びちびちはねる銀色の小魚①
文字数 1,404文字
解決策がみつかるまではと、ヒヨルの寝室とリビングの空間を丸ごと「
これではミツハが外に出ていって、次の
ミツハは仕方なく、自らアドベントカレンダーの「8」を手にした。
自分がこれに直接関わると、この先の事象の流れにどんな変調が起きるか見当もつかなかった。
だが、アドベントカレンダーを止めることはもっと危険だと、本能が告げている。
ミツハは意を決して「8」の卵を開けた。
とたんに、どっと拳大の穴から吹き出してきた大量の水に度肝を抜かれた。
ばしりと、一匹の小魚が頬を打った。
「そうか……あれはこういうことだったんですね、
ヒヨルヒェン
……」ミツハはびちびちはねる銀色の小魚を掌に乗せ、微笑んだ。
言葉のない、穏やかな世界だった。
瑠璃色の夜空には、メビウスの輪の形をした天の川が輝いていた。
星たちの瞬きは、りんりんと銀の鈴の音のように空気を震わせ、時々流れ星が通るたびに打ち合ってるりるりと澄んだ音を鳴り響かせた。
一面シロツメクサが咲き乱れている森の泉の辺りに、金髪の幼い少女がいる。鼻歌を口ずさみながらシロツメクサを摘んでは、せっせと花輪を編んでいた。
その周りに、少女を守るようにぐるりとユニコーンたちが集まっていた。
ふいに、ユニコーンたちが激しくいななき始めた。
泉の水面が激しく泡立ち、揺れていたのだ。
やがて水底から何か細長いものが浮き上がってきた。
それは黒い髪に浅黒い肌、奇妙な服をまとった少年だった。
少女に純粋な恋心を抱くユニコーンたちにとって、少女を惑わす少年とは鬱陶しい存在である。
鋭い角でズタズタに引き裂いてしまおうと、蹄を鳴らして待ち構えた。
まって、と少女が彼らを腕の動きで止めた。
あなたたちより、あたしと
かたち
がにてる。あれはにんげん
でしょう?あたし、
にんげん
とおしゃべりしてみたい! と瞳で語った。ユニコーンたちはたいそう不満そうだったが、恋した少女の懇願にはさからえなかった。
角の先に服をひっかけて少年を岸に引きあげた。
息は止まっていたが、一頭が前脚の蹄で胸をどんと叩くと、少年は水といっしょに小魚を吐いて息を吹き返した。
少年はぼんやりとびちびちはねる銀色の小魚を見てから、再び気を失った。
ユニコーンたちと少女が玉のように丸く集まって、メビウスの輪が半分傾ぐまで少年をあたためた。
少年は空が桃色に塗り替えられた明け方に目を開いた。
一番最初に少女を見た。少女も少年を見て、見つめあいになった。
少女が微笑むと、少年も微笑んだ。
二人は手を繋いで立ち上がると、シロツメクサの野原で追いかけっこをはじめた。
泉の向こうには豊かな森があり、果物も野菜もいくらでも穫れた。
二人は昼は好きなだけ走り回って遊んで、夜はユニコーンたちと丸くなって眠った。
何不自由のない世界だったが、二人は一つだけ不満を感じるようになった。
それは言葉が通じなくて互いの名前や身上がわからないことだ。
二人は言葉を教え合うことにした。
わたしのなまえはミツハです。=
Mein
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>>>②につづく(②まで)