クララとお日さま

文字数 786文字

カズオイシグロの小説『クララとお日さま』の舞台は、人間の能力を高めるため向上処置が行われている近未来の世界だ。作者であるカズオイシグロは、新作について語るインタビューの中で、階級や人種ではなく、能力で人を評価するのはいいことだと思ってきたが、人間を技術的に優秀にできるようになると、能力主義はアパルトヘイトのような社会を生むかもしれないという趣旨の発言をしている。その他の書評も参考にすると、能力による分断がこの作品のひとつのテーマになっているようだ。

この作品の書評には、たとえば、「善意の塊のようなクララの目に映る、格差社会や一種の優生思想など殺伐とした分断社会、そして心より科学に傾倒する人々の姿が痛ましい。」、「苛烈(かれつ)を極める競争原理、閉鎖的なコミュニケーションが特定の信念を強化させるエコーチェンバー現象など、分断を生みがちな現代社会のありようへの警告ともとれる」といった指摘がある。作品にメリトクラシーに基づく分断社会の描写があることを読み取った書評であろう。

マイケル・サンデルも、"The Case against Perfection(完全な人間を目指さなくてもよい理由-遺伝子操作とエンハンスメントの倫理- )"という書籍で、能力による選別、メリトクラシー、エンハンスメントといった現代社会あるいは近未来社会が抱える問題を扱っている。たとえば、第1章の冒頭には、ハーバードクリムゾンや他のアイビーリーグの学生新聞に、条件を満たす人の(らん)を求める広告が掲載され、SATと呼ばれる試験で高得点であったことなどの条件を満たす人の卵に対しては、5万ドルの支払いを申し出るものだったことが紹介されている。

資料
「クララとお日さま」書評 型落ち「人工親友」の献身と信仰 好書好日
「クララとお日さま」カズオ・イシグロ著 土屋政雄訳日刊ゲンダイDIGITAL
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