第5話

文字数 2,073文字

 それから程なくして僕と豊前さんは付き合うことになった。告白は僕の方からして、豊前さんも快く受け入れてくれた。
「豊前さん、君のことが好きだ。僕と付き合ってください。」
「私なんかで良ければ。」
 割と淡泊な受け答えだったがOKという事に変わりない。女の子に告白なんて初めてだったから受け入れてもらった時は嬉しくて嬉しくて柄にもなくスキップしそうになった…と言いたいとこだけど実は予め夢で見ていたから然程でもなかった。ちなみにこの事は飯塚と八幡には黙っていたがどこからか漏れ出てしまったらしい。そのせいかこいつらからは”お祝い”と言う名目の肩パンを喰らわされた…冗談にしては結構痛かったぞお前ら。

 そんな僕らのある日の昼休みの会話。
「ところでさ、豊前さん。」
「前から思っていたんだけど、お互い苗字で呼び合うのやめない?」
 豊前さんに話の腰を折られ、そして彼女は続けた。
「もう私たち恋人同士なんだからさあ、下の名前で呼び合おうよ。」
「じゃあ、みやこ…」
「何かしら輝仁…ちょっと長いわね、”テル”で良いかしか?」
「GL〇Yのボーカルかって。」
「別に良いでしょ?何なら名前も結構似てるし。」
 ちなみにTE〇Uの本名は小橋 照〇(こばし 〇るひこ)(wikipediaより)。
「て言うかG〇AY好きなんだな。」
「作者がね。それで何の用かしら?テル。」
「ああ、そうだった。それで今度の…」
「やあお熱いねえお2人さん。」
 またも話の腰を折られた。今度は飯塚と八幡に。
「行橋、今度の大型連休なんだけどさ…あ、もしかしてその話を豊前さんとしてた?」
「正確には今からしようとしてた。」
 八幡に対して若干嫌味っぽく返した。
「だから言ったろ?行橋は豊前さんと一緒にいるだろうから誘わないでおこうって。」
 後から飯塚も口を挟む。
「せっかくだし要件を話したら?私は後でも構わないわよ?」
 みやこが飯塚と八幡に促した。きっと彼女なりに気を使っているのだろう。
「ああ、最近良い釣り場見つけてさ、連休中に1回ぐらい一緒に行こうぜ。別にずっと豊前さんと一緒って訳でもないだろ?それだけ言いにきた。」
「まあ1回ぐらいなら。」
 八幡の問いかけに対してそう答えた。僕らには釣りという共通の趣味があり、そのおかげで腐れ縁もとい友情が芽生えたのだ。
「じゃあそういう訳だから、1日だけ彼氏を取っちゃうことになるけどごめんね。」
 飯塚が頭の上で手を合わせつつ冗談交じりにみやこに言った。
「別に構わないわよ。男同士の付き合いも大事だものね。」
 あんたは長年連れ添った女房か。
「あら、夫を縛る悪妻よりは夫を自由にさせる良妻の方が良いでしょ?」
 たぶん良妻は自分からそんな事言わない。あと僕の心を勝手に読むな。
「じゃ、日程が決まったらまた教えるから。あんまり豊前さんを”誘惑”するなよ、テル。」
 またも飯塚が冗談半分にからかってきた。
「そうだぞ、強引に”口唇”を奪ったりすんじゃねえぞ、テル。」
 八幡、お前もか。
「あら、私は別に100万回ぐらいしてくれても構わないわよ?」
 みやこまで…
「あら、男同士の会話に女はかたっちゃ(加わったら)いけなかったかしら?」
 そういう問題じゃない。あと”100万回”の下りはファンじゃないとたぶんわからない。それと他人の心を当たり前のように読むな。

 とまあこんな感じで僕は親友2人にいじられつつ、そして彼女に少々弄ばれつつも充実した日々を送っている。彼女ができたからと言って飯塚や八幡との関係が特段変わることもなかった。みやこも最初こそ周囲(特に女子)から敬遠されていたが次第に僕ら以外とも打ち解けていった。そして僕らの仲も日に日に深まっていった。それに比例して甘さを増していく卵焼き。甘いのはみやこと相思相愛という事実だけで十分だ。

 そうそう、予知夢のことだけど、あれからも相変わらず見ている。内容は大体が学校で飯塚や八幡と駄弁っていたり、みやこと一緒にいるところだけど。で、大方夢の通りに動けばだいたいのことが上手くいった。逆に夢と違う選択をした場合は…実は最初(みやこが転校してきた時)にやったらみやこの反応が悪かったから、怖くてあまり―というか全然やってない。ともあれ予知夢のおかげでその日のみやこの機嫌とかいつ何をすれば良いかとかがある程度は予めわかるから少なくともそっちの方は上手く行っている。何だかズルい気もするけどそれを言うならイケメンだってズルだし、僕は生まれてこの方そうモテた方じゃないからこれぐらいは多めに見てくれ。

 一方できな臭い話もある。前に男性が通り魔に刺されて死亡した事件があったけど、同一犯のものと思われる新たな被害者が出たんだ。その人は女性で、前回の男性と同様に帰宅途中に襲われたらしい。場所はまたしても隣町。幸いにも軽傷で済んだらしいが、やはり気味は悪い。ちなみに女性の証言によると通り魔は瘦せ型で長身、黒っぽい服装に白いマスクをつけていたらしい。それでも対岸の火事だろうと僕は高を括っていた―みやこが通り魔に刺される夢を見る前までは。
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