第9話
文字数 2,519文字
自宅の最寄りのバス停(と言っても家まではそこそこ距離がある)について飯塚と別れ、帰路につこうとしたとき、知った顔に遭遇した。僕が今一番会いたくもあり、1番会いたくもない相手―みやこだ。
「おい、みやこ!!」
みやこが僕が声をかけるや否やその場を立ち去ろうとしたため、僕は追いかけてからみやこの腕を掴んだ。
「ちょっと、放して!」
「みやこ、お前に話があるんだ!」
抵抗してるが構うもんか。
「放せっち言いよろうが!!」
「お前の見た予知夢の事だ!!」
「…予知夢?」
ようやくみやこが抵抗をやめた。
「そう、お前が言っていた、俺が通り魔に刺されるっていう夢のことだ。」
「何?フられた腹いせに私をヒステリー女だのメ〇ヘラ女だのと罵るために止めたの?だとしたらどうぞ気の済むまで…」
「俺も見ていたんだよ!予知夢を!!」
「えっ…」
みやこが呆気に取られたように黙り込んだ。
「一番初めに見たのはお前と初めて逢った日だ。その日、俺は夢で転校したばかりのお前と先に出逢っていたんだ。少しとっつきにくそうな雰囲気を感じたけどそれ以上に可愛い娘だと思った。思えば夢で出逢った時からお前に惚れていた。」
「ちょ、ちょっと…意味がわから…」
「それだけじゃない。俺がくだらない賭け事に乗じてお前を昼食に誘ったときも、夢で結果を知っていたから声をかけれた。お前の事を本気で好きになったのもあの時からだ。」
「あの、さっきから話の意味が…」
「お前に告白したときも快く受け入れてくれる事を夢で知っていたからできた。普段の俺ならお前みたいな可愛い娘に告白するなんて絶対にできなかった。」
「もうわかったけん…」
「他にも…」
「もうわかっけんやめりぃ!!あんたが噓を付いちょらんことは良うわかったっちゃ!!そやき…もうやめて…」
みやこの興奮が収まったのを見計らって尋ねた。
「信じてくれるか?みやこ」
「うん、テルを信じる。ごめんね、さっきは急に怒鳴ったりして。ごめんね、いきなり別れ話を持ちかけたりして。ごめんね、理由もまともに話そうとしなくて…テル、大好きだよ。」
いつの間にかみやこは僕に抱きついて泣いていた。僕もみやこの背に手を回し、華奢な身体をそっと抱きしめた。するとみやこはより一段と激しく泣き崩れた。みやこは自分では『無愛想で可愛げのない女』なんて卑下していたが、僕に言わせたら人一倍感情表現豊かな世界の誰よりも可愛いらしい女の子だ。彼女が泣き止むまではこうしておこう。
みやこが泣き止んでから僕は飯塚から聞いた予知夢に関することを全て、そして僕もみやこが刺される夢を見たことを伝えた。みやこは先程と打って変わって青ざめていた。
「どうしたんだ?みやこ。」
なるべく刺激しないように優しい口調で尋ねた。
「テルの話が本当なら、あの夢(テルが刺される夢)を見てから1ヶ月以上は経ってる…」
「なら問題なくないか?」
「でも私は未だに予知夢を見てる。つまり私が見たあの夢は…」
―まだ避けられてない―
一瞬静寂が僕らを包み込む。と同時に2人に緊張が走る。
「なあ、夢に出てきた男は長身細身で、黒っぽい服装に白いマスクをしていなかったか?」
「そこまで覚えてない。でも、背は高かった気がする。」
たぶん例の通り魔で間違いない。夜道で話し合う僕ら…あれ?そう言えば僕の見た夢もこんな感じじゃなかったか?みやこが例の予知夢を見て1ヶ月以上経っても予知夢を見続けている以上、飯塚のデータベースにそぐうという確証はなくなった。ということは僕が見た夢もまだ完全に外れたとは言い切れないじゃないか。
「外はどんな風だった?何でも良い。明るかったとか、暗かったとか。」
「夜道で私たちが何か話していたことぐらいしか…丁度今みたいに…」
振り向くと怪しげな男が立っている。服装は良く分からないが、長身で細身であることはシルエットからでもわかる―通り魔だ。通り魔はみやこ目がけて走り寄ってきた。僕じゃなくてみやこを?じゃあやっぱり僕の見た夢が…なんて考えている場合じゃない!みやこが危ない!僕は咄嗟にみやこをかばうように前に出てみやこの肩を抱えて避けた。その時通り魔の突き出したナイフが僕の左腕を切りつけた。
「くっ…」
痛みを堪えつつ僕は右ポケットに仕込ませていた帰りのバスに乗る前に飯塚から借りた護身用のスタンガンを取り出し、通り魔の横腹にお見舞いした。すると通り魔がナイフを落とした…が、当たり所が悪かったのか気絶はしていない。
「…ってえなあ、何しやがんだこのガキが!!」
通り魔が逆上しつつナイフを拾おうとするが、それよりも先にみやこが素早い足さばきで自分の元に手繰り寄せ、通り魔からナイフを奪っていた。
「糞っ…覚えてやがれ!!」
形成不利と見たのか通り魔は捨て台詞もほどほどに一目散に逃げ出した。
「勝った…んだよな?俺たち…」
「ええ、そうね…」
緊張が解けると同時に疲れがどっとこみ上げてきて俺たちは2人して地べたにだらしなく座り込んだ。
「どうだ、みやこ。俺たちのどちらが見た予知夢とも違う結末…俺たちが協力して通り魔の野郎を打ち負かした未来になったぜ…」
「そうね…でもテル怪我しているわよ?ハンカチ貸そうか?」
「ああ、これぐらいどうって事ねえよ。」
「どうってことない訳なかろうが!ほら、ハンカチで傷口きびっちゃる(巻いてあげる)きじっとしっちゃ!!」
そういうとみやこはハンカチを左腕の患部に巻き付けてくれた。相変わらず感情が高ぶると方言混じりの荒い語調になる。
「それより、警察を呼ぼう。あと救急車も…」
「そ、そうね、ちょっと待ってて、今呼ぶから...」
「そう言えば何でスタンガンなんて持ってたの?」
みやこが警察と救急を待っている間に聞いてきた。
「ああこれ?飯塚から借りた。」
「ふーん...借りた理由についてはなんとなく想像つくけど、何で飯塚くんがそんなもの持ってたの?」
「お姉さんが貸してくれたんだと。なんでも元カレさんに復縁をしつこく迫られて追い払うために使ったらしい。」
「...飯塚くんのお姉さんどげんなっちょうと?...」
みやこが思わず素(方言)で呟いた。本当にどうなってんだよあいつの姉さん...
「おい、みやこ!!」
みやこが僕が声をかけるや否やその場を立ち去ろうとしたため、僕は追いかけてからみやこの腕を掴んだ。
「ちょっと、放して!」
「みやこ、お前に話があるんだ!」
抵抗してるが構うもんか。
「放せっち言いよろうが!!」
「お前の見た予知夢の事だ!!」
「…予知夢?」
ようやくみやこが抵抗をやめた。
「そう、お前が言っていた、俺が通り魔に刺されるっていう夢のことだ。」
「何?フられた腹いせに私をヒステリー女だのメ〇ヘラ女だのと罵るために止めたの?だとしたらどうぞ気の済むまで…」
「俺も見ていたんだよ!予知夢を!!」
「えっ…」
みやこが呆気に取られたように黙り込んだ。
「一番初めに見たのはお前と初めて逢った日だ。その日、俺は夢で転校したばかりのお前と先に出逢っていたんだ。少しとっつきにくそうな雰囲気を感じたけどそれ以上に可愛い娘だと思った。思えば夢で出逢った時からお前に惚れていた。」
「ちょ、ちょっと…意味がわから…」
「それだけじゃない。俺がくだらない賭け事に乗じてお前を昼食に誘ったときも、夢で結果を知っていたから声をかけれた。お前の事を本気で好きになったのもあの時からだ。」
「あの、さっきから話の意味が…」
「お前に告白したときも快く受け入れてくれる事を夢で知っていたからできた。普段の俺ならお前みたいな可愛い娘に告白するなんて絶対にできなかった。」
「もうわかったけん…」
「他にも…」
「もうわかっけんやめりぃ!!あんたが噓を付いちょらんことは良うわかったっちゃ!!そやき…もうやめて…」
みやこの興奮が収まったのを見計らって尋ねた。
「信じてくれるか?みやこ」
「うん、テルを信じる。ごめんね、さっきは急に怒鳴ったりして。ごめんね、いきなり別れ話を持ちかけたりして。ごめんね、理由もまともに話そうとしなくて…テル、大好きだよ。」
いつの間にかみやこは僕に抱きついて泣いていた。僕もみやこの背に手を回し、華奢な身体をそっと抱きしめた。するとみやこはより一段と激しく泣き崩れた。みやこは自分では『無愛想で可愛げのない女』なんて卑下していたが、僕に言わせたら人一倍感情表現豊かな世界の誰よりも可愛いらしい女の子だ。彼女が泣き止むまではこうしておこう。
みやこが泣き止んでから僕は飯塚から聞いた予知夢に関することを全て、そして僕もみやこが刺される夢を見たことを伝えた。みやこは先程と打って変わって青ざめていた。
「どうしたんだ?みやこ。」
なるべく刺激しないように優しい口調で尋ねた。
「テルの話が本当なら、あの夢(テルが刺される夢)を見てから1ヶ月以上は経ってる…」
「なら問題なくないか?」
「でも私は未だに予知夢を見てる。つまり私が見たあの夢は…」
―まだ避けられてない―
一瞬静寂が僕らを包み込む。と同時に2人に緊張が走る。
「なあ、夢に出てきた男は長身細身で、黒っぽい服装に白いマスクをしていなかったか?」
「そこまで覚えてない。でも、背は高かった気がする。」
たぶん例の通り魔で間違いない。夜道で話し合う僕ら…あれ?そう言えば僕の見た夢もこんな感じじゃなかったか?みやこが例の予知夢を見て1ヶ月以上経っても予知夢を見続けている以上、飯塚のデータベースにそぐうという確証はなくなった。ということは僕が見た夢もまだ完全に外れたとは言い切れないじゃないか。
「外はどんな風だった?何でも良い。明るかったとか、暗かったとか。」
「夜道で私たちが何か話していたことぐらいしか…丁度今みたいに…」
振り向くと怪しげな男が立っている。服装は良く分からないが、長身で細身であることはシルエットからでもわかる―通り魔だ。通り魔はみやこ目がけて走り寄ってきた。僕じゃなくてみやこを?じゃあやっぱり僕の見た夢が…なんて考えている場合じゃない!みやこが危ない!僕は咄嗟にみやこをかばうように前に出てみやこの肩を抱えて避けた。その時通り魔の突き出したナイフが僕の左腕を切りつけた。
「くっ…」
痛みを堪えつつ僕は右ポケットに仕込ませていた帰りのバスに乗る前に飯塚から借りた護身用のスタンガンを取り出し、通り魔の横腹にお見舞いした。すると通り魔がナイフを落とした…が、当たり所が悪かったのか気絶はしていない。
「…ってえなあ、何しやがんだこのガキが!!」
通り魔が逆上しつつナイフを拾おうとするが、それよりも先にみやこが素早い足さばきで自分の元に手繰り寄せ、通り魔からナイフを奪っていた。
「糞っ…覚えてやがれ!!」
形成不利と見たのか通り魔は捨て台詞もほどほどに一目散に逃げ出した。
「勝った…んだよな?俺たち…」
「ええ、そうね…」
緊張が解けると同時に疲れがどっとこみ上げてきて俺たちは2人して地べたにだらしなく座り込んだ。
「どうだ、みやこ。俺たちのどちらが見た予知夢とも違う結末…俺たちが協力して通り魔の野郎を打ち負かした未来になったぜ…」
「そうね…でもテル怪我しているわよ?ハンカチ貸そうか?」
「ああ、これぐらいどうって事ねえよ。」
「どうってことない訳なかろうが!ほら、ハンカチで傷口きびっちゃる(巻いてあげる)きじっとしっちゃ!!」
そういうとみやこはハンカチを左腕の患部に巻き付けてくれた。相変わらず感情が高ぶると方言混じりの荒い語調になる。
「それより、警察を呼ぼう。あと救急車も…」
「そ、そうね、ちょっと待ってて、今呼ぶから...」
「そう言えば何でスタンガンなんて持ってたの?」
みやこが警察と救急を待っている間に聞いてきた。
「ああこれ?飯塚から借りた。」
「ふーん...借りた理由についてはなんとなく想像つくけど、何で飯塚くんがそんなもの持ってたの?」
「お姉さんが貸してくれたんだと。なんでも元カレさんに復縁をしつこく迫られて追い払うために使ったらしい。」
「...飯塚くんのお姉さんどげんなっちょうと?...」
みやこが思わず素(方言)で呟いた。本当にどうなってんだよあいつの姉さん...