第2話

文字数 2,055文字

 今日見た夢の内容を学校で飯塚に話してみた。といっても転校生の少女が来る、ということぐらいしか伝えてないが。夢の中であれだけけなしておいてなんだが、クラスで一番仲が良いのはこいつだ。同じくらい仲が良いのに八幡(やはた)ってのもいるが。
「へえ、で、その娘可愛かった?」
「可愛いってよりは美人って感じ。歳は俺らと同じはずだけど妙に大人びてたし。」
「美人かあ…俺は可愛い系の方が好きなんだがなあ。」
 お前の女の好みなんざ聞いてない。
「で、他に何か特徴はなかったか?例えば胸がデカいとか。」
「胸も決してそう大きくはない。どちらかというと貧乳の類。」
「チッ、胸もダメか…」
 何でお前がそんなに残念がるんだよ。あと舌打ちやめろ感じが悪い。
「お前、女子の前とかで間違ってもそういう態度取るなよ?なんか夢の中の女の子に申し訳なく思えてきたよ。」
「別に良いだろ?夢の中の女の子は現実にはいないんだし。だいたい高3のこの時期に転校生なんか来るかよ。」
 まあそれもそうだな、あれはただの夢。まさか本当に今日転校生が来る訳…
「よおお前ら、春休みの間元気にしてたか?突然だが今日からこのクラスに生徒が1人増えることになった。転校生の豊前 みやこさんだ。」
 突然教室に入ってきた中洲先生が転校生が来ることを知らせてくれた。そして確かにこういった。「とよまえ みやこ」と。
 教室に入ってきた少女は一言でいうととっつきにくそうな娘だった。背は中程度で若干痩せ気味、胸も大きくはない。背の中程までありそうな髪は綺麗で顔立ちも整ってはいるが、如何せん釣り目気味で目つきについては褒められたもんじゃない―つまり夢の中の少女と瓜二つだ。
「豊前さんはお父さんのお仕事の都合で…」
 その後の流れも夢で見たのと同じような内容なので省略。少し違うことと言えば豊前さんの問いかけに対して僕が夢の中と違う受け答えをしたときのことだ。
「君が行橋くん?よろしくね。」
「う、うん、こちらこそ。」
「おいおい行橋、緊張してるなら俺が変わってやろうか?」
 豊前さんの問いかけに対してやや緊張気味に受け答えしたのを飯塚がこのようにからかってきたときのこと。
「余計なお世話だ飯塚。その…ああいうやつでごめん…」
「いいえ、気にしてないわ。素敵なお友達ね。」
 僕が飯塚の冷やかしを代わりに謝罪すると豊前さんは夢と同じ返答をした。
『いいや、あいつとはただの腐れ縁です。』
 夢の中ではそう答えていたが、ここでは敢えて違う回答をしてみた。
「そうなんだよ、あいつはお調子者だけど困っているやつは放っておけない良いやつで、俺の唯一無二の親友なんだ。是非仲良くしてやってね。」
 自分でもひくぐらい飯塚を褒めてみた。何言ってんだ僕は…
「おいおい、やめろよ行橋、照れるじゃねえかよ。」
「なんだよお前ら、もしかして付き合ってんのか?」
 僕の友人でクラスのもう1人のお調子者の八幡がからかってきた。それにしても何で僕の友人はこういうのしかいないんだろうか...?
「冗談きついって。俺そっちの気はないから。もしあってもこいつとは付き合わねえよ。」
 飯塚がすかさず言い返した。その言葉そのままお前にも返してやろうか?
「行橋、異性にも少しは興味を持つんだぞ?」
 何故だか僕だけが先生にまで〇モ扱いされたところでまたしてもクラスに笑いが起きた。が、今回は豊前さんはちっとも笑っていなかった…もしかしてひかれた?

 今日は始業式のみで学校が終わるのも早かったっし、通り魔のこともあったので母さんに言われた通り早く家に帰ることにした。帰り際に飯塚と八幡からカラオケに誘われたが通り魔の件で断ったらこいつらも考えを改めたのか今日は真っ直ぐ家に帰ることにしたらしい。そうそう、さっきは言ってなかったが八幡とは中学校からの腐れ縁だ。あと真っ直ぐ帰ると言ったが、八幡は家の方角が違うが飯塚は家の方角が一緒なので成り行きで途中まで一緒に駄弁りながら帰ることになった。野郎2人でむさ苦しいとか言わないでくれよ?
「しかし驚いたなあ、まさかお前の見た夢の通り本当に今日転校生が来るなんてな。」
 飯塚が呟いた。
「ああ、俺も本当に転校生が来るとは思わなかったよ。しかも同姓同名で、容姿まで夢で逢った娘と酷似してたし。」
 僕はそう返した。
「え、そこまで一緒だったのか?お前予知夢でも見たんじゃね?」
 飯塚が驚愕の表情を浮かべて聞いてきた。声色と表情からもそれが伝わって来る。
「ああ、実を言うと言うと豊前さんが俺の隣の席に着くまでのお前らとのくだりがあったじゃん?あれもほぼほぼ夢で見た通りなんだよ。」
 最後の部分だけは意図的に夢の内容を捻じ曲げたが。
「ふ~ん、じゃあやっぱり予知夢だろそれ。案外これからも頻繫に見ることになるかも知れないな。」
「どうだか。そんな都合良く見れたら苦労しねえよ。」
 僕は元来迷信などの類は信じない質(たち)だ。だから今回の予知夢もたぶん一生に一度見るか見ないかの偶然の産物だと、そう思っていた―この時はまだ。
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