実力も運のうち 能力主義は正義か?

文字数 1,392文字

能力主義社会に内在する問題

政治哲学が専門のマイケル・サンデルは、著作『実力も運のうち 能力主義は正義か?』で能力主義社会に存在する問題を扱っている。たとえば、エリートに対する一般市民の怒りの例として2016年の大統領選挙を取り上げ、「イギリスにおけるブレグジット(EU離脱)の勝利と同様に、2016年のドナルド・トランプの当選は、数十年に渡って高まり続ける不平等と、頂点に立つ人びとには利益をもたらす一方で一般市民には無力感を味わわせるだけのグローバリゼーションに対する怒りの評決だった」(p.29)と指摘している。サンデルは、社会的分断を生む、貧困層を見下し、不平等を正当化する能力主義に対する怒りが選挙を通して示されたと分析しているのだ。

サンデルが示す指針の解釈

サンデルはエリートが運の役割や、労働の価値を認め、労働に対する感謝の気持ちを生活改善として具体化させる必要があると主張している。徒競走のたとえでは、「みんなで優勝賞品を分かち合う義務があると考えるでしょう。この勝利を自分だけのもの、自分自身の努力の結果だとは思わないからです」と述べているが、似たような考えは、スコット・フィッツジェラルドの文学作品で、狂乱の20年代を背景とする『グレート・ギャツビー』にもみられる。

In my younger and more vulnerable years my father gave me some advice that I've been turning over in my mind ever since. "Whenever you feel like criticising anyone," he told me, "just remember that all the people in this world haven't had the advantages you've had.

僕がまだ年若く、心に傷を負いやすかったころ、父親がひとつ忠告を与えてくれた。その言葉について僕は、ことあるごとに考えをめぐらせてきた。「誰かのことを批判したくなったときには、こう考えるようにするんだよ」と父は言った。「世間のすべての人が、お前のように恵まれた条件を与えられたわけではないのだと」(村上春樹訳)

今より若く心が傷つきやすい若者だった時に、父が忠告してくれたことを、その後ずっと繰りかえし考えつづけてきた。「ひとのことをとやかく、批判したくなっても」と、父は言った。「ひとなみすぐれた強みをもっている人なんて、めったにいないんだってことを、忘れるんじゃないよ」(大貫三郎訳)

ブレグジットやトランプ大統領誕生に対するサンデルの見方が正しいのであれば、能力主義によるエリート支配の競争社会が、少数者に富や権力の独占、多数に対する優越と侮蔑の意識をもたらし、多数が彼らから過小評価され、軽視されていると感じるとき、それに対する反発として、ポピュリズムによる体制打破の運動が生じるのだろう。

資料
マイケル・サンデル教授が説く、エリート層が“謙虚さ”をもつことで開ける未来「エリートは苦しんでいる人々を見下している」 (https://post.tv-asahi.co.jp/mirai/post-151840/)
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