金融エリートの失敗

文字数 1,356文字

 Kumar は、金融市場や株式市場は非常に教養のある、知的な人たちによって管理されるべきだと考えられているが、では、どうしてその制度をがけっぷちに追いやるような惨事が起き、政府に救済が求められるようなことが起こるのかを問い、money の捉えかたがその原因だと述べている₁。今や、お金は目的のための手段ではなく、お金は a status symbol あるいは a source of power and prestige であり、お金を稼ぐこと自体が目的となっているが、こうした考えが the root cause of the credit crunch なのだと述べているのである₂。このことを21世紀初頭に生じた米国における住宅ローンの不良債権化問題を例に考えてみたい。
 1990年代後半、アメリカの住宅価格は上がり続けていた。この住宅バブルの背景には、すべての人に住宅を提供しようと(うたう)う政策などがある。こうした状況の中、社会的信用度が低いとみなされる層は、低所得者向けの高金利の住宅ローンであるサブプライムローンを利用していた。住宅ローン会社は、彼らに対する返済金を求める権利を投資銀行に売っていたのだが、投資銀行は権利をもとにして、さらなる住宅ローン関連金融商品を売っていたのである。この住宅ローン関連の金融商品の格付けはトリプルAであり、世界中の金融機関や機関投資家に売られていた。
 しかし、2006年に中央銀行 ( FRB ) の政策金利が上がり、住宅ローンの金利も上がったことで、住宅需要は減り、住宅価格は上がり続けるという住宅神話が崩壊することになる。住宅価格は下がり、住宅価格の高騰による神話に基づいて住宅ローンを利用していたサブプライム層はローンを返せなくなった。住宅ローン関連の金融商品の価値は大きく下がり、金融商品を買っていた金融機関や機関投資家は多額の損失を被ることになり、やがてリーマンブラザーズが倒産することになる。信用収縮が広がることで実体経済に影響が及び、国際的な金融危機が発生する事態となった。
 サブプライム層に住宅を提供するための金融事業は社会的に意義のある事業だと思われるが、お金を増やすことを目的とした金融商品がトリプルAの格付けで売られていたというのは、Kumar がいうような、 a status symbol や a source of power and prestige とみなされるお金を増やすこと自体を目的とする事業だったのだろうか。自分たちのお金を増やすこと自体を目的としてリスクを低くみせる金融商品の販売が行われていたのであれば、高い知能を有する人たちがリスクの見積もりに失敗したのは、それを正確に予測する知能以外にも原因があったといえよう。




₁ Kumar, Satish. 2009. Chapter 3 Grounded Economic Awareness. Economic awareness based on ecological and ethical values. The Handbook of SUSTAINABILITY LITERACY Skills for a changing world. p.30
₂ ibid.
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