第9話:競馬と新幹線開通

文字数 1,547文字

 こうしてIMさんは銀行のオンラインシステムを悪用して、たった数時間のうちに現金5千万円と8千万円相当の小切手を搾取することに成功した。オンライン端末による架空入金の手続きは、もちろん、三和銀行4支店での架空口座の開設、そして現金や小切手の引きだしに至るまで伊IMさんが全1人で行った。実はこれはIMさんと愛人関係にあったMTの次のような言葉を信じた上での犯行だった。

「茨木支店で入金の打ち込みをしてすぐ金を引き出し、その足で出国すれば良い」
「2人でフィリピンのマニラに逃げて一緒に暮らそうや」
 その後、まもなく都内で南敏之と落ち合ったIMさんは、不正送金により搾取した1億3千万円相当の全額を彼に引き渡した。

 そして、「1ヶ月後に必ずマニラへ行く」というMTの約束を信じIMさんは逃亡資金として渡された5百万円と引き出し損ねた預金通帳1冊の握りしめ、そのまま羽田空港へ、そこから台北、香港経由でフィリピンの首都マニラへ逃亡した。そんなMTの言葉を信じてIMさんは潜伏先のフィリピン・マニラで、ひたすらMTを待ち続けた。しかし、約束の1ヶ月が過ぎてもMTはマニラに来なかった。

 それもそのはず、実はMTは、その頃、IMさんから受け取った大金で日本で家族と豪遊していたと言う。そして、事件発生から約5ヶ月が過ぎた1981年9月5日、三和銀行茨城支店で起きた巨額横領の事実が新聞各社で報道された。これで、この事件がようやく明るみに出た。すぐにIMさんは国際指名手配され、それから3日後の9月8日にはマニラ入国管理局に身柄を拘束された。

 そして、日本へ送還される機内で逮捕された。また、日本国内にいたMTも9月8日に大阪府警に逮捕された。1982年7月27日、大阪地方裁判所はIMさんに懲役2年半、首謀者であるMTには懲役5年の実刑判決が言い渡した。1980年の夏、佐飛初幸に子供ができたので鮫島さんが遠慮して競馬に誘わなかった。しかし、1981年になり4月12日の日曜、13時に武蔵小杉駅に集まった。

 そこから地下鉄を使い14時過ぎに中山競馬場に入りカフェで競馬新聞を広げた。15時前に店を出てパドックに着くと出走馬出てきた。その様子を鮫島さんと仲間3人がじっと見つめた。しばらくして見終わると11番人気の8番ロングミラーと16番人気の1番カツトップエースが良さそうと鮫島さんが言った。他の人が本命の17番トドロキヒホウは駄目だと言った。

 また、他の仲間がでも2番人気の16番ステイードは良いと言うと他の2人も悪くはないと同意した。鮫島さんが佐飛初幸にお前は、単勝と複勝だよなと言い、8番ロングミラーと1番カツトップエースが良さそうだと教えた。それを聞いて駄目もとで16番人気の1番カツトップエースの単勝、複勝を2千円ずつ買うことにした。そして、それぞれが馬券売り場に行き馬券を買って観覧席に戻ってきた。

 こうして、レースが始まった、3コーナーで2番人気の16番ステイードがトップに立った。1番カツトップエースと8番ロングミラーは中段に位置していた。そして、4コーナーから直線を向くと1番カツトップエースと8番ロングミラーに鞭が入り加速してきた。そして、ゴール近くで1番カツトップエースと8番ロングミラーが16番ステイードを抜いてゴールした。

 その後、1番カツトップエースが8番ロングミラーを首差で抜いたことが判明した。鮫島さんと仲間3人は16番ステイードを頭に流していたので外れてしまった。その結果、佐飛初幸が当たり17万円を超える儲けとなった。そこで、武蔵小杉に帰り、寿司屋で夕食を食べて5人分の寿司とビール代金の2万円を支払った。競馬の儲けの残金15万円を手にして佐飛初幸は自宅に帰ってきた。
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