18 緒川は夢の中では無敵
文字数 1,695文字
緒川はまた夢を見ていた。
彼はしばしば入眠時に夢を見る。
それも生々しいほどにハッキリとした明晰夢を良く見る体質であった。
夢の中で緒川は天使になっていた。
天使は古い絵画で見るそれのように手も足も、体のだいたいの部分は子供のもので、背中に白い翼があった。
天使は緒川だけでなく、他にあと10人程いて、そこかしこを自由に飛び回っている。
ふと、ぼんやりと人影が目に入った。
緒川以外の天使たちはまだ人影に気付いていないようだった。
天使たちが飛び交う集団から少し離れていた緒川だけが、その人影を発見できたようだ。
緒川は他の天使たちに知られないようにその人影に、辿り着きたいと思った。
懸命に羽をバタバタさせるが、一向に前進してくれない。
精一杯全身に力を込め飛ぶが、宙をもがくように手足までバタバタホゲホゲと動かすが全く進まない。
時間がない…。
ガタン!
劇場の電源が入るような音、だろうか…。
音と同時、天井から光が差しその人影を照らし出した。
やはり部長だ…。
女神の羽衣のような明るい青のローブを素肌にまとった疋嶋丸部長が、淡いスポットライトの中に浮かび上がった。
彼女の表情は、物憂げで哀しみを帯びているようにも見えた。
光に照らし出された事で天使たちが部長を見つけた。
一斉に群がろうとする。
飛び交い戯れ、下品な口笛や嬌声を上げながら近づき、あっと言う間に部長を囲んだ。
天使たちは部長のローブを引っ張ったりめくったりする。
その度に部長の腕や脇が露わになり、薄布が胸や腹に擦れ食い込んだ。
――部長を助けなければ…!
だが緒川の体は金縛りにあったように硬直し、指一本さえ動かす事が出来なかった。
天使たちは尚も部長に纏わり付き、なんと天使の何人かはローブを食い始めている。
ローブに虫食いのような穴が開き、穴は繋がって大きな破れ目となり、今にも剝ぎ取られようとしていた。
――何とかしなきゃ!
しかし体が動かない。しきりに思考を巡らせる。
――声は出るだろうか…。
「は…、」出る!そう判った次の瞬間、緒川は力の限り声を張り上げていた。
「羽虫どもー!」
部長の体に顔を埋めていた天使たちが一斉に緒川を見た。
部長の肌はところどころ、天使の唾液で濡れ光っていた。
彼らの顔はどれも皆同じで、にやついた中年男性のものだった。
「ここが俺の夢の中だと言うことを忘れるな!」
緒川は叫ぶ。
そう、緒川は夢の中で自由に行動出来る、はずなのだが、まぁごく稀にこのように動きが封じられる場合もある。だが、声が出る。
夢の世界で言葉は最強の武器だ。
「悪いが最初からちょっと本気で行くぞ!ウジ虫共め!!」
あ、羽虫だった。種類変わっちゃったクソ。と緒川は思ったが後悔は今じゃなくていい。
緒川は大きく息を吸い込む。
――集中しろ!出来るはずだ、何度も練習したんだから!
「炎魔法バーニングおまた!!」
刹那、次々と天使たちの股間から紅蓮の炎が勢いよく上がった。
ギャー!!!
ギョエーーー!!!
ウギャッパヤ!!!
ウギョロヘーニャ!!!
天使たちの断末魔の叫びが響き渡り、10体全てが一瞬で白く焼失した。
そして天使の燃えカスも蒸発し、やがて静寂が戻った。
――?!部長は?
大丈夫、無事だ。緒川はほっとした。
体も動くようになっている。
バーニングおまたは強力な炎魔法だ。範囲内の敵の股間が燃える。だが、部長が火傷した様子はない、と思う。
よし、上手く魔力をコントロール出来ているようだ。
だが、敵を倒したからといって、破損した衣類が元に戻る訳はなく、部長はあられもない半裸のままであった。
そうして今まさにただのボロ布となったローブだったものがハラリと落ちた。
?!
緒川は考えるより先に両耳を引っ張った!
自宅であった。
緒川は夢から覚めた。
呼吸も荒く乱れてていた。
明晰夢を意図的に終わらせる事をルーシッド・ドリーム・ターミネーションと言うが、緒川は
夢の中で"耳を引っ張る"
という行動をそのトリガーに設定していたのだった。
設定といっても彼の夢である。緒川自身がそう決めれば設定完了だ
ペットボトルの水を飲みほした。
裏返りそうな程の早鐘を打っていた心臓も次第に落ち着きを取り戻していく。
彼はしばしば入眠時に夢を見る。
それも生々しいほどにハッキリとした明晰夢を良く見る体質であった。
夢の中で緒川は天使になっていた。
天使は古い絵画で見るそれのように手も足も、体のだいたいの部分は子供のもので、背中に白い翼があった。
天使は緒川だけでなく、他にあと10人程いて、そこかしこを自由に飛び回っている。
ふと、ぼんやりと人影が目に入った。
緒川以外の天使たちはまだ人影に気付いていないようだった。
天使たちが飛び交う集団から少し離れていた緒川だけが、その人影を発見できたようだ。
緒川は他の天使たちに知られないようにその人影に、辿り着きたいと思った。
懸命に羽をバタバタさせるが、一向に前進してくれない。
精一杯全身に力を込め飛ぶが、宙をもがくように手足までバタバタホゲホゲと動かすが全く進まない。
時間がない…。
ガタン!
劇場の電源が入るような音、だろうか…。
音と同時、天井から光が差しその人影を照らし出した。
やはり部長だ…。
女神の羽衣のような明るい青のローブを素肌にまとった疋嶋丸部長が、淡いスポットライトの中に浮かび上がった。
彼女の表情は、物憂げで哀しみを帯びているようにも見えた。
光に照らし出された事で天使たちが部長を見つけた。
一斉に群がろうとする。
飛び交い戯れ、下品な口笛や嬌声を上げながら近づき、あっと言う間に部長を囲んだ。
天使たちは部長のローブを引っ張ったりめくったりする。
その度に部長の腕や脇が露わになり、薄布が胸や腹に擦れ食い込んだ。
――部長を助けなければ…!
だが緒川の体は金縛りにあったように硬直し、指一本さえ動かす事が出来なかった。
天使たちは尚も部長に纏わり付き、なんと天使の何人かはローブを食い始めている。
ローブに虫食いのような穴が開き、穴は繋がって大きな破れ目となり、今にも剝ぎ取られようとしていた。
――何とかしなきゃ!
しかし体が動かない。しきりに思考を巡らせる。
――声は出るだろうか…。
「は…、」出る!そう判った次の瞬間、緒川は力の限り声を張り上げていた。
「羽虫どもー!」
部長の体に顔を埋めていた天使たちが一斉に緒川を見た。
部長の肌はところどころ、天使の唾液で濡れ光っていた。
彼らの顔はどれも皆同じで、にやついた中年男性のものだった。
「ここが俺の夢の中だと言うことを忘れるな!」
緒川は叫ぶ。
そう、緒川は夢の中で自由に行動出来る、はずなのだが、まぁごく稀にこのように動きが封じられる場合もある。だが、声が出る。
夢の世界で言葉は最強の武器だ。
「悪いが最初からちょっと本気で行くぞ!ウジ虫共め!!」
あ、羽虫だった。種類変わっちゃったクソ。と緒川は思ったが後悔は今じゃなくていい。
緒川は大きく息を吸い込む。
――集中しろ!出来るはずだ、何度も練習したんだから!
「炎魔法バーニングおまた!!」
刹那、次々と天使たちの股間から紅蓮の炎が勢いよく上がった。
ギャー!!!
ギョエーーー!!!
ウギャッパヤ!!!
ウギョロヘーニャ!!!
天使たちの断末魔の叫びが響き渡り、10体全てが一瞬で白く焼失した。
そして天使の燃えカスも蒸発し、やがて静寂が戻った。
――?!部長は?
大丈夫、無事だ。緒川はほっとした。
体も動くようになっている。
バーニングおまたは強力な炎魔法だ。範囲内の敵の股間が燃える。だが、部長が火傷した様子はない、と思う。
よし、上手く魔力をコントロール出来ているようだ。
だが、敵を倒したからといって、破損した衣類が元に戻る訳はなく、部長はあられもない半裸のままであった。
そうして今まさにただのボロ布となったローブだったものがハラリと落ちた。
?!
緒川は考えるより先に両耳を引っ張った!
自宅であった。
緒川は夢から覚めた。
呼吸も荒く乱れてていた。
明晰夢を意図的に終わらせる事をルーシッド・ドリーム・ターミネーションと言うが、緒川は
夢の中で"耳を引っ張る"
という行動をそのトリガーに設定していたのだった。
設定といっても彼の夢である。緒川自身がそう決めれば設定完了だ
ペットボトルの水を飲みほした。
裏返りそうな程の早鐘を打っていた心臓も次第に落ち着きを取り戻していく。