17 部長は女神様に逢う
文字数 1,298文字
「買わなくて良かったの?」
あれから楽器店をいくつか巡った。電子ピアノとキーボードを見て、アコーディオンの専門店にも行ってみた。
だが、疋嶋丸が言ったとおり、楽器は結局買わなかった。
「今日は見るだけでいいんだよ。大体当たりをつけるだけでいいの。」
明日菜によると、楽器屋さんで実際に実物に触れて、気に入ったら通販で買うつもりでいると言う。楽器も電化製品みたいな買い方をするんだな、と疋嶋丸は思った。
一通り見終わったのでファストフード店で休憩中であった。
笑いつかれて3人ともぐったりしていた。
ピアノに座っても、アコーディオンをかまえても、お腹がよじれるくらい面白かった。明日菜などは思い出してにやけている。
「ぃや、でも最初の真っ赤なフライングブイを超えるものはなかったね。私さ、ひろ子ほど楽器が似合わない人見たことないよ。」
などと可笑しそうにのたまっている。
「これでも小3までピアノやってたんだけどなぁ。」
疋嶋丸は不満げに言いバニラシェイクを吸い上げる。
「どの楽器も似合わないのもあるかもしれないけれど、あたしが気になったのは…、」節子がアイスコーヒーを一口飲み、先を続ける
「弾きづらそうだった。ギターもピアノもアコーディオンなんて特に…」
そう言って節子は目立たぬように小さく、カップを持った手の小指と視線で疋嶋丸の胸を指した。
明日菜は疋嶋丸の胸元にチラと目を走らせ、女性同士でも直視は憚られるのか、逃げ帰るように節子の視線に戻った。
「分けてほしい。」と明日菜はぼそりと言った。
「あ!ごめん飲み切っちゃった!」
と空のバニラシェイクのカップを持って疋嶋丸が慌てたように言った。
夕方までにはまだ幾分かあるので、散歩でもしよう、という事になった。
大通りを挟んで少し広めの公園がある。
「何がいいかなー。」
3人で歩くと自然に明日菜が真ん中になる。
「楽器?」疋嶋丸が確認のような相槌をする。
「…前に抱えない、…視界を塞がない、んー…。」節子にしては珍しくブツブツと声に出して考えている。
木々の下を歩くと枝葉から零れ落ちた光の粒が緩やかな明滅となって降ってくる。
晴れて良かったな、と疋嶋丸は思った。
「今更なんだけど、笛とかラッパでは駄目なんだよね?」
「それだと歌いながら出来ないじゃんー。」
「太鼓とかでも駄目なんだよね?」
「それだと伴奏に向かないじゃんー。」
疋嶋丸は少し先を歩き、明日菜と節子の会話を背中でぼんやり聞いていた。
並木を抜けると、そこには大きな花壇があった。
サルビア、ガーベラ、ランタナ、パンジー、ビオラ…。
花々が、1つの美しい色彩の王国の、健気な兵隊達のように背筋を伸ばし整列していた。
王国の真ん中の、石造りの台座の上に女神様がいた。
ふくよかな肢体にローブをまとい、長い髪に花冠を頂いた美しい女神像であった。
疋嶋丸が足を止め見上げていると、追いついた2人もそれにならった。そしてしばしの沈黙があった。
「ねぇ、あれ。」
「うん、だね。」
明日菜と節子は頷き合った。
通じ合った2人の会話についていけない疋嶋丸だったが、2人の食い入るような視線の先を確かめようやく合点がいった。
女神様が手にしているもの
竪琴だった。
あれから楽器店をいくつか巡った。電子ピアノとキーボードを見て、アコーディオンの専門店にも行ってみた。
だが、疋嶋丸が言ったとおり、楽器は結局買わなかった。
「今日は見るだけでいいんだよ。大体当たりをつけるだけでいいの。」
明日菜によると、楽器屋さんで実際に実物に触れて、気に入ったら通販で買うつもりでいると言う。楽器も電化製品みたいな買い方をするんだな、と疋嶋丸は思った。
一通り見終わったのでファストフード店で休憩中であった。
笑いつかれて3人ともぐったりしていた。
ピアノに座っても、アコーディオンをかまえても、お腹がよじれるくらい面白かった。明日菜などは思い出してにやけている。
「ぃや、でも最初の真っ赤なフライングブイを超えるものはなかったね。私さ、ひろ子ほど楽器が似合わない人見たことないよ。」
などと可笑しそうにのたまっている。
「これでも小3までピアノやってたんだけどなぁ。」
疋嶋丸は不満げに言いバニラシェイクを吸い上げる。
「どの楽器も似合わないのもあるかもしれないけれど、あたしが気になったのは…、」節子がアイスコーヒーを一口飲み、先を続ける
「弾きづらそうだった。ギターもピアノもアコーディオンなんて特に…」
そう言って節子は目立たぬように小さく、カップを持った手の小指と視線で疋嶋丸の胸を指した。
明日菜は疋嶋丸の胸元にチラと目を走らせ、女性同士でも直視は憚られるのか、逃げ帰るように節子の視線に戻った。
「分けてほしい。」と明日菜はぼそりと言った。
「あ!ごめん飲み切っちゃった!」
と空のバニラシェイクのカップを持って疋嶋丸が慌てたように言った。
夕方までにはまだ幾分かあるので、散歩でもしよう、という事になった。
大通りを挟んで少し広めの公園がある。
「何がいいかなー。」
3人で歩くと自然に明日菜が真ん中になる。
「楽器?」疋嶋丸が確認のような相槌をする。
「…前に抱えない、…視界を塞がない、んー…。」節子にしては珍しくブツブツと声に出して考えている。
木々の下を歩くと枝葉から零れ落ちた光の粒が緩やかな明滅となって降ってくる。
晴れて良かったな、と疋嶋丸は思った。
「今更なんだけど、笛とかラッパでは駄目なんだよね?」
「それだと歌いながら出来ないじゃんー。」
「太鼓とかでも駄目なんだよね?」
「それだと伴奏に向かないじゃんー。」
疋嶋丸は少し先を歩き、明日菜と節子の会話を背中でぼんやり聞いていた。
並木を抜けると、そこには大きな花壇があった。
サルビア、ガーベラ、ランタナ、パンジー、ビオラ…。
花々が、1つの美しい色彩の王国の、健気な兵隊達のように背筋を伸ばし整列していた。
王国の真ん中の、石造りの台座の上に女神様がいた。
ふくよかな肢体にローブをまとい、長い髪に花冠を頂いた美しい女神像であった。
疋嶋丸が足を止め見上げていると、追いついた2人もそれにならった。そしてしばしの沈黙があった。
「ねぇ、あれ。」
「うん、だね。」
明日菜と節子は頷き合った。
通じ合った2人の会話についていけない疋嶋丸だったが、2人の食い入るような視線の先を確かめようやく合点がいった。
女神様が手にしているもの
竪琴だった。