第1話

文字数 1,250文字

 僕は今日ある夢を見た。春休み明けの新学期早々にある少女が僕のクラスに転校してきた、という夢だ。夢の中の少女は一言でいうととっつきにくそうな娘だった。背は中程度で若干痩せ気味、胸も大きくはない。後ろに束ねた背の中程までありそうな髪は綺麗で顔立ちも整ってはいるが、如何せん釣り目気味で目つきについては褒められたもんじゃない。
「豊前(とよまえ)さんはお父さんのお仕事のご都合で今日からこのクラスで学ぶことになった。じゃあ、自己紹介してもらえるかな?」
 担任の中洲先生がそう促すと”豊前さん”は淡々と自己紹介を始めた。
「福岡県から来ました、豊前 みやこです。以後よろしくお願いします。」
「じゃあそういうわけだから豊前、行橋(ゆきはし)の横が空いているからそこに座ってくれ。行橋も別に問題ないよな?」
 偶然にも僕の隣だ。
「せんせ~い。どうせなら行橋じゃなくて俺の隣にしてくださいよ~。」
 お調子者で小学校からの腐れ縁の飯塚が冗談半分に抗議した。こいつのことだから単に僕をからかいたいだけだ。
「お前の隣が女子になったら今以上に授業をサボるようになるだろ。」
 飯塚の抗議が先生に一蹴されるとクラスは笑いに包まれた。そんな状態でも笑み一つ浮かべずに豊前さんは僕の隣に来て一言。
「君が行橋くん?よろしくね。」
「う、うん、こちらこそ。」
 思っていたよりも気さくそうだ。正直もっと怖い娘だと思っていたから一安心した。夢で安心するのもおかしな気もするが。
「おいおい行橋、緊張してるなら俺が変わってやろうか?」
 飯塚がまたからかってきた。あの野郎…
「余計なお世話だ飯塚。その…ああいうやつでごめん…」
「いいえ、気にしてないわ。素敵なお友達ね。」
「いいや、あいつとはただの腐れ縁です。」
 彼女があらぬ誤解をしたようなのですかさず訂正した。
「おいおいひでえぞ行橋、小学校からの仲じゃねえかよ。先生、俺行橋くんにフられました。」
「だからって俺に言い寄るなよ?」
 お調子者が先生にもフられたところでクラスにまた笑いが起きた。今度は心なしか豊前さんも笑っていた気がする。

 覚えているのはここまで。

 『昨夜、○○県××市の路上で男性が血を流して倒れているのが発見されました。発見当時はすでに意識はなく、搬送先の病院で死亡が確認されました。なお、警察の調査によると男性の体には数箇所に刃物で刺されたような傷があったとのことです』
 新学期の朝から嫌なニュースが耳に飛び込んできた。何でも隣町で会社帰りの男性が通り魔に襲われたらしい。
「やだ、ここって隣町じゃない。あなた、くれぐれも今夜は早く帰ってきてね。輝仁(てるひと)も友達と遊ばないですぐ帰ってくるのよ?」
「分かってるよ、母さん。」
 母親というのは心配性なものだ。まあ事件が事件だけに心配になるのも無理ないが。ともあれ朝食も済んだことだし学校に行くとしよう。それにしても今日の夢は何だか妙に現実味を帯びている気がした。夢に出て来たあの娘、まさか本当に転校生だったり...するはずないか。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み