第42話 陰謀

文字数 1,845文字

 エリカは、チュロスと主にRINEとメールで情報交換をした。
 チュロスの存在をサリー婆や勇者達に気付かれてはならず、フューリアがどこで監視しているかも定かでない状況で、迂闊に会うのは危険と判断したためだ。

 エリカは、今置かれている状況や、ナナの魂を賢者の石に頼らず元の身体に戻す方法が無いか……といった内容をデルリアルに伝える様、チュロスに依頼した。

「お任せあれ」
 そうメッセージを残し、チュロスは異世界のデルリアルの所へ出向いていった。

 そして二週間。いまだチュロスが帰ってこない。普通なら数日で戻って来られるはずなのだが、何かトラブったのだろうか。しかしエリカとしては何も出来ない。


 そうこうしているうちに、ナナの修学旅行の日が近づいてきた。
 
「なんだよ。お前も同じ班なのかよ」
「あらー、ナナさん。そんな乱暴な口の利き方じゃ、モテませんわよ」
「ほっとけ」
 ナナは長谷川いのりと同じ班になったのだが、そこにフューリアが他のクラスメートのあまたの誘いを断って、無理やり加わってきた。

 修学旅行は二泊三日で、中一日は、数人での班行動で自由に動く事が出来る。
 それで、自由行動日にどうしようかという相談中だったのだが、エリカも興味深そうだったので、ナナは表を替わってあげていたのだ。
 一日目と三日目はバスで有名どころを回るので、自由行動の中日は遠出しようとしているチームも多い様だ。
 とある男子の班などは、神戸まで行くと息巻いていた。
 
「とはいっても、そんなに山や寺ばっかり見てもなー。
 どっか、うまいもん食えるところにしようや」
「わたしも、こちらの事はよくわかんないです」フューリアも頼りなさげに言う。
 エリカに任せたのは間違いだったかな? 
 ナナはちょっと心配になったが、長谷川いのりが強く主張した。

「奈良よ!!」

「ほー。どんなうまいもんがあるんだい?」
「それは私もちょっと……あとで調べましょう。
 とにかく鹿よ、鹿! あれにエサをあげられるのよ!」
「はーん? そんなんがおもしろいのかよ」

「もう、ナナって時々言葉使いが乱暴になるわよね。でもね。鹿だけじゃなくて、東大寺とか法隆寺とか薬師寺とか……美術を目指す者としては、一度は見てみたいじゃない?」
「あー。よくわからんし、何かうまいものがあるんならそれでいいよ」
「私も長谷川さんの案にのっかりまーす」フューリアも奈良に賛成の様だ。

(もう、エリカったら。適当なんだから……でも、奈良か。
 奈良も行ってみたかったんだよね)

「おー、これは……柿の葉寿司だってさ。これはいいんじゃねーの」


 ◇◇◇

 その頃、チュロスは……。
 エルフ王国内で、反魔王派と思われる一団に拉致監禁されていた。

 デルリアルとは無事に会え、エリカの様子やナナの事は伝えられたのだが、じいさんの回答を待っているうちに、こいつらに拉致された。
 どうやら、デルリアルのじいさんの近くにも裏切り者がいる様だ。

 さんざんな拷問と魔術での精神操作を受け、知っている事はほとんど話してしまった。あとは、今後も仲間にならないかという事で、拘束が続いている。
 連中は、魔王様の肉体と魂の両方に何かを仕掛けようとしている様だった。

 私が急にいなくなった事で、デルリアルのじいさんは警戒を強めているとは思うが、魔王エリカ様にはどうやって知らせたものか。

「おい、サキュバス。出ろ!」
 そう言いながら、看守がチュロスの髪を引っ張って別室に連れて行く。
 そしてそこには、彼女が今まで見た事がない魔族がいた。

「おや? 見ない顔だね。まあ、もう知ってる事は洗いざらい吐いちゃったんで、
人が替わってももう何も出ないわよ」
「ふっ。これからお前は、私達の仲間になるのさ。
 エリカもお前なら油断するだろ?」

「ふざけんじゃないよ。力は弱いが私も魔族の端くれだ。
 魔王様を裏切るなんて事、する訳ないだろ!」
「それじゃ、お前と私の根競べだ。さっさと味方になると言った方が楽だぞ」
 そう言って、見知らぬ魔族は、効率的に洗脳を成功させるには、心を折るのが一番なのだと言いながら、チュロスに過酷な拷問を加え続けた。
 
「ちくしょう! 死んだって従わないわよ!」
「ああ、そうか。そうだな。殺しちまえば言いなりか……。
 教えてくれてありがとうな」
「何だって……それじゃ、あんたは……」
「ま、そういう事だ……殺すのは最後の手段と思ってたんだが……。
 お前は頑張りすぎた」
 
 くそっ、これじゃ抵抗出来ないよ……エリカ様。ごめんなさい……



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