第28話 暴露

文字数 1,873文字

 文化祭翌日の月曜は代休となり、火曜の朝。
 登校したナナは、何か教室内が騒然としている事に気が付いた。
 
 ズキン!
 何だろ……この感覚。久しぶり……。

 席について、前をみると、黒板にクラスメートがたかっていた。

 ん? 黒板に何か書いてある……って、えっ、何よあれ!
 ナナが小さな瞳を大きく見開いて見た先には、

『長谷川いのり 祝、AVデビュー!!』

 と大きくチョークで書かれていたのだ。
 
(ナナ? 何が起きた! 動揺が半端ないぞ!)
 ナナは、エリカの質問に答えようとせず、黒板の方に近寄った。
 その時、教室の後ろで、バタンと大きな音がした。

 振り返ると、長谷川いのりが教室に入って来て、カバンを落とした音だった。
 そして黒板を見るなり、真っ青な顔をして、どこかへ走って行ってしまった。
 教室内がさらに騒然とする。

 ナナは、黒板に駆け寄って落書きを急いで消し、あわてて長谷川いのりを追いかけたが見失った。

(ナナ。ちゃんと説明しろ! 何が起こったんだ?)
(長谷川さんが……いじめにあってる!)
(何だと!?)
 ナナは自分が見た事をエリカに説明した。
 
「それにしても、AVって、アダルトビデオってか? 何だってそんなもんが?」
「事実がどうあれ、それを教室でぶちまけられたら、本人はたまらないよ……」
「そうか。そうした気持ちはお前が一番よくわかるか……で、どうするんだ? 
 書いたやつとっ捕まえて締め上げるか?」
「それよりも、まず長谷川さんにちゃんと寄り添わないと……」
「そっか。じゃ、まず長谷川をとっ捕まえないとな」
「もうっ! 捕まえるんじゃなくて、寄り添うの!」

 ナナは、その足で職員室に行き、先生方に教室で起こった事を説明し、長谷川さん保護の協力を依頼した。自分もスマホからRINEやSMSを入れてみたが返答はなかったし、既読も付かない。それでも学校近辺をふらふらしているかも知れないと考え、中山部長にも応援を依頼し、付近を探す事にした。

「ねえ、エリカ。とにかく何か起きる前に長谷川さんを見つけたい。
 何か魔法で出来ない?」
「何かって……そうか。そうだよな。ナナからしたらその不安は現実のものか。
 よっしゃ。幸い、あいつらも近くにいない様だし、コソコソ貯めたへそくりマナもちょっとあるんで、一発やってみるわ」
「あいつら?」
「あー、いや。こっちの話……そんじゃ……チョイシーク!!」

 幸い長谷川いのりの生命波動は、よく知っている。それをターゲットにして、エリカは、以前、イラストリアがやった様に、マナの探針(ピンガー)を打った。

「よっしゃ! 見っけた!! 川沿いの公園だ」
「急ごう!」
 ナナは、全速で公園向かって駆けだした。
 

 ◇◇◇

「ちょっと! 今の何よ……」
「なんだよいきなり。ビックリするだろ」
「今のは……間違いなく魔導探査(アクティブソナー)の一種よ! 
 マナ波動を感じたもの。
 でもこれ……特定の人間を探してる?」
「どういう事だよ……」

 タイガはその日、イラストリアが鶴ヶ丘八幡宮の近くにある地脈の太いところで、せっせとマナを貯めるのに付き合っていた。
 そうしたら、突然イラが騒ぎだしたのだ。

「こんなもの使えるのは、魔導士か賢者か……魔族よ。
 しかも発信源がナナちゃんの学校の近くなの」
「エリカか!?」
「分からない。でも可能性はあるわ」
「そんじゃ、ぐずぐずしてらんねえ! 行くぞ!」


 ◇◇◇

 境川の川べりにある公園で、ナナは長谷川いのりを探していた。

「ここでいいんだよね?」
「ああ、間違いねえ。まだ反響が残ってる……」

 この公園、結構広くて樹木も多い。くまなく探すのは骨が折れそうだ。

「えっとな。多分、もう少し、川沿い……」
 エリカの指示で、ナナはそっちに急ぐと……いた! 長谷川さんだ!
 もう十一月で気温も低いのに、両足を川の中に入れて突っ立っている。

「長谷川さん! ダメー!! 早まらないで!!!」
 ナナが全速力で駆け寄り、長谷川いのりにしがみついた。

 よかった……間に合ったよ。そう思いながら、長谷川いのりの顔を見たが、何の感情もない亡者のような顔つきだ。

「長谷川さん! 私だよ。ナナだよ! しっかりして……。
 大丈夫、安心して……私はあなたの味方だから……」
 そう言って一生懸命身体をさするナナの方をゆっくり向きながら、長谷川いのりは、徐々に表情を取り戻し、やがてボロボロと大粒の涙をこぼし始めた。

「来宮さん……わたし……」
「大丈夫! 今は私に任せて。私……いじめられっ子の大先輩だから……」
「ふわーーーーん……」長谷川いのりは、そのままナナに寄りかかって泣き崩れた。

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