32 明日菜は燃え広がる
文字数 2,089文字
疋嶋丸と明日菜と節子。
3人は紛れもなく親友である。
三者三様タイプは違うが、むしろ違うからこそ、気が合うのである。
女同士だし年齢も近いから、共に若者を羨んだり、共に上司のグチをこぼしたり、学生のように野望を語ったり出来た。
もうそれだけで充分なのだが、最後のダメ押しとなっているのが、3人とも無類の芋焼酎好き、という点である。
故、この芋女会に於いて
優劣や勝ち負けをつけたいこと
どうしても譲れないこと、その他の議論、押し問答、そして尋問、など…。
どうも話し合いで解決しそうにない問題は、会独自の方法で決着を着ける。
すなわち『根ほり葉ほり芋ほりほり』である。
早い話"喧嘩も芋で"ということだ。
明日菜がショットグラスを煽る。
20代の頃は飲み干すのがルールだったが、
今はそういう時代ではないし、何よりそういう年齢ではない。
現在はグラスの酒が適度に減っていればいいルールに改正されている。
叩きつけられるように置かれたグラスの中で氷が鳴った。
飲み干したようだ。
「ちょっと明日菜!」節子がたしなめる。
「緒川はるかに会ったよ。」明日菜が切り出す。
「え?!」疋嶋丸は面食らった。
「今日お芝居観に来てくれたんだよ。」節子が説明に入ってくれる。
「…でさ。」と言いかけて明日菜が節子に視線をおくると、節子はやれやれ、というようにグラスに酒を注いだ。
そして明日菜が続けた。
「でさ、何?あのイケメン!」
「は?!」今度は面食らい過ぎて素っ頓狂な声を上げてしまった。
明日菜はいつもそうだ…。キレどころが全く分からない。
疋嶋丸はグラスを取り突き上げるように煽る。
が、急に喉に流し込んではいけない。
空のグラスを静かにおいて真正面の明日菜を見据えた。
節子は、もう好きにしてくれよ、というように顔をしかめた。
「男性の顔の好みは人それぞれだけど、確かに緒川くんは見ようによってはイケメンかもね。でも少なくとも私にとっては職場の部…」
「ひろ子貴様まだそんな事を!ぐぬわーー!!!」
明日菜が2杯目を飲み干し、グラスが割れんばかりにテーブルを叩く。
「いっつもいっつも酔っ払って緒川君に叱っちゃったどうしよう緒川君に怒っちゃったどうしよう嫌われちゃったよねどうしようなんでいつもあんなに強く言っちゃうんだろうやっぱ嫌われたよね仕方ないじゃん上司なんだもんそれにもうそんなに若くないし部署には可愛い女の子もけっこういるし緒川くんイケメンだから人気あるしまた叱っちゃったし絶対嫌われてるしもう私どうしたらいいのかなとか散々言ってたじゃん!」
それを聞くや疋嶋丸はにわかに赤面した。勿論酒の酔いのせいではない。
疋嶋丸も2杯目の酒を引っ掴み飲み干し、声を張った。
「言ってません!」
そこからは、もうまるで子供の口喧嘩だった。
「言ってたもん!」
「言ってないもん!」
「言った!」
「言ってない!」
こういうのを芋女会では"芋掛け論"と呼んでいる。長く続くこともあるが、今回は一瞬で終わった。
「言ってたよ。」という節子の一言で。
「ええええええ!嘘でしょーーーーー!」と疋嶋丸は身悶えし叫んだ。
「ひろ子、言ってたよ、毎回。」と再び節子
「ほーら見ーろバーカバーカ!」と明日菜
「明日菜、もうやめな!」
そう言いながら、今まで審判役だった節子が
自分のグラスを持ってきて注ぎ、椅子に掛けた。
節子が続けた。
自分の恋愛事情なんて人に言うか言わないか、自由だけどさ。
はい、乾杯、し直そう。
少しくらいは教えてくれても良かったんじゃないかな、って思ったよ。
あたしたちに恋の御裾分けってゆうかさ、
いつもひろ子の話に出て来る男の実物見て、あたしもちょっとニヤニヤしたし、明日菜もテンション上がって、そんで変なスイッチ入っちゃったんだよねきっと。
で今日、緒川いたからさ、
明日菜は本番だったけど、あたしはけっこうずっと彼の近くにいて、
何かちょっと観察してたんだ。
いやいや、違うよ、そういう意味じゃない。
で、一応これでも上に立つ者の端くれだからさ、分かるんだよね。
あたし、彼が仕事で失敗を繰り返すような人間に見えないんだよね。
「しかもめっちゃイケメン!」
明日菜が口を挟み、ついでに話を引き継ぐ。
でね!その話を聞いてね、私、閃いたの!
判っちゃったの!!じっちゃんの名にかけちゃったの!
緒川君って、もしかして、ひろ子に叱られたいから、わざと仕事でミスをしてるんじゃないかなって。
せっちゃんお代わり!
「…そんな、まさか。」と、
明日菜の名(迷?)推理を聞いた疋嶋丸は呟く。
「その可能性はあるかもな、ってあたしも思ったよ。」と節子が言う。
だが…、
「でも緒川君、永井さんと付き合ってるみたいで…。」
と突然、疋嶋丸から爆弾が投下された。
「んなーーーーー!!!誰それ殺す!」
そして燃え広がった。
「ひろ子の部署の?確か楠と同期のやつか…。」
節子は社内名簿を頭の中に開いた。
あ、喫煙室でたまに会う子かもしれない…。
「ちょ、まてよ!ひろ子ーーーー!!!親友の活躍場面ナシでなんの山場もナシで勝手に恋愛終了なんてな、ラブコメなめてんじゃねーぞ!」
鎮火作業は朝まで続いた。
3人は紛れもなく親友である。
三者三様タイプは違うが、むしろ違うからこそ、気が合うのである。
女同士だし年齢も近いから、共に若者を羨んだり、共に上司のグチをこぼしたり、学生のように野望を語ったり出来た。
もうそれだけで充分なのだが、最後のダメ押しとなっているのが、3人とも無類の芋焼酎好き、という点である。
故、この芋女会に於いて
優劣や勝ち負けをつけたいこと
どうしても譲れないこと、その他の議論、押し問答、そして尋問、など…。
どうも話し合いで解決しそうにない問題は、会独自の方法で決着を着ける。
すなわち『根ほり葉ほり芋ほりほり』である。
早い話"喧嘩も芋で"ということだ。
明日菜がショットグラスを煽る。
20代の頃は飲み干すのがルールだったが、
今はそういう時代ではないし、何よりそういう年齢ではない。
現在はグラスの酒が適度に減っていればいいルールに改正されている。
叩きつけられるように置かれたグラスの中で氷が鳴った。
飲み干したようだ。
「ちょっと明日菜!」節子がたしなめる。
「緒川はるかに会ったよ。」明日菜が切り出す。
「え?!」疋嶋丸は面食らった。
「今日お芝居観に来てくれたんだよ。」節子が説明に入ってくれる。
「…でさ。」と言いかけて明日菜が節子に視線をおくると、節子はやれやれ、というようにグラスに酒を注いだ。
そして明日菜が続けた。
「でさ、何?あのイケメン!」
「は?!」今度は面食らい過ぎて素っ頓狂な声を上げてしまった。
明日菜はいつもそうだ…。キレどころが全く分からない。
疋嶋丸はグラスを取り突き上げるように煽る。
が、急に喉に流し込んではいけない。
空のグラスを静かにおいて真正面の明日菜を見据えた。
節子は、もう好きにしてくれよ、というように顔をしかめた。
「男性の顔の好みは人それぞれだけど、確かに緒川くんは見ようによってはイケメンかもね。でも少なくとも私にとっては職場の部…」
「ひろ子貴様まだそんな事を!ぐぬわーー!!!」
明日菜が2杯目を飲み干し、グラスが割れんばかりにテーブルを叩く。
「いっつもいっつも酔っ払って緒川君に叱っちゃったどうしよう緒川君に怒っちゃったどうしよう嫌われちゃったよねどうしようなんでいつもあんなに強く言っちゃうんだろうやっぱ嫌われたよね仕方ないじゃん上司なんだもんそれにもうそんなに若くないし部署には可愛い女の子もけっこういるし緒川くんイケメンだから人気あるしまた叱っちゃったし絶対嫌われてるしもう私どうしたらいいのかなとか散々言ってたじゃん!」
それを聞くや疋嶋丸はにわかに赤面した。勿論酒の酔いのせいではない。
疋嶋丸も2杯目の酒を引っ掴み飲み干し、声を張った。
「言ってません!」
そこからは、もうまるで子供の口喧嘩だった。
「言ってたもん!」
「言ってないもん!」
「言った!」
「言ってない!」
こういうのを芋女会では"芋掛け論"と呼んでいる。長く続くこともあるが、今回は一瞬で終わった。
「言ってたよ。」という節子の一言で。
「ええええええ!嘘でしょーーーーー!」と疋嶋丸は身悶えし叫んだ。
「ひろ子、言ってたよ、毎回。」と再び節子
「ほーら見ーろバーカバーカ!」と明日菜
「明日菜、もうやめな!」
そう言いながら、今まで審判役だった節子が
自分のグラスを持ってきて注ぎ、椅子に掛けた。
節子が続けた。
自分の恋愛事情なんて人に言うか言わないか、自由だけどさ。
はい、乾杯、し直そう。
少しくらいは教えてくれても良かったんじゃないかな、って思ったよ。
あたしたちに恋の御裾分けってゆうかさ、
いつもひろ子の話に出て来る男の実物見て、あたしもちょっとニヤニヤしたし、明日菜もテンション上がって、そんで変なスイッチ入っちゃったんだよねきっと。
で今日、緒川いたからさ、
明日菜は本番だったけど、あたしはけっこうずっと彼の近くにいて、
何かちょっと観察してたんだ。
いやいや、違うよ、そういう意味じゃない。
で、一応これでも上に立つ者の端くれだからさ、分かるんだよね。
あたし、彼が仕事で失敗を繰り返すような人間に見えないんだよね。
「しかもめっちゃイケメン!」
明日菜が口を挟み、ついでに話を引き継ぐ。
でね!その話を聞いてね、私、閃いたの!
判っちゃったの!!じっちゃんの名にかけちゃったの!
緒川君って、もしかして、ひろ子に叱られたいから、わざと仕事でミスをしてるんじゃないかなって。
せっちゃんお代わり!
「…そんな、まさか。」と、
明日菜の名(迷?)推理を聞いた疋嶋丸は呟く。
「その可能性はあるかもな、ってあたしも思ったよ。」と節子が言う。
だが…、
「でも緒川君、永井さんと付き合ってるみたいで…。」
と突然、疋嶋丸から爆弾が投下された。
「んなーーーーー!!!誰それ殺す!」
そして燃え広がった。
「ひろ子の部署の?確か楠と同期のやつか…。」
節子は社内名簿を頭の中に開いた。
あ、喫煙室でたまに会う子かもしれない…。
「ちょ、まてよ!ひろ子ーーーー!!!親友の活躍場面ナシでなんの山場もナシで勝手に恋愛終了なんてな、ラブコメなめてんじゃねーぞ!」
鎮火作業は朝まで続いた。