第7話

文字数 1,780文字

 それからというもの学校でみやことあってもろくに会話もなかった。その方がお互いのためだ。八幡がいないためか飯塚も依然に比べるとふざけることもなくなり、気を使ってか僕にもあまり構わなくなった。反対にクラスの女子の何人かは僕に構ってくれるようになった。願ってもないタイミングでモテ期が訪れた訳だ。普通ならこれは喜ばしいことなのだろう。だがみやことの絶縁のショックから立ち直れずにいた僕はちっとも喜べなかった。寧ろ鬱陶しく感じてたほどだ。話を戻すと、女子たちの中でも糸島さんと言う娘は特に僕に頻繁に話しかけてくれた。
「ねえ行橋くん、映画のチケットが1つ余っているんだけど、今週末一緒に観にいかない?」
 映画鑑賞かあ、そう言えばみやことも映画を見に行く約束してたっけな…
「悪いけど今週末は滅多に会えない親戚が来ることになってるんだ。」
 親戚が来るのは本当だ。滅多に会えないってのは誇張したが。
「そ、そう…あ、そうそう、卵焼き作ってみたんだ。良かったら食べてみて。」
 卵焼きかあ、そう言えばみやこの卵焼きは甘すぎてとても食べれたもんじゃなかったな。特に断る理由もないのでお言葉に甘えて口へ運んだ。美味しい。きちんと塩気も感じられて、それでいて焼き加減も丁度良い。でも…
「甘くないな…」
「ご、ごめん…甘い方が良かった?じゃあ、明日はお砂糖多めにしようかな。」
 こんな感じで心はどこか上の空で毎日を脱け殻のように過ごしていた。

 もうしばらく夢は見ていない。

 糸島さんが僕に構うようになってから1週間後、僕を見かねてか飯塚が問い詰めて来た。
「お前、良いのかよ?あれ。」
「あれって何の事だよ?」
 僕が問い返す。
「糸島さんのことだよ。彼女、明らかにお前に気があるみたいだけど放っておいて良いのかって聞いてんの。」
「ああ、そのことか…仮にお前の言う通り糸島さんが俺に気があったとしても、糸島さんと付き合う気はねえよ。」
「ほう、何でだ?糸島さん、別に悪くないだろ。可愛いし、胸もデカいし。」
「お前は女の顔と胸しか見てないのか…良い悪いなんて理由じゃない。何て言うかさ、こんな事言うと女々しいなんて言われるかも知れないけど、俺、やっぱりまだみやこの事が好きなんだわ。だから、半端な気持ちで付き合うのは糸島さんにも失礼だと思う。」
 この言葉に嘘はない。僕は今でもみやこが好きだ。こんな形で―どっかのイカれた通り魔のせいで僕らの恋が終わるだなんて認められるもんか。
「ふ~ん、お前みたいなのを生真面目って言うんだろうな。ま、上手い事やりゃ復縁できる日も来るんじゃねえの?向こうが他の男になびいてなきゃな。あとケツも見てるぞ。」
 心臓に悪い事は言うな。それとお前は痛い目を見ろ。励ましとも冷やかしとも取れる言葉を聞き終えた後、飯塚がさらに続けた。
「そうそう、今週末釣りに付き合え。ちょっと話があるんだ。」
「それってここじゃ無理な話か?」
「ああ難しいね。」
 僕の牽制に対して飯塚は訳あり気に返してきた。
「いいけど今週末は親戚が家に来ることになってんだ。来週末じゃダメか?」
「わかった。じゃあ来週の土曜な。」
 そんな訳で強引に釣りの約束にこぎつけられた。そうそう、糸島さんだけど、結局それからさらに1週間ほどこんなやりとりが続いて、その後ぴたりと僕に話しかけなくなったんだよね…女って皆こうなのか?

 そして迎えた釣り当日。話がある、と言った割に道中のバスの中では飯塚は当たり障りのない話題しか振って来なかった。僕がせかしても他人がいるからとの理由で断られた。他人に聞かれちゃまずいってことは…予知夢のことだろうな。そんなこんなで場面は目的地であった池に移る。

「で、話ってなんだよ。」
 釣り針を垂らしながら飯塚に問い質した。
「その前に質問があるんだけどさ、お前、前に豊前さんが通り魔に刺される夢を見たっていったろ?あれから予知夢を見たか?」
 予想通り予知夢についての話らしい。
「いいや、全くだな。それどころか夢らしい夢もしばらく見てない。」
 "やっぱりな"、僕の返答に対して飯塚は確かにそう反応した。
「やっぱり…て、お前もしかして予知夢のことを何か知っているのか?」
 僕は咄嗟に聞き返した。そして飯塚からは思いもしなかった返答がきた。
「ああ、知っているとも。だって俺も少し前まで予知夢を見ていたし。」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み