物語詩のような散文 ものぐるひ

文字数 1,074文字

『河童』を読んだ人は怒って国語の教科書を燃やし、(あずさ)(がわ)へと穴を探しに行った。穴を通った先には河童の国があり、そこには超人倶楽部が存在する。

この人は、「羅生門」を教育的価値があるといって教える権力に吐き気がし、『河童』を不道徳として排除する権力に憎悪して、それを象徴する教科書に火をつけたといい、超人倶楽部に迎えられた。

最終的に抑圧機構としての国家を消滅させると(うた)った社会主義は、独裁と抑圧の社会を築き、権力者の殺人を容認した。選ばれた政治家は不都合な人間を殺しても(ゆる)される。

将軍様を崇拝する人たちを見下しながら、皇族様を報道するメディアに疑問を抱かず、それを無批判に受け入れる大衆は(おろ)かだ。左翼の独裁を侮蔑(ぶべつ)しながら、大東亜の虚構(きょこう)、世界を天皇の御稜威(みいつ)(もと)に統合しようとする幻想(げんそう)を夢に見て、独裁の、抑圧の社会を容認するのは矛盾だ。

ソクラテスを処刑した愚者の民主主義。大衆の暴力でしかない。

五体(ごたい)投地(とうち)させる阿呆(あほう)仏陀(ぶっだ)。妻帯し、酒を飲み、戒律を捨てても、妄想でつくられた仏の名前を口にするだけで救われると説く坊主を敬い、世襲の坊主に頭を下げ、たしかめられたことのない、あの世で救われると思って、この世で堕落(だらく)することを受け入れる阿呆ども。天上天下唯我独尊の本当の意味を説く言いわけ坊主。誰も信じられない。

ムハンマドの妄想(もうそう)が書かれたクルアーンを燃やした人間を憎悪し、シャリーアこそ絶対的に正しいとして道徳警察を巡回させる原理主義者が、ヒジャーブが適切に着用された女性を見て満足の笑みを浮かべることほど気味の悪いものはない。

こんなことを話すために河童の国に入ったという、その人は、河童の国から戻って来ると、ぼくにこう言った。

権力者、教育者が人間の真の自由を抑圧する自由を謳歌(おうか)するところにいると、ときどき河童の国に行きたくなるんだ。不道徳だからね、僕は。善悪を超越した世界でものを考え、言葉にする遊びが許されないと真の物狂いになっちまうからね。いわば自分で治療してるんだよ。社会で認められない欲求を、社会で受け入れられるように欲求不満を解消させようとすることは昇華とよばれるそうだが、本が発禁にされ、燃やされるような世界で、真の昇華なんて実現しないね。精神科医や心理士も信頼できない。彼らはしょせん口をもつ人だ。こうした世界では、せいぜい、誰にもみられない真っ白なページに、思っていることを表現してごまかすぐらいで満足するしかない。

それで、表現されずに鬱積(うっせき)したものが精神の健康をむしばみ、自制の限界が近づくと、思想解放による治癒のために、ときおり河童の国へ行くそうだ。
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