまたマナのコントロールが出来なくなるわよ。
サリーさんが補助してくれてるから、ちゃんと自分でも頑張ってね」
「はい……」
その時、部屋の戸がトントンと叩かれ、一同はドキッとした。
「ちょっと……昨日の晩と同じ落ちじゃないでしょうね?」
そう言いながらイラストリアが戸の向こう側をサーチする。
「えっ!? タイガ?」
イラストリアの言葉に、一同がびっくりした。
「ああ、俺だ。なんとか助かって逃げて来たんだ。みんなは無事なのか?」
戸の向こう側でタイガの声がする。
確かにこのマナ波動はタイガのものだが……ドッペルゲンガーはマナ波動まで真似るとエリカも言っていたし……イラストリアはサリー婆と目線を合わせるが、ばばも本物かどうかの区別がついていない様だ。
「戸を開けろ。ただし、みんな魔法防壁 最大な」
いつの間にか表をナナと替わったエリカがそう言った。
イラストリアが軽く頷いて、戸の鍵を開けた。
「いいわよ。鍵は開いてるわ」
そしてカチリと音がして、ゆっくりと部屋の戸が開く。
そして現れたのは確かにタイガだが……。
次の瞬間。昨夜同様、部屋中にあふれんばかりの光の刃が現れそこにいた四人に襲い掛かる……はずが、空中でピタリと止まってしまった。
「えっ!? 何が起きたの?」
イラストリアが周りを見渡すと、部屋に入って来たタイガも停止している。
サリー婆が怪訝そうな顔でエリカの方を見た時、なんとそこにはエリカではなく、タイガがもう一人いた!
「こりゃ一体、どういう事じゃい!?」
「ああ。こいつらドッペルゲンガーは似せた当人の前じゃ動けねえんだ。
こっちも動けねえんだけどな。
だからこうしてあたいもタイガに化けた。
まあ、マナ波動まではマネ出来ねえがな。
だが……作戦成功だ!」
「それじゃ、ドッペルゲンガーを拘束しますね」
フューリアがそう言った途端、空中で停止していた刃が次々に破裂しだした。
「きゃっ!」フューリアが悲鳴を上げる。
「危ねえ! みんな身を守れ!!」
エリカの号令で、イラストリアもサリー婆も自分の身をバリアで守ったが、気づいた時には、部屋からドッペルゲンガーがいなくなっていた。
「あちゃー、取り逃がしたか。やっぱり即席のコピーじゃ拘束は長くは持たねえか。
だがこれで奴のマナ波動は押さえたぞ。今後近づいたらあたいが分かる!
しかしこのマナ波動。あいつ、もしかしたら……」
「どうした。何か気にかかる事があるのか?」
サリー婆が、浮かない顔をしているエリカに話かけた。
「いや……何でもねえ。昔の話だ」
◇◇◇
「そうですか。さすがは魔王エリカ。一筋縄では行きませんね」
カルバシィーが事の仔細を報告したミルラパンに話掛けた。
「申し訳ございません。私のマナ波動も掴まれてしましました。
これからはもう、うかつに魔王に近づけません……」
「大丈夫ですよ。私はあなたの能力を高く買っています。これからも、やつらの仲間内に潜入して攪乱するチャンスはいくらでもあります。奴らの行動など、私には筒抜けですからね」
「それじゃ、ミルラパンさん。当面お手すきなんだろうし、僕に魔法を教えてよ。
とりあえず、この動かない下半身を自由に動かせる様になりたいんだ」
リヒトがそう言ってミルラパンに近寄ってきた。
「口の利き方がなっていないぞ、人間の小僧。教えて下さい……だろ」
「うひゃー。普段あんまりしゃべんないけど、話し方怖いねー。
せっかくそんな美少女なんだから、もっと可愛くしゃべったほうが友達増えるよ」
「殺すぞこのクソガキ。それならこの姿で指導してやる」
そう言いながらミルラパンはナナの姿に変身する。
「うっ。それはちょっと……屈辱的かな。
出来ればこの間のエルフ少女あたりで……」
イラストリアとフューリアも、あの後、タイガのマナ波動を追って、必死で街中をかけずりまわったり、魔導探査を打ってみたりしたのだがどこにも見当たらなかった。遠くに行ってしまったのでなければ、どこかで死んでいる?
そんな思いが二人に重くのしかかった。
ナナも激しく動揺していたため、深層で落ち着く様言い聞かせてある。
「それで魔王よ。そのフューリアに化けておったのはやはり魔族なのか?」
サリー婆の問いにエリカが答えた。
「ああ。多分、ドッペルゲンガーという種族だろう。あいらは一度見た相手を完璧にコピーする。それも見てくれだけじゃなくて個人のマナ波動までそっくりにな。
たまたまナナに化けてもあたいの分まで模倣出来なかったのをイラストリアだから気づけたとは思うが……他の奴じゃ、不意打ち食らっても仕方ねえよ」
「あんまり聞かない魔族よね?」イラストリアが尋ねる。
「多分、もともとはナナ達の世界の妖怪みたいなもんだったと思うが、大昔に一族でこっちに移民して来たんだが……ちょっといろいろあってな」
そこまで言ってエリカは黙ってしまった。
「しかし、コンスタンだけでなくタイガまでやられたとなると、いよいよ用心せんといかん。すぐにデルリアルと合流したほうがいいのではないか、魔王」
サリー婆がそう提案した。
「そりゃそうなんだが、周りの頭数が増えるとそれだけ奴に入り込む隙を与える事にもなる。出来ればデルリアルに合流する前にそのドッペルとはケリを付けたいんだが……」
「何か策があるのか?」
「策はねえ。当面様子見で、いつもこのメンバーで行動しているしかねえだろ」
そしてその日の夜は、イラストリアもフューリアも自宅に戻らず、エリカやサリー婆と同じ宿の部屋に泊まる事にした。
「なんか女子会みたいですね」フューリアが楽しそうに言う。
「何言ってんだよ。こんなばばあと魔王だぞ!」エリカがつまらなそうに言う。
「でも修学旅行の時もナナちゃん。マナ酔いがひどくて、夜の女子トークに加われなかったの可哀そうだったんですよ」フューリアが言う。
「そんな事言ったって……えっ!? 表に出たいって? 大丈夫かよ。
でもまあ婆もいるし大丈夫か」
そう言ってエリカは表をナナと替わった。
「もう落ち着いた?」イラストリアがナナに問う。
「はい、なんとか。でも本当にタイガさん大丈夫なのかな」
「ほらほら、そんな風にするとまたマナのコントロールが出来なくなるわよ。
サリーさんが補助してくれてるから、ちゃんと自分でも頑張ってね」
「はい……」
その時、部屋の戸がトントンと叩かれ、一同はドキッとした。
「ちょっと……昨日の晩と同じ落ちじゃないでしょうね?」
そう言いながらイラストリアが戸の向こう側をサーチする。
「えっ!? タイガ?」
イラストリアの言葉に、一同がびっくりした。
「ああ、俺だ。なんとか助かって逃げて来たんだ。みんなは無事なのか?」
戸の向こう側でタイガの声がする。
確かにこのマナ波動はタイガのものだが……ドッペルゲンガーはマナ波動まで真似るとエリカも言っていたし……イラストリアはサリー婆と目線を合わせるが、ばばも本物かどうかの区別がついていない様だ。
「戸を開けろ。ただし、みんな
いつの間にか表をナナと替わったエリカがそう言った。
イラストリアが軽く頷いて、戸の鍵を開けた。
「いいわよ。鍵は開いてるわ」
そしてカチリと音がして、ゆっくりと部屋の戸が開く。
そして現れたのは確かにタイガだが……。
次の瞬間。昨夜同様、部屋中にあふれんばかりの光の刃が現れそこにいた四人に襲い掛かる……はずが、空中でピタリと止まってしまった。
「えっ!? 何が起きたの?」
イラストリアが周りを見渡すと、部屋に入って来たタイガも停止している。
サリー婆が怪訝そうな顔でエリカの方を見た時、なんとそこにはエリカではなく、タイガがもう一人いた!
「こりゃ一体、どういう事じゃい!?」
「ああ。こいつらドッペルゲンガーは似せた当人の前じゃ動けねえんだ。
こっちも動けねえんだけどな。
だからこうしてあたいもタイガに化けた。
まあ、マナ波動まではマネ出来ねえがな。
だが……作戦成功だ!」
「それじゃ、ドッペルゲンガーを拘束しますね」
フューリアがそう言った途端、空中で停止していた刃が次々に破裂しだした。
「きゃっ!」フューリアが悲鳴を上げる。
「危ねえ! みんな身を守れ!!」
エリカの号令で、イラストリアもサリー婆も自分の身をバリアで守ったが、気づいた時には、部屋からドッペルゲンガーがいなくなっていた。
「あちゃー、取り逃がしたか。やっぱり即席のコピーじゃ拘束は長くは持たねえか。
だがこれで奴のマナ波動は押さえたぞ。今後近づいたらあたいが分かる!
しかしこのマナ波動。あいつ、もしかしたら……」
「どうした。何か気にかかる事があるのか?」
サリー婆が、浮かない顔をしているエリカに話かけた。
「いや……何でもねえ。昔の話だ」
◇◇◇
「そうですか。さすがは魔王エリカ。一筋縄では行きませんね」
カルバシィーが事の仔細を報告したミルラパンに話掛けた。
「申し訳ございません。私のマナ波動も掴まれてしましました。
これからはもう、うかつに魔王に近づけません……」
「大丈夫ですよ。私はあなたの能力を高く買っています。これからも、やつらの仲間内に潜入して攪乱するチャンスはいくらでもあります。奴らの行動など、私には筒抜けですからね」
「それじゃ、ミルラパンさん。当面お手すきなんだろうし、僕に魔法を教えてよ。
とりあえず、この動かない下半身を自由に動かせる様になりたいんだ」
リヒトがそう言ってミルラパンに近寄ってきた。
「口の利き方がなっていないぞ、人間の小僧。教えて下さい……だろ」
「うひゃー。普段あんまりしゃべんないけど、話し方怖いねー。
せっかくそんな美少女なんだから、もっと可愛くしゃべったほうが友達増えるよ」
「殺すぞこのクソガキ。それならこの姿で指導してやる」
そう言いながらミルラパンはナナの姿に変身する。
「うっ。それはちょっと……屈辱的かな。
出来ればこの間のエルフ少女あたりで……」