四大天使のバレンタイン おまけ(2021-2 バレンタイン)

文字数 1,309文字

ラファエルがミカエルの部屋に呼び出されることが決まってしばらくした後のお話。

「それでラファエル、いつ頃戻るつもりなのかしら?私の部屋に来てから随分経つようだけど」
「んーもうそろそろ大丈夫かな?あまり遅すぎるとまたカプシーヌが心配しちゃうし」
ラファエルはひょいと立ち上がり部屋から出て行こうとしたが、ふと何かを思い出したのかミカエルの方を振り向いた。
「そうだ、ミカエルは誰に渡すつもりなの?」
「あぁ、それはゼルエル達に——」
「違う違う、棚の奥の方にしまってるやつのこと」
「……え?」
ミカエルは硬直する。ガブリエルもぴくりと手が止まる。
「だいぶ前から置いてあるみたいだけど、どうしたのかなと思ってさ。ほら、今日はバレンタインでちょうどいい機会だからもしかしたらと思ってね」
「あ、いや……」
言い淀むミカエルにお構いなくラファエルは続ける。
「でも誰なのかわかんないんだ。丁寧にラッピングされてるから自分用ではないとは思うんだ。ミカエルもそういうことはあんまりしなさそうだしね。ゼルエル達は別でもう渡してるから違うよね。それにずっと前から置いてある理由にもならないもん。そうすると、誰かに渡そうと思っていたけど渡せなくなった?だとしたら誰なのかな。昔ミカエルの周りにいて今はいなくなった天——」
「ラファエル」
ガブリエルの静かな声が響き渡る。ラファエルはキョトンとして振り向いた。ガブリエルはミカエルを一瞥した後、ラファエルに告げた。
「そろそろ部屋に戻ったほうが良いんじゃないかしら?これ以上ヘミエルとカプシーヌに迷惑をかけるのも考えものよ?」
ラファエルは目をパチクリさせていたが、なにか合点がいったようだ。
「——うん、そうだね。ありがとうガブリエル!」
颯爽と駆けていくラファエルの後ろ姿を見てミカエルは小さく一息をついた。ガブリエルはそれを見逃さなかったが、あえて追及するようなことはしなかった。
「すまん、助かった」
「ラファエルだからフォローできたようなものよ?次からは言い訳くらい考えておきなさい」
身もふたもない意見にミカエルは言い返すこともできない。ミカエルは苦虫を数匹噛み潰したような表情で部屋から出ていこうとした。そしてドアを開ける直前、一言ガブリエルに尋ねた。
「……女々しいと思うか」
「えぇ」
非常に冷たくあしらわれたミカエルはムッとした。普段から反りが合わず常に言い争いをする相手ではあるが、まさかここまで直接否定してくるとは思わなかった。
「お前——」
「ですが」
ミカエルの文句をガブリエルが遮る。
「ミカエル、あなたらしくていいと私は思いますよ」
思わぬ言葉にミカエルは毒気を抜かれたようで、一言「そうか」と言って立ち去った。一人部屋に残ったガブリエルは考える。まさかミカエルが未だにプレゼントを持ち続けているとは思っていなかった。だが、それだけの思いを持っていたということなのだろう。ガブリエルは度々ミカエルの感情的な行動を諌めるが、それは別に感情を排せということではない。公私混同さえしなければ、どのように考え感じようと個人の自由だ、とガブリエルは思うのだ。

……例えそれが、天界最大の裏切り者に対してであったとしても。


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