十七話 チャイナ服

文字数 2,316文字

こんこん、ノックは快楽の音。


『どうぞ』


俺は部屋に入った。


「都、今日はなんの・・・」


部屋の中央に真っ赤なチャイナドレスが飾られている。


「帰ります」

「お願い待ってぇ!!」


都が慌てて部屋の鍵をかけ、俺の両肩を掴んだ。


「絶対似合うから!! ね!?」

「着るのは良いんだけどよぉ、そのあとそういうことするのもな。でも都・・・」


俺はそっと都の手を掴み、外した。


「写真、撮るだろ?」

「・・・はい」

「写真は駄目」

「いっ、一枚だけ」

「じゃあ、なにしてくれる?」

「なんでもしますご主人様ぁ!」

「立場変わってるだろ・・・」


俺は手で口元を覆い、考えた。


「この前、美代に『あと』つけてただろ」

「えぇそれは・・・、うっかりですね・・・」

「じゃあ、わかってるよな?」

「はい! 承知しました!」

「まったく・・・」


コスプレ、というか女装するのは初めてではないので抵抗はない。


「これどう着るんだ?」

「お任せください・・・」


黒いパンストを履き、黒い長手袋を嵌め、背中が大きく開いた赤いチャイナドレスを着て、椿の髪飾りをつける。慣れない黒のハイヒールを履くと、ただでさえ高い身長が余計高くなった。


「ちょっとだけ、ちょっとだけお化粧しません?」

「・・・いいぜ。ただし俺はしゃがまない」

「え」

「都は背伸びして化粧するんだ。それならいい」

「・・・ローキックいいっすか」

「できないくせに」

「お願いー!」

「どうしようかなー」


ああ、都。永遠に俺だけのものだったらいいのに。


「・・・ちょっとだけだぞ」


目元と唇に化粧を施される。なんだかんだ求められるままポーズをとり、何枚も写真を撮らせた。承認欲求が満たされる。


「なあ、都」


俺は右を向いたまま言う。


「うん?」

「そろそろ・・・」

「あは、しようか」


都がカメラを仕舞う音が聞こえる。そして右を向いたままの俺の頬に、そっと口付けた。


「パンストでするのって、その、すごいのか?」

「やってみる?」

「やってみる・・・」


俺がパンストを脱いで都に渡すと、都は洗面器とローションを用意してパンストを漬ける。


「そのまま擦るんじゃねえの?」

「どんなM男ですか淳蔵さん。美代でもローションに漬けなきゃ痛がるのに」

「こわ・・・」

「フフ、じゃあ『あと』つけてあげる。どこがいい?」


俺は髪をどかし、服を乱暴に脱いで首筋を見せる。


「ちくっとしますよー」


都は舌なめずりして笑うと、がぶりと俺の首筋に齧りついた。


「いっ!?」

「はい、おしまい」

「あ、あ、やばい、俺・・・」

「どうしようもなく興奮した?」


全てを見透かされて、脳みその中まで全部見られている気分になった。


「はい、じゃあ擦るけど、暴れないでね? 淳蔵は大きいんだから」

「こ、怖い、優しく・・・」


ずりゅ、とパンストが触れる。それだけでもうイキそうだった。

ずりゅりゅりゅりゅりゅ。


「ひぎぃいぃいぃぃぃ!?」

「あはっ」


わからない。なにも、なにも。


「あぁああぁあああぁあっ!!」

「潮かおしっこ噴くまで頑張ろうっかー」


冗談じゃない。頭がおかしくなる。


「やめっ、やめみやごっ、ぐいぅ!!」

「あれ、もう噴いちゃった」


都は俺をパンスト責めから解放する。


「つらかった? 向き不向きってのがあるからねぇ」

「あぅ・・・あぅ・・・あ・・・」

「あー、これは凄い。美人がぐちゃぐちゃになってるの良い・・・」


うっとりした表情で俺を見下ろす都。もっと、


「もっと・・・」

「もっと?」

「もっと、いじめて・・・」

「どうしよっかなー」


もっと、

もっと虐めてください。

都様。


「あ・・・」


夢は途中で覚めてしまった。いや、都様の自室に行けば、夢の続きが広がっている。

私が小鳥になってから、都様との距離は縮まったものの、都様自身がお相手してくれることはあまりない。三人の息子達との情事は相変わらず続いているのに。


「羨ましい・・・」


どうして?

もし、夢で見たことが本当なら、淳蔵様は元犯罪者、美代様は男に産まれ、直治様は病気で自我を保てていなかったせいで両親を心中に追いやった。

私は?

私はハムスターを殺して回った。幼いサイコパス。美雪ちゃんはなにをしてここに選ばれたのだろう。私はどうしても気になって、彼女の部屋を訪ねた。


「絵葉さん、こんな夜更けにどうしました?」

「ねえ、私に隠してることあるでしょ」

「え・・・」

「どうしてこの館にやってきたの? この館で暮らす人は、なにかしら事情があって罪を犯した人なのよ。貴方はなんの罪を犯したの?」

「・・・あの、秘密にしてもらえますか?」


美雪ちゃんは愛嬌のある顔に憂いを浮かべた。


「私、借金があるって言ってこの館に来ました。でも本当は借金じゃなくて、慰謝料なんです」

「慰謝料?」

「不倫の・・・」


私は口元を手でおさえた。


「今更言い訳にしかなりませんけど、私は不倫だとは知らなかったんです。学生時代から付き合ってた、年上のサラリーマンで、あはは、器用な男ですよね。私、奥さんに訴えられるまで妻子持ちだと知らなかったんです」

「そう、なの」

「はい。事情をお話したらわかってくれたんですけど、その、お子さんが、病気を持っていて。循環器系の。奥さんは、医療費で家庭が苦しいのに、あの人は私にお金を。私、それが許せなくて、あの人に、いつまでも『不倫した』という事実を味わわせたくて、慰謝料をお支払いすることを決めたんです」


なにそれ。美談じゃないの。まるで美談じゃないの!


「両親には迷惑をかけられないから、住み込みでも働ける場所を探して、ここを見つけたんです」

「そう。貴方も罪深いのね」

「はい・・・」

「それを聞いて安心したわ。いつか、私の罪も話してあげる。いきなりお邪魔してごめんなさい。おやすみ」

「おやすみなさい」


私は美雪ちゃんの部屋を、あとにした。
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