危機と人類 (2020/5/15)

文字数 2,182文字

2019年10月25日 1版1刷
著者 ジャレド・ダイアモンド
訳 小川敏子 川上純子
日本経済新聞出版社



ピューリッツアー賞ノンフィクション『銃・病原菌・鉄』(2000年 草思社)著者の新作、
原題はUPHEAVAL:Turning Points for Nations in Crisis 

まずは、以下の表紙扉のブリーフィングコピーを・・・
「ペリー来航で開国を迫られた日本、ソ連に侵攻されたフィンランド、軍事クーデターとピノチェトの独裁政権に苦しんだチリ、クーデター失敗と大量虐殺を経験したインドネシア、東西分裂とナチスの負の遺産に向き合ったドイツ、白豪主義の放棄とナショナル・アイデンティティの危機に直面したオーストラリア、そして現在進行形の危機に直面するアメリカと日本・・・。
国家的危機に直面した各国国民は、いかにして変革を選び取り、繁栄への道を進むことができたのか? ジャレド・ダイアモンド博士が世界7か国の事例から、次の劇的変化を乗り越えるための叡智を解き明かす」

新型コロナウイルスによるパンデミックのさなかに本書を手にするタイミングをまずはもって喜んだ。
上記宣伝感あふれるブリーフィングにあるように、古くても明治維新の日本から第二次大戦後のオーストラリアまで近代における国家危機、そのひとつひとつを叙述的に分析した研究結果が本書のメインになっている。
1939年に突き付けられたフィンランドの小国としての生き残り戦略が、現状のパンデミック対応に生かされていることが、同時進行物語として実感する。
その逆に、世界に見習って近代化・富国強兵に邁進した日本人が今パンデミック対策で立ち遅れている。歴史から学ぶ、科学に敬意を払う姿勢がないと国家危機を乗り越えることは困難だという焦燥感に突かれた。

著者は、独自の「国家的危機の帰結にかかわる要因」を12点提示している:
① 自国が危機にあるという世論の合意
② 行動を起こすことへの国家としての責任の受容
③ 囲いをつくり、解決が必要な国家的問題を明確にすること
④ 他の国々からの物質的支援と経済的支援
⑤ 他の国々を問題解決の手本とすること
⑥ ナショナル・アイデンティティ
⑦ 公正な自国評価
⑧ 国家的危機を経験した歴史
⑨ 国家的失敗への対処
⑩ 状況に応じた国としての柔軟性
⑪ 国家の基本的価値観
⑫ 地政学的制約がないこと

もう少しだけ内容に触れる:
以下のタイトルで 7か国の国家危機の詳細レポートがある。
●フィンランドの対ソ戦争
●近代日本の起源(明治維新)
●すべてのチリ人のためのチリ
●インドネシア、新しい国の誕生
●ドイツの再建
●オーストラリア―われわれは何者か?

僕は不勉強のため「フィンランド化」についてほぼ何も知らなかった、同様にインドネシアのスハルト政権のことも。本書では最後のパートで日本とアメリカをピックアップして、前述の「危機の帰結にかかわる要因」を選択して、いま世界で進行中の危機について考察する。

《日本》
過去2回国家的危機を解消してきた経験がある、明治維新と敗戦・占領 (要因⑧)
失敗や敗北から回復する忍耐力と能力が過去に実証されている(要因⑨)
他国と国境を接しない列島であることからの選択の自由(要因⑫)
誇り、一貫性の強さ(要因⑥)
韓国と中国以外の貿易相手からの友好的な支援(要因④)
(もし日本に手本にするつもりがあるなら)手本となる他国の存在(要因⑤)
一方、以上の強みを相殺するのは・・・
環境の変化によって今の時代には合わなくなった伝統的価値、持続可能資源の浪費(要因⑪)
第二次世界大戦の責任の取り方(要因②)
公正で現実的な自国意識の欠如、人口減少を受け容れることとセットになる移民政策の不備(要因⑦)

《アメリカ》
富み、地理、民主主義、社会的流動性、移民‥という強みがあるものの、一番の脅威は「政治的妥協」が衰退してきていること。それは「社会関係資本」の減少と相まって一勢力が反対勢力を根絶する大きな危機をはらんでいる。その底辺では「選挙」、「平等」、「教育」においても未来への問題を持ち越したままの状態だ。

《世界》
同じように「危機の帰結にかかわる要因」を地球サイズで見てみると、
支援を求める他の惑星は今のところない(要因④)
解決の手本となる惑星も今のところない(要因⑤)
まだ世界には共有される広いアイデンティティも基本的価値観もない(要因⑥⑪)
人類は初めて地球規模の危機に直面している(要因⑧)
まだ失敗した経験もない(要因⑨)
世界の危機に対する世界全体の共通認識もない(要因①)
世界規模での公正な自己評価もない(要因⑦)
地政学的にも条件は厳しい(要因⑫)
つまるところ、資源の枯渇、二酸化炭素の上昇、世界規模の格差により人類が実験・操作できる余地はない。

最後のページに著者のメッセージがある:
《現在、世界全体がグローバルな問題に直面している。しかしこの100年、特に過去数十年の間に、世界は地球規模の問題に対処する諸機関を発展させてきた。現在の国家や世界は対応策を求めて暗闇を手探りする必要はない。過去にうまく言った変化、うまくいかなかった変化を知っておくことは、私たちの導き手になるからだ。》

さてさて、日本は現在進行中のパンデミックを解決することができるのか?
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