第10話
文字数 1,813文字
このあと、例の通り魔は落としたナイフの指紋が決め手となりあえなく御用となった。お手柄高校生、なんて言われて僕らも町のちょっとした有名人になったんだけどそれはまた別の話。そうそう、長いこと入院していた八幡も無事退院したらしい。もっとも、僕の入院と入れ違いでだけど。入院と言っても幸いにも傷は然程深くなく、1週間もすれば退院できるほどだった。退院後もしばらくは通院が必要みたいだけど。深刻な怪我じゃないから心配ないって言ったのにみやこは毎日来てくれた。そう言えばみやこもあれ以来予知夢は見なくなったんだとか。代わりに妹さん(みやこに妹がいたことも何気にこの時知った)が予知夢を見るようになったみたいだけど、特に何事も起こらない事を祈ろう。
最後の話は通り魔に襲われた次の日の入院先の病室での僕らのやりとり。
「別に1週間ぐらい会えなくても問題ないだろ?」
「1週間も会えないなんて寂しいよ...」
少々意地悪気に言った僕に対してこの反応。転校してきた頃に比べると随分印象も丸くなったものだ。初めて逢ったときはとてもこんな可愛らしい―そして少々あざとい(今風の意味で)―事言う娘には見えなかった。反応が可愛いのでもう少しからかってみよう。
「こっちは1ヶ月以上ろくに口も聞いてもらえなかったけどな。」
「何?まだ根に持ってるの?」
今度は流石に少々不機嫌そうに返ってきた。だがこちらにだって理由が理由とは言えそれぐらいの不満を垂れる権利はあるはずだ。
「お前に口を聞いてもらえなかった1ヶ月間は本当に辛かったんだぞ?」
これは紛れもなく事実だ。"辛かった"なんてありきたりな言葉じゃ形容しきれない程の虚無感と悲痛に僕の心は蝕まれていた。そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、みやこが糸島さんとのことについて愚痴をこぼした。
「…そっちだって糸島さんに浮気してたくせに。」
「あれは浮気には入んねえだろ。」
あれは不可抗力と言う奴だ。だから僕は悪くない。うん、悪くない。
「入るっちゃ!卵焼き食べよったくせにこの浮気もんが!次他の女に色目使ったら許さんきの!!」
こちらの主張は速攻で却下された。女性の読者諸兄に問います。他の女の手料理を食べる事はそんなに罪深いことですか?
「…で、どうだった?糸島さんの卵焼き。私のより美味しかった?」
続けざまに少しすねた様子でみやこが聞いてきた。
「正直に言おう…お前のより100倍美味しかった。」
「酷い言い草ね。そこは噓でも私の方が美味しかったって言いなさいよ。」
なおもみやこはふてくされたままだ。
「この際だから言うけど、お前の卵焼きは甘すぎて食えたもんじゃないんだよ。」
「正直に言いすぎ…もう少しオブラートに包んだ物言いはできないのかしら?」
言い過ぎだという自覚はあったので、この辺で詫びも兼ねて称賛の言葉もかけよう。
「でもお前の卵焼きは糸島さんのの100倍好きだ。」
と言っても本心から言えることとしてはこれぐらいの言葉しか浮かばなかった。
「何それ…」
「噓はついてねえよ。」
呆れ口調のみやこに少々気取ってみせた。何だか可笑しくなって2人して笑い合ったのはその少し後のこと。
「なあ、みやこ。」
「ん?どうかした?」
恐る恐る気になっていたことを聞いてみた。
「俺さ、前にお前とのことを予知夢で知っていたから食事にも誘えたし、デートにも誘えたって言ったよな?幻滅とかしなかったか?」
みやこが少し間を開けてから言った。
「そりゃあ…思うことがなかったと言えば嘘になるけど、それでも、通り魔から私をかばってくれたのは自分の判断でしたことでしょ?きっともう私たちは予知夢なんてものに頼らなくてもやっていけるわよ。」
全くもってその通りだ。予言や占いの類のような曖昧で不確かなものを過信してはいけない。未来は自分自身で如何様にも変えられる。僕らにはそれほどの力がある。
「ああ、だからこれからは等身大の俺自身の力でお前を幸せにしてみせるよ。まあ少しぐらい格好つけたりして背伸びぐらいはするだろうけどさ。」
僕は少しおどけて見せた。
「ええ、期待しないでおくわ。」
みやこがいたずらっぽく笑みを浮かべながら返した。
「それでさ、みやこ。」
「ん?今度は何かしら?」
最後にもう1つだけ、1番言いたかった―そして1番聞きたかった―ことを言おう。
「もう一度僕と付き合ってください。」
「ふつつか者ですがよろしくお願いします。」
―fin―
最後の話は通り魔に襲われた次の日の入院先の病室での僕らのやりとり。
「別に1週間ぐらい会えなくても問題ないだろ?」
「1週間も会えないなんて寂しいよ...」
少々意地悪気に言った僕に対してこの反応。転校してきた頃に比べると随分印象も丸くなったものだ。初めて逢ったときはとてもこんな可愛らしい―そして少々あざとい(今風の意味で)―事言う娘には見えなかった。反応が可愛いのでもう少しからかってみよう。
「こっちは1ヶ月以上ろくに口も聞いてもらえなかったけどな。」
「何?まだ根に持ってるの?」
今度は流石に少々不機嫌そうに返ってきた。だがこちらにだって理由が理由とは言えそれぐらいの不満を垂れる権利はあるはずだ。
「お前に口を聞いてもらえなかった1ヶ月間は本当に辛かったんだぞ?」
これは紛れもなく事実だ。"辛かった"なんてありきたりな言葉じゃ形容しきれない程の虚無感と悲痛に僕の心は蝕まれていた。そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、みやこが糸島さんとのことについて愚痴をこぼした。
「…そっちだって糸島さんに浮気してたくせに。」
「あれは浮気には入んねえだろ。」
あれは不可抗力と言う奴だ。だから僕は悪くない。うん、悪くない。
「入るっちゃ!卵焼き食べよったくせにこの浮気もんが!次他の女に色目使ったら許さんきの!!」
こちらの主張は速攻で却下された。女性の読者諸兄に問います。他の女の手料理を食べる事はそんなに罪深いことですか?
「…で、どうだった?糸島さんの卵焼き。私のより美味しかった?」
続けざまに少しすねた様子でみやこが聞いてきた。
「正直に言おう…お前のより100倍美味しかった。」
「酷い言い草ね。そこは噓でも私の方が美味しかったって言いなさいよ。」
なおもみやこはふてくされたままだ。
「この際だから言うけど、お前の卵焼きは甘すぎて食えたもんじゃないんだよ。」
「正直に言いすぎ…もう少しオブラートに包んだ物言いはできないのかしら?」
言い過ぎだという自覚はあったので、この辺で詫びも兼ねて称賛の言葉もかけよう。
「でもお前の卵焼きは糸島さんのの100倍好きだ。」
と言っても本心から言えることとしてはこれぐらいの言葉しか浮かばなかった。
「何それ…」
「噓はついてねえよ。」
呆れ口調のみやこに少々気取ってみせた。何だか可笑しくなって2人して笑い合ったのはその少し後のこと。
「なあ、みやこ。」
「ん?どうかした?」
恐る恐る気になっていたことを聞いてみた。
「俺さ、前にお前とのことを予知夢で知っていたから食事にも誘えたし、デートにも誘えたって言ったよな?幻滅とかしなかったか?」
みやこが少し間を開けてから言った。
「そりゃあ…思うことがなかったと言えば嘘になるけど、それでも、通り魔から私をかばってくれたのは自分の判断でしたことでしょ?きっともう私たちは予知夢なんてものに頼らなくてもやっていけるわよ。」
全くもってその通りだ。予言や占いの類のような曖昧で不確かなものを過信してはいけない。未来は自分自身で如何様にも変えられる。僕らにはそれほどの力がある。
「ああ、だからこれからは等身大の俺自身の力でお前を幸せにしてみせるよ。まあ少しぐらい格好つけたりして背伸びぐらいはするだろうけどさ。」
僕は少しおどけて見せた。
「ええ、期待しないでおくわ。」
みやこがいたずらっぽく笑みを浮かべながら返した。
「それでさ、みやこ。」
「ん?今度は何かしら?」
最後にもう1つだけ、1番言いたかった―そして1番聞きたかった―ことを言おう。
「もう一度僕と付き合ってください。」
「ふつつか者ですがよろしくお願いします。」
―fin―