第3話

文字数 1,782文字

 結論から言うと飯塚の予告通り僕は頻繁に予知夢を見ることになった。その日の夢の中で豊前さんは昼食時に昨日にも増して質問攻めに遭っていた。
『福岡県って美味しいものが沢山あるって聞いたけど何がオススメ?やっぱり豚骨ラーメン?』
「私の地元周辺で言うと肉うどんとかぬか炊きとかかな。それと豚骨ラーメンは場所によって味がマチマチだし、有名な博多のは薄くて期待外れ感が否めないから個人的にはあまりオススメしない。」
『おすすめの観光スポットとか教えてよ。』
「小倉か博多にでも行ってみたら?小倉はともかく博多は滅多に行くことがなかったから良く知らないけど。他の所だと例えば…田川って所に明治期に造られた大きな煙突があったはず。」
『方言喋ってみてよ。福岡県ってことは博多弁?』
「良いけど、地元そっちの方やないけん博多弁はそげん知らんっちゃね。はい、これで満足?」
 などと馬鹿げた質問に対して淡々と(そして少々嫌々そうに)答える豊前さん。転校生に対するある種の通過儀礼である。
「あの、私そろそろお昼食べたいんだけど。」
 豊前さんが落ち着いた、それでいて重みのある口調でそう言うと大半の生徒が黙り込んだ。
「「じゃあさ、最後に…」」
 それでも食い下がる馬鹿が若干名、まあそいつらは飯塚と八幡なんだけど。そしてそれはもう一人いた。僕だ。
「豊前さん、この馬鹿たちは放っておいてお昼一緒に食べに行こうよ。」
「ええ、良いわよ。お友達は本当に誘わなくて良かったかしら?」
 意外にも豊橋さんは僕の誘いに乗ってくれた。
「おい行橋、ずるいぞお前だけ抜け駆けしやがって!」
「まあまあ、邪魔してやんなって。決まりは決まりだ。」
 八幡が怒り出したのを飯塚が諫めてくれた。それにしても抜け駆けとは何のことだろう?まあ大方の予想はつく。どうせこの馬鹿2人が(僕を含む)3人の中で誰が一番に豊前さんを昼食に誘うか、とか持ち掛けてきたんだろう。

 今回の夢はここまで。

「…と言う訳でだ、俺らの中で誰が1番最初に豊前さんを昼飯に誘えるか競おうぜ。」
 案の定休憩時間に飯塚が馬鹿な勝負事を持ち掛けてきた。
「お、良いなあそれ、じゃあ誘えなかった奴は誘えた奴にジュース1本な。」
 八幡が便乗したことで、はた迷惑なゲームから悪質な賭博に発展した。
「あの…それって俺も頭数に含まれてる?」
「ああそりゃあもちろん。」
「自分だけ逃げれると思ったか?」
 一応確認すると2人して親指を立てつつ同調圧力をかけてきやがった。その親指へし折ってやろうか?
「だいたい飯塚は豊前さんみたいな娘は好みじゃないんじゃなかったか?」
 昨日僕が見た夢の話を聞かせたときの(夢の中の)豊前さんへの反応を元に取り敢えず飯塚に牽制してみた。
「まあ俺も最初はそう思っていたんだけどさ、実際に豊橋さんを見てみたら何て言うか、ああいう年不相応の大人っぽさというか、ミステリアスな雰囲気を纏う女子も悪くないなあって思い始めたんだよ。魔性の女ってやつ?」
 異性の好みってそんな簡単にぶれるもんかね?それに別に峰 不○子って感じではないだろ。少なくとも胸は。
「俺は取り敢えず女子とは面識持っておくようにしているから。」
 八幡が割り込んできた。将来女に刺されたりするなよ?
「そういう行橋だって豊前さんみたいなのはどうなんだよ?」
 飯塚が先程のお返しとばかりに聞き返してきた。正直なところ豊前さんとは夢の中で出逢ってまさか現実でも逢えるとは思わなかったから意識はしている。というよりここまで運命的な、それこそまるで小説のような出逢いをしていて意識しない人はまずいないだろう。実際彼女は同年代の女子に比べると落ち着いていて、ある種の色気とも言える大人びたオーラを纏っている。そうかと思えば案外気さくで、見た目も少々目つきが悪いのと胸が少々貧相なところ(これは好みの問題だが)を除けばこれといって目立った欠点はない。
「どうって、別に...」
 それでも素直には答えられず強がってしまうのは男の性(さが)か、僕は特に関心のないフリをした。フリをしただけで本心ではこの中の誰よりも豊前さんを意識している自信があった。
「"別に"って、お前は沢〇 エリカか。」
 〇物中毒者はやめろ。
「よし、決まりだな。恨みっこナシだぜ?」
 そんな訳で昼食に豊前さんを昼食に誘うことになった…あれ?既にデジャブ?
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