国際社会における報復行為

文字数 791文字

 穂積(ほづみ)陳重(のぶしげ)は、父親殺しの復讐を果たしたものの処置に関し、(りゅう)宗元(そうげん)韓愈(かんゆ)の考えは礼治に基づくものであると批判し、「復讐は法律未だ定まらざる原始時代において必要なる自衛的作用」(『復讐と法律』)と述べている。しかしながら、「社会は礼治より法治に進むもの」(『復讐と法律』)と述べられていることにも見られるように、この説は「法を進化的にとらえ」たものであり(長尾龍一、『朝日日本歴史人物事典』)、国内統治に関しては当てはまるとしても、国際社会の統治に関しては当てはまらないと考えることができる。
 たとえば、ハマスの奇襲作戦により多くの民間人が殺害されたが、ハマスは国際法に基づいて裁かれず、イスラエルはハマスが支配するガザ地区を空爆し、報復を実行した。穂積のいう「原始時代において必要なる自衛作用」を行ったのである。
 また、国際刑事裁判所で裁かれるとされる犯罪として侵略犯罪があげられるが、ロシア軍をウクライナに軍事侵攻させた大統領を逮捕し、法によって裁くことはできていない。国際刑事裁判所は独自の警察機関を持たず、容疑者の逮捕は各国に委ねられており、ICC締約国ではないロシアの大統領を逮捕し、裁くことはできないと考えられているのである。ウクライナがロシアを国際司法裁判所に提訴し、法的責任が認められた場合でも、判決内容の執行は安全保障理事会が担うため、あらゆる制裁案に拒否権を発動できるロシアに制裁を課せないのが実情なのである。
 このように、国際社会は国際法があるものの、「原始時代において必要なる自衛的作用」が行われる状況であり、核兵器を有し、常任理事国である国の軍事侵攻を裁けない状況である。国際社会は、穂積の説があてはまる状況に至っていないと言えよう。



資料
ドミニク・カシアーニ. 2022. 「戦争犯罪とは? プーチン大統領を裁くことは可能なのか」. BBC NEWS JAPAN
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