10 部長は会社を休む
文字数 1,029文字
翌日、疋嶋丸は会社を休んだ。
体調も悪くないし働きたくない訳でもなかったが、今日一日仕事のことを頭から追い出し、まるきり自分の我儘だけで動いてみようと決め、昨日のうちに連絡を入れてあった。
柔らかな初夏の日差しと仄かに新緑の匂いをのせた風に吹かれていると、感情の流れ路に溜まった泥が一掃されてゆくような感じがした。
昨日はあのまま帰宅してからゆっくりと過ごした。
浴槽に湯をため風呂につかり、
頂き物のラズベリーのバスソープを使って体を洗い、
映画を2本観て阿呆のように笑ったり泣いたりし、
ピザをデリバリーし平らげ、
実家に電話して両親と少し話した。
明日菜と節子にも今日あった事をそれとなく話していたら、いつの間にかリモート芋女会が始まり、平日だというのに夜中の2時過ぎまで呑んだ。
今日は10時半に起きた。酒は残っておらず爽快だった。
一度7時に目覚め、時計を見て悲鳴を上げたが、今日は休んだのだ、と思い出し再び眠りについた。二度寝ほどの贅沢があるだろうか、と彼女は思った。
「いらっしゃい。」テーブルを拭きながら店長が言った。
「昨日はお店閉めさせちゃってすみませんでした。」
疋嶋丸がそう言うと、いいよ大して繁盛してないんだから、と店長が笑った。
「ひろ子!こっち」
声の方を見ると節子が奥の席で手をひらひらさせていた。
「ぜんぜん変わってないんだね。ナポリタンもまだある!」と明日菜が嬉しそうにメニューをめくっている。
昨晩リモート芋女会をしていて、店長が話題に上がり2人とも久々に会いたい、と言い出し、じゃぁ明日ランチ行こう!という事になったのだ。明日菜はバイトを遅番に替えてもらい節子は2、3時間抜ける、と言って来ているらしい。
通常の営業のはずだが"大して繁盛してない"の店長の言葉どおり店の中は疋嶋丸たちの他には数人の常連客がいるだけである。
「じゃ、お願いしまぁす。」明日菜が手をあげると、
「はい。」と店長がテーブルにやって来た。
「ナポリタン1つ、」
「あ、2つ、あと紅茶のお代わりください。」
明日菜の注文に節子がかぶせてきた。
「ツナサンドとアメリカン。」疋嶋丸も注文した。
「え、そんなんでいいの?!」そんな軽いものでいいの、という意味だろう。節子である。
「さすがにね、昨日自棄食いしちゃってね、ここで3人前食べてうちでピザⅬ2枚食べちゃってね。今日は大人しくしとく。」
「確認するね。」と店長は注文を復唱し
「少々お時間頂きますね。」と言ってキッチンへ消えた。
体調も悪くないし働きたくない訳でもなかったが、今日一日仕事のことを頭から追い出し、まるきり自分の我儘だけで動いてみようと決め、昨日のうちに連絡を入れてあった。
柔らかな初夏の日差しと仄かに新緑の匂いをのせた風に吹かれていると、感情の流れ路に溜まった泥が一掃されてゆくような感じがした。
昨日はあのまま帰宅してからゆっくりと過ごした。
浴槽に湯をため風呂につかり、
頂き物のラズベリーのバスソープを使って体を洗い、
映画を2本観て阿呆のように笑ったり泣いたりし、
ピザをデリバリーし平らげ、
実家に電話して両親と少し話した。
明日菜と節子にも今日あった事をそれとなく話していたら、いつの間にかリモート芋女会が始まり、平日だというのに夜中の2時過ぎまで呑んだ。
今日は10時半に起きた。酒は残っておらず爽快だった。
一度7時に目覚め、時計を見て悲鳴を上げたが、今日は休んだのだ、と思い出し再び眠りについた。二度寝ほどの贅沢があるだろうか、と彼女は思った。
「いらっしゃい。」テーブルを拭きながら店長が言った。
「昨日はお店閉めさせちゃってすみませんでした。」
疋嶋丸がそう言うと、いいよ大して繁盛してないんだから、と店長が笑った。
「ひろ子!こっち」
声の方を見ると節子が奥の席で手をひらひらさせていた。
「ぜんぜん変わってないんだね。ナポリタンもまだある!」と明日菜が嬉しそうにメニューをめくっている。
昨晩リモート芋女会をしていて、店長が話題に上がり2人とも久々に会いたい、と言い出し、じゃぁ明日ランチ行こう!という事になったのだ。明日菜はバイトを遅番に替えてもらい節子は2、3時間抜ける、と言って来ているらしい。
通常の営業のはずだが"大して繁盛してない"の店長の言葉どおり店の中は疋嶋丸たちの他には数人の常連客がいるだけである。
「じゃ、お願いしまぁす。」明日菜が手をあげると、
「はい。」と店長がテーブルにやって来た。
「ナポリタン1つ、」
「あ、2つ、あと紅茶のお代わりください。」
明日菜の注文に節子がかぶせてきた。
「ツナサンドとアメリカン。」疋嶋丸も注文した。
「え、そんなんでいいの?!」そんな軽いものでいいの、という意味だろう。節子である。
「さすがにね、昨日自棄食いしちゃってね、ここで3人前食べてうちでピザⅬ2枚食べちゃってね。今日は大人しくしとく。」
「確認するね。」と店長は注文を復唱し
「少々お時間頂きますね。」と言ってキッチンへ消えた。