第240話 巫子のなり損ない

文字数 1,961文字

アデルが、あの崩れた塔の方向を指さす。

「地下道の中のあの方向。
昔から、ここだけは調べること叶わなかった場所だ。」

ああ!ニードがポンと手を叩く。

「魔道師の塔の真下だろ?
知ってるぜ、何度か行ったけど壁抜けも出来なかった。
なんかなあ、こう言い表せないというか、凄い気持ち悪い結界があって、恐らく塔の魔導師の力とか関係する封印があったんだと思う。
塔が崩れたことで、その術が崩れて、中がだだ漏れてきたというか、なんというか……」

「それだ。中に何が封じられているのか、我らに知る手立てが無い。」

地龍と繋がるアデルの言葉に、ルークが腕を組む。

「なぜ?封印は破られているのだろう?
地龍が支配する地面の中で、通れない場所があるのか?」

「封印は宝物を守る為だと聞かされていた。
元々契約で、城での地の精霊は色々なことに縛られている。
それはほとんど人間に分がある様になっているのだが、ヴァシュラム様がそう決められている以上、眷族は逆らうことは出来ない。
禁を破ると消滅を意味する。
それに封が半分も機能していない今は、中にある気が悪すぎる。
中に触れると地龍さえ闇落ちしそうな毒が詰まっていると言った方がわかりやすかろう。」

毒と聞いて、ニードが驚く。
気軽に探索を楽しんでいた彼は、そこまで恐ろしい物があるとは思っていなかったのだ。

「俺入らなくて正解だったか。
そう言えば以前話したそこ探ってた女のミスリル、あれ王妃の側近だったぜ。
どっかで聞いてきたんだろうなあ。まあ、毒気には気づいてないようだったけど。」

腕を組み、ルークが目を閉じる。

毒……それほどの毒を持つ物、吐き気がするほどの。
だが、あれはあの剣から感じていた物では無かったのか……
青の巫子を殺した王子は……

ルークが記憶を何度も思い返す。
思い返したくも無いあの時の記憶。

だが、王子に普段から接していたわけでも無い自分には、何が変わっていたかなど思いつかない。
王子とはご兄妹であったリリサレーン様は何を仰っていたか……

もうすでに300年近くも前のこと、だが、自分は13年前に目覚めたばかりなのだ。
まだ小さかった自分は、ミスリルであるのに子供のように大切にして頂いた。
お二人の会話は、昨日のことのように思い出されたのに、どうして最近遠いのだろう……

だが、その時ふと、ずっと心に引っかかっていたのだろう一言が浮かんできた。

『王家の血を受けたればこその、両極端か……』

ルークが目を開き顔を上げる。

「長、なにか?」

シャラナがめざとく声をかけた。

「いや……なんでも……」

彼らに自分の出自が知られるのはまずいと、言葉を濁す。
だが、時は一刻も無駄に出来ない状況で、アデルがニッコリ微笑み近づいた。

「うんうん、わかるよみんなに言いたくないんだね?
じゃ、僕がルークの話を聞いてあげる。さ、どうぞ。」

ガラリと態度を子供に戻し、アデルが小馬鹿にして耳に手を当てる。
ルークがムウッと眉をひそめ、気遣い無用と手で遮った。

「昔なにかの書物に、王家について書いてあったのを思いだした。
王家の血を受けた者は、時に両極端であると。
巫子が生まれる血筋ならば……」

「つまり……巫子も生まれれば魔物も生まれるって?
私、……それ、聞いたことあるわ。

先々代の時代に、巫子の兄弟になり損ないがいたと。
巫子のなり損ないは精気が中途半端に強いから魔物を引きつけやすい。

それに多くは巫子の親族だけに、羨望から反感を持つ者が多い。
先々代の時は、取り憑かれたように民衆を扇動し、農村の湖や川の関を壊して洪水を起こし、水不足を招いて大変な飢饉を起こすところだったと、そう言い伝えが残っているわ。」

シャラナが即反応してくれた。
ルークがホッとして大きくうなずく。

「そうだ、普通はそう言う者は伝え聞いて神殿の関係者が自分の元へ導くのだが、今は地と水しか神殿が無い。
見落としも多い。
だが、あの時代は違う。しかし相手は王子だ、そのような進言も難しい。
と、言うことは、あの塔の下には王子の亡骸があるのか?」

「まさか、王子は王家の墓に……確か墓石はあったはずだぜ?」

ニードを遮り、アデルがひときわ険しい顔になった。

「待て、眷族に墓を調べさせる。調べるだけなら墓あばきにはならん。」

アデルも、考えたことも無かったのだろう。
当たり前だ、城の下にいにしえの王子の遺体が封じられているなど、誰も考えない。
ルーク自身、考えもしなかった。

「火の巫子たちはどうなってる?」

「無論大丈夫だ、だが、一行にはミスリルが付いている。
そろそろ気がつく頃だ、使徒を向かわせる。」

アデルが目を閉じ、うつむいた。
それで何か指示を送れるのか、ルークたちは無言で見守る。
シンと、皆の息づかいだけが部屋を満たす。

一時置いて、ようやく彼が目を開けた。
アデルが、見たことも無い顔でニヤリと、総毛立つように笑った。
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