第21話

文字数 567文字

 壁越しに男性の怒鳴り声が聞こえた。
体格がよく、力も強い。悪い噂が絶えない人物である。

彼が暴れても都はただ、耐えるだけ。
部屋の片隅で怯えるネズミのように。

それが外側に残された人間たちの末路の一つ。

透日は振り返ることなく自分の部屋へと向かった。
間に入って彼女を庇うほどの勇気はないし、巻き込まれたくないというのが本音だった。

「ほら、お兄ちゃん来た」

ドアを開けると同時に、茉璃の声が聞こえてきた。
間に入って彼女を庇うほどの勇気はないし、何かが変わるとも思えなかった。

「ほんとだ、すごいね茉璃ちゃん」

「でしょ?」

ハルが家にきて1週間。
茉璃はハルをもう一人の兄のように慕うようになった。

リビングにいくと、布団は既に畳まれていて、透日分の弁当が用意されていた。
茉璃も珍しく早起きをしたようだ。

「ごめん、ハル。起こしちゃって」

「気にしないでください。ところで、何かあったんですか?」

「いや、たいしたことじゃないよ…」

「…そうですか、わかりました。それより先輩、今日も仕事ですか?」

「いや、久々に休むことにしたよ」

断ったがハルが無償で仕事を手伝ってくれたおかげで、どうにか激務の14連勤を乗り切った。

「お兄ちゃん、今日一緒にいれる?」

「うん、久しぶりに遊ぼう」

「やったー!嬉しい!」

茉璃はウサギのように飛び跳ねた。

—茉璃と遊ぶのは本当に久しぶりだ。
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