第247話 灰燼のゴウカ
文字数 1,796文字
リリス達が、暗く、どんどん狭くなっていく地龍の中、一本角の犬のあとを付いていく。
松明の火の光も吸収されるのか、火はあるのにどんどん暗くなって行く道に、皆の心が不安で鉛のように感じていた頃、フッと急に辺りが明るく照らされた。
「あれ?出られたんでしょうか?」
「そのようだな、ここは覚えがある。」
リリスが明るく振り返ると、皆が一様にホッとした顔に見える。
守られているのか、捕らわれているのかはっきりしない状況は、奇妙なストレスで心臓に悪い。
気がつくと、あの一本角の犬は消えていた。
「あの犬どこに行ったんでしょうね。」
「さあね……さて、犬よりも。……で、どうするかね?巫子殿。
いきなり放り出されても、どちらが出口かどこにいるのかもさっぱりだな。
……ここは城の下なのか、それとも……?」
ガーラントが腰に手を置き、一息を付く。
辺りを見回すが、地龍の姿などどこにも無い。
動く音さえ聞こえないのは不気味でもある。
あれは本当に地龍だったのかという疑問は後で考えるとして、城の地下にいる状況は変わらないのだ。
「ここがどこであれ、私が指輪を感じるのは…向こうです。
行くにしても、出口の方向は確認しておく必要はありますね。
その手段があればの話ですが……」
リリスはまた目を閉じ、スッと右を指す。
通路の前を見ても後ろを見ても同じような暗闇が続く。
どちらが奥になるのか出口になるのか、とりあえずホムラを見る。
ホムラが頼られたことに少し驚き、ゴウカに目配せすると、ゴウカがうなずきリリスの前に来て頭を下げた。
「ゴウカの名は身を滅ぼす火の意だそうです。
この力だからこそ、その名が付いたと思いますが、リリサレーン様はそうでは無いと仰せでした。
様子を見て参ります……驚かれるな、ごめん。」
リリスにそう語り、床に伏した。
ゴウカの身体が一瞬影が消えて真っ白になり、ぼやけて見える。
そう感じたのは目の錯覚では無い、彼の身体は突然灰のようになり、風も無いのにサッと通路の両方へと散っていった。
灰は瞬く間に通路の隅々まで飛び、扉を見つけるとそのスキマから別の通路へ侵入して一瞬で戻る。
その灰のような粒子一つ一つに意思があるのか、ゴウカ自身にもわからない。
灰のように別れても、彼は一人なのだ。
まるで通路を俯瞰 してみるような彼の目が、現在地を確認する。
そうして通路すべてを把握して、一時もたたずまたリリスの元へと戻ってくる。
リリスの前で灰がらせんに巻き上がると、人型になりゴウカの姿を成してリリスに膝をついた。
「お見苦しい物をお見せ致しました……ですが、状況は把握出来ました。
御手で指されたのは通路の奥、現在地はこの通路の入り口から8割ほど来たところでございます。
恐らくは城の中央、やや魔導師の塔があった場所に近いかと思われます。」
ゴウカは一息にそう告げ、目を閉じて動けなかった。
しんと、空気の温度が下がったように感じる。
この力のせいで、子供の頃から親にでさえ疎まれた。
灰の塊で生まれ、身体は灰のまま性別さえも無く、子供の頃は眠っていると部屋中に散らばる。
自分は一体何なのかと悩み苦しみ、それでも生きている証に、なんとか人型を保つことを覚えた。
そして、両親は彼の行く末を案じ、御方様…ガラリアに相談した。
ガラリアは、灰なれば火の神殿に相談しましょうと。
彼はガラリアに連れられて火の神殿へと赴いたのだ。
それが、彼の人生を大きく変えた。
彼を一目見るなり、リリサレーンは言ったのだ。
「まあ!あなたは火種ね、灰の中に煌々と力強い命の明かりが見えるわ」
リリサレーンの言葉は、うつうつとした自分の心を洗い流したようだった。
そうして、彼は火の神殿で修行を積み、燃えさかるゴウカの名を与えられた。
業の火では無く、業さえ燃やす、剛の火であれと。
ああ……今世の巫子よ、あなたは私を見てなんと言うのでしょう。
気味が悪いと仰っても構いません。
私を避けられても良いのです。
私は、…それでも私は、ひっそりとあなたに仕えましょう。
私は火の巫子を、今度こそお守りする為にと生き延びたのです。
皆が息をのみ、言葉を選ぶ。
ホムラが目をそらし、探るような目でリリスを見た。
バケモノと、何度その言葉を聞いてきただろう。
この子も我らをそう言うのだろうか……
リリスも無言でキョロキョロと皆の表情をうかがっている。
子供には荷が重いかと息を吐いた時、ずいとリリスがホムラに顔を近づけ首を傾げた。
松明の火の光も吸収されるのか、火はあるのにどんどん暗くなって行く道に、皆の心が不安で鉛のように感じていた頃、フッと急に辺りが明るく照らされた。
「あれ?出られたんでしょうか?」
「そのようだな、ここは覚えがある。」
リリスが明るく振り返ると、皆が一様にホッとした顔に見える。
守られているのか、捕らわれているのかはっきりしない状況は、奇妙なストレスで心臓に悪い。
気がつくと、あの一本角の犬は消えていた。
「あの犬どこに行ったんでしょうね。」
「さあね……さて、犬よりも。……で、どうするかね?巫子殿。
いきなり放り出されても、どちらが出口かどこにいるのかもさっぱりだな。
……ここは城の下なのか、それとも……?」
ガーラントが腰に手を置き、一息を付く。
辺りを見回すが、地龍の姿などどこにも無い。
動く音さえ聞こえないのは不気味でもある。
あれは本当に地龍だったのかという疑問は後で考えるとして、城の地下にいる状況は変わらないのだ。
「ここがどこであれ、私が指輪を感じるのは…向こうです。
行くにしても、出口の方向は確認しておく必要はありますね。
その手段があればの話ですが……」
リリスはまた目を閉じ、スッと右を指す。
通路の前を見ても後ろを見ても同じような暗闇が続く。
どちらが奥になるのか出口になるのか、とりあえずホムラを見る。
ホムラが頼られたことに少し驚き、ゴウカに目配せすると、ゴウカがうなずきリリスの前に来て頭を下げた。
「ゴウカの名は身を滅ぼす火の意だそうです。
この力だからこそ、その名が付いたと思いますが、リリサレーン様はそうでは無いと仰せでした。
様子を見て参ります……驚かれるな、ごめん。」
リリスにそう語り、床に伏した。
ゴウカの身体が一瞬影が消えて真っ白になり、ぼやけて見える。
そう感じたのは目の錯覚では無い、彼の身体は突然灰のようになり、風も無いのにサッと通路の両方へと散っていった。
灰は瞬く間に通路の隅々まで飛び、扉を見つけるとそのスキマから別の通路へ侵入して一瞬で戻る。
その灰のような粒子一つ一つに意思があるのか、ゴウカ自身にもわからない。
灰のように別れても、彼は一人なのだ。
まるで通路を
そうして通路すべてを把握して、一時もたたずまたリリスの元へと戻ってくる。
リリスの前で灰がらせんに巻き上がると、人型になりゴウカの姿を成してリリスに膝をついた。
「お見苦しい物をお見せ致しました……ですが、状況は把握出来ました。
御手で指されたのは通路の奥、現在地はこの通路の入り口から8割ほど来たところでございます。
恐らくは城の中央、やや魔導師の塔があった場所に近いかと思われます。」
ゴウカは一息にそう告げ、目を閉じて動けなかった。
しんと、空気の温度が下がったように感じる。
この力のせいで、子供の頃から親にでさえ疎まれた。
灰の塊で生まれ、身体は灰のまま性別さえも無く、子供の頃は眠っていると部屋中に散らばる。
自分は一体何なのかと悩み苦しみ、それでも生きている証に、なんとか人型を保つことを覚えた。
そして、両親は彼の行く末を案じ、御方様…ガラリアに相談した。
ガラリアは、灰なれば火の神殿に相談しましょうと。
彼はガラリアに連れられて火の神殿へと赴いたのだ。
それが、彼の人生を大きく変えた。
彼を一目見るなり、リリサレーンは言ったのだ。
「まあ!あなたは火種ね、灰の中に煌々と力強い命の明かりが見えるわ」
リリサレーンの言葉は、うつうつとした自分の心を洗い流したようだった。
そうして、彼は火の神殿で修行を積み、燃えさかるゴウカの名を与えられた。
業の火では無く、業さえ燃やす、剛の火であれと。
ああ……今世の巫子よ、あなたは私を見てなんと言うのでしょう。
気味が悪いと仰っても構いません。
私を避けられても良いのです。
私は、…それでも私は、ひっそりとあなたに仕えましょう。
私は火の巫子を、今度こそお守りする為にと生き延びたのです。
皆が息をのみ、言葉を選ぶ。
ホムラが目をそらし、探るような目でリリスを見た。
バケモノと、何度その言葉を聞いてきただろう。
この子も我らをそう言うのだろうか……
リリスも無言でキョロキョロと皆の表情をうかがっている。
子供には荷が重いかと息を吐いた時、ずいとリリスがホムラに顔を近づけ首を傾げた。